第二部 二十一話
恵が帰ってからも、眠ったままの彼を側でずっと眺めていた。
ふと彼の身体に触れると熱く感じた。
苦しそうに汗をかく彼を見ながら体温計を持ってくると測る。
37度8分…これは熱があるようだった。
アイスノンを買ってくると枕の上に乗せてやる。
お粥も用意するが目が覚めないと食べれない。
昼ごろにやっと目を覚ましたのでお粥を食べさせて再び夢の中へ。
あたふたと慌てる俊にははじめての看病だったかもしれない。
いつもは健康そのものだった荒太が風邪ひいた俊を看病する事はあっても
その逆は滅多にない。
こんなに弱りきったのは全てが俊自身が招いた失態なのだ。
「ごめんな…ずっと心配させたままで。恥ずかしくて、荒太が酔い潰れた
時にしかいえなかったんだ…」
長い夢を見ていた。
俊の腕の中で散々抱かれて、痛いけど気持ちよくて…でもどこか他人事の
ようだった。
『このまま消えてなくなれたら…』
「それでいいのか?」
見上げるとそこには自分そっくりな顔があった。
「いいよ、このまま消えて無くなるか?もう未練はないんだろ?」
『違う…そんな事…ない』
「お前は何を望むんだ?」
『俺の望みは…まだいたい…一緒に居たい』
自然と瞳が濡れていく。
最近は特に涙もろくなった気がする。
それも全部俊のせいだ。
いつになく悲しくて辛い涙が、今は違う。
無くしたと思っていた人の心はいつも自分の側にあって、監禁するほどに
自分は思われていた事に酷く安心した。
すると全身に痛みを感じ始めてその場に蹲った。
『いっ…痛い…』
「生きている痛みが嬉しいか?なら戻ればいい。後悔しないのなら今すぐ
に立ち去れ!」
自分そっくりの何者かの声に言われるがまま光が満ちていき目が覚めた。
ベッドの横にはもたれかかっている俊の姿があった。
首もとにはアイスノンが敷かれ、額には濡れたタオルが熱を持っていた。
もぞもぞと動くと俊が飛び起きるように目覚めると開口一番に抱きしめ
てきた。
「熱があるけど、辛いか?お粥食べるか?」
「…うん」
荒太は頷くと自然と泣き出していた。
なんでこんなに悲しくないのに止まらないのかわからない。
今の俊が荒太だけを見ているという事が嬉しいのか、それとも優しくされる
のに慣れていないせいか…。
両腕を伸ばすと強く抱きしめてくれる事が荒太には一番『嬉しい事』だった。




