表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/55

第二部 二十一話

恵が帰ってからも、眠ったままの彼を側でずっと眺めていた。


ふと彼の身体に触れると熱く感じた。


苦しそうに汗をかく彼を見ながら体温計を持ってくると測る。

37度8分…これは熱があるようだった。


アイスノンを買ってくると枕の上に乗せてやる。

お粥も用意するが目が覚めないと食べれない。


昼ごろにやっと目を覚ましたのでお粥を食べさせて再び夢の中へ。


あたふたと慌てる俊にははじめての看病だったかもしれない。

いつもは健康そのものだった荒太が風邪ひいた俊を看病する事はあっても

その逆は滅多にない。


こんなに弱りきったのは全てが俊自身が招いた失態なのだ。


「ごめんな…ずっと心配させたままで。恥ずかしくて、荒太が酔い潰れた

 時にしかいえなかったんだ…」



長い夢を見ていた。

俊の腕の中で散々抱かれて、痛いけど気持ちよくて…でもどこか他人事の

ようだった。


『このまま消えてなくなれたら…』


「それでいいのか?」


見上げるとそこには自分そっくりな顔があった。


「いいよ、このまま消えて無くなるか?もう未練はないんだろ?」


『違う…そんな事…ない』


「お前は何を望むんだ?」


『俺の望みは…まだいたい…一緒に居たい』


自然と瞳が濡れていく。

最近は特に涙もろくなった気がする。

それも全部俊のせいだ。

いつになく悲しくて辛い涙が、今は違う。

無くしたと思っていた人の心はいつも自分の側にあって、監禁するほどに

自分は思われていた事に酷く安心した。


すると全身に痛みを感じ始めてその場に蹲った。


『いっ…痛い…』


「生きている痛みが嬉しいか?なら戻ればいい。後悔しないのなら今すぐ

 に立ち去れ!」


自分そっくりの何者かの声に言われるがまま光が満ちていき目が覚めた。

ベッドの横にはもたれかかっている俊の姿があった。

首もとにはアイスノンが敷かれ、額には濡れたタオルが熱を持っていた。


もぞもぞと動くと俊が飛び起きるように目覚めると開口一番に抱きしめ

てきた。


「熱があるけど、辛いか?お粥食べるか?」

「…うん」


荒太は頷くと自然と泣き出していた。

なんでこんなに悲しくないのに止まらないのかわからない。

今の俊が荒太だけを見ているという事が嬉しいのか、それとも優しくされる

のに慣れていないせいか…。


両腕を伸ばすと強く抱きしめてくれる事が荒太には一番『嬉しい事』だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ