第二部 十九話
ドアの向こうで聞いていた俊が勢いよく入ってきた。
「俺が愛しているのは池上荒太なんだ…」
はっきりと今度は聞こえる様に言った。
「嘘はいいよ。俺は俊にとってただのセフレだろ?それでもいいって俺が
思ってるんだからいいよ。俊には恵と幸せになって欲しい。俺が願える
のはそれだけだから…」
「違うんだ!本当に好きなんだ。何度も荒太に言ったけど…その度に初め
て聞いたって言って朝には忘れていたよな?」
「えっ、………!あれって俺が見た夢だろ?毎回俊に告白される夢を見る
ようになって…俺の願望だって…」
赤くなると俯いてしまった。
「ねぇ〜お互い誤解があると思うんだ。ちゃんと話し合おうよ!」
恵が言うとしばらくして荒太も頷いたのだった。
事情を知ると何の事もないのだが隠されていたせいで荒太は自分は捨てられ
ると思ってしまい、言われる前に自分からいなくなろうと決意したのだ。
その際に泣き腫らしたところを山村教授が現れて人のいないところへとホテ
ルへと連れ込まれたのだった。
その時の荒太は自暴自棄になっていたのもあって山村教授を誘ったのは事実
だった。
しかし山村教授は乗ってこなかった。
傷ついてボロボロの荒太には一切手を出さなかったのだ。
後日揶揄われたのだが、余裕のなかった荒太にはストレスが溜まってたせい
か過呼吸を起こして運ばれたというのが実際の理由だった。
そのあとは恵と俊のやりとりを聞いて納得した。
「ちゃんと僕の事は荒太くんに言ってよって言ったんだよ!」
「言える訳ないだろ?荒太が出て行ったらどーするんだよ?」
「むしろ、言わないから出ていかれたんじゃん!」
恵の指摘が正しかった。
「そう言えばさ〜荒太くんって俊くんからちゃんと誕生日祝ってもらってた?
すっごく気になったんだよね〜」
「物は貰わないようにしてたかな…お揃いとかは…別れた時に辛いから…だか
ら…で祝って貰ってた…」
荒太の言葉に恵が怒りを露わにして俊を睨みつけてきた。
「ホテルでセックスってどーゆー事!?」
怒鳴る恵に言い訳でもするように俊が言葉を言おうとしたが、その前に捲し立
てられた。
「それは…」
「煩い!喋るな!変態!強姦魔!そもそも丸一日もしてたら痛くなるでしょ!
受け側の負担はそんな軽くないんだからね!分かってる!?」
「はい…でも…」
「言い訳はしない!」
ぴしりと話を打ち切った。
そんな久しぶりの会話に荒太は少しホッとしたような気分になったのだった。