第二部 十六話
気晴らしにと思い俊は外へ出た。
もう荒太はここから出すつもりはない。
ずっと閉じ込めてしまえばいい。
あの箱のように、ガムテープで何も見えないように、自分だけの大事な宝物
のように…。
荒太が去ってから自分の考えが怖いと思う時がある。
誰にも渡したくないという独占欲がこんなにも強かったなんて初めて知った。
恵と付き合っていた時はこんな風ではなかった。
そのはずだった。
夕方までうろつくとふとペタンッ、ペタンッと音がして靴の裏がペロンと剥が
れかかっているのに気がついた。
玄関に戻ると代わりの履くものを探したが履けそうなものは草履くらいだっ
た。
まぁいいかと諦めて草履を出すと、奥に何かが押し込まれていた。
「こんなのあったっけ?」
引きずり出すと下に紙切れが落ちて来た。
箱の中身は靴で、俊のサイズと一緒だった。
「どうして…?」
買った覚えのない靴に気を取られていると落ちた紙を拾い上げた。
封筒から出すと荒太の文字が見えた。
そんな時、ちょうどドアが外から開けられると恵が目の前に立っていたの
だった。
「俊くん…ちゃんと話はできた?」
恵が帰ってからまる一日が経っていた。
目線を逸らすと俊に恵は怒ったように畳み掛ける。
「俊くん!いい加減に現実を見なよ!荒太くんはどこ?」
「…いない」
「嘘…ちゃんと言わないとここで警察を呼ぶよ?それでもいいの?」
「風呂場…」
「なっ…まさか…」
俊の静かな声に、恵は靴を脱ぎ捨てて風呂場へと向かった。
ドアを勢いよく開けるとロープで腕を縛られ、足はガムテープで固定さ
れた荒太を見つけた。
流石にこれには唖然となった。
ここまでするのか!…と。
解くがぐったりとしていて起き上がろうとはしない。下着もつけていな
いし、漏らしたのか下はぐっしょりと濡れていた。
風呂場にはわずかにアンモニア臭がしていてすぐに脱がせると身体を洗
ってやった。
その頃、俊はというと荒太の書いた手紙を読んでいた。
俊へ
誕生日おめでとう。
これが最後になるだろうからありがたく使えよ!
俊と恵が会っているって事は随分前から知ってたんだ。
お前がいつもソワソワしてた時はきっと会いに行く日だったんだろう?
別にそれを責めるつもりはない。
付き合おうって言い出したのは俺で、恵を見つけるまでって約束だったから
後悔なんてしないつもりだ。
もし欲を言えばもっと一緒に居たかった。
俺の初恋はこれで終わりって分かってるから。お前が言い出しにくいのは分
かってる。身体の関係を持ったせいで言えないんだとしたら俺からいおうと
思う。
今までありがとう。俺たちこれで、別れよう。
もう連絡もしないで欲しい。
電話番号も変えるから消してくれ。
これ以上俊を見たくないし、一緒にいるのは辛すぎるんだ。
俺の事を少しでも思ってくれるなら、二度と話しかけないで欲しい。
それが最後のお願いだ。
俊おめでとう、それと…さようなら。
恵と仲良くしろよ。
と書き添えられていたのだった。