第四話
また珍しくもない光景を見る事になった。
卒業する前にと先輩が俺らの教室へと来ると植田を呼び出したのだった。
「あのっ、用事ってなんですか?」
「卒業する前に言っておきたかったの。私ね、俊くんの事…」
「悪いんですけど、俺付き合ってる人がいるんです。すっごく大事に思ってる
ので、そういう話ならお断りします。」
「えっ…えぇ。はい…」
女子を断ったのは初めての事だった。
側で聞いていた荒太もぞくっとした。
こんなにはっきりと言える奴だったっけ?
戻ってきた俊は何も変わらないいつもの俊だった。
「どうだって?」
「うん?なんでもないよ。俺には大事な恋人がいるって言ってきただけ」
「そっかー、偉い偉い。」
恵に撫でられて嬉しそうにする俊を見ると何も声が出なかった。
「荒太どうしたの?」
「荒太くん?」
「あーちょっとな…はははっ。あんまり人前でそういうのは控えろよ〜。
誰もがそういう関係を認めてくれるわけじゃないんだからさ〜。家でだ
けにしとけよな〜」
「そうだな」
「うん、わかった。」
何も変わらない日常に非現実的な日常が混ざる。
友人同士のイチャイチャが見たくないのは俺自身だ。
このままは流石に耐えられない。
それからは何度も女子からの誘いが増えた。
勿論、荒太にではない。
仲がいいという理由で俊の恋人は誰なのかを知りたいだけなのだろう。
「池上くん、ちょっといい?」
「忙しい」
「ちょっと話がしたいだけだって〜。いいでしょ?」
「…どーせ、俊の恋人の事だろ?」
「なんだ〜分かってるじゃん!誰なの?ここの生徒?」
「言わねー!!絶対に教えねーからな!」
「何よ!ケチ!池上最悪ー!」
「なんとでも言え!」
毎回のやり取りにうんざりしてきた。
「荒太くん、大丈夫?」
「あぁ、気にすんなって。恵の方はどうだ?結構言われるだろう?」
「う〜ん、そんな事もないかな…俊くんが側にいるし…」
「そっか、それならよかった」
「うん…荒太くんは本当によかったの?僕達が付き合ってて…」
少し遠慮がちに言ってくる恵に笑顔で肯定してやる。
「当たり前だろ?大事な親友の事で反対するわけないじゃん。俺は俊も、
恵も幸せならそれでいいんだよ!な?」
「うん、ありがとう」
「ほらっ、さっさと掃除終わらせて俊のとこ行くぞ!」
恵はもしかしたら荒太の気持ちに気づいているのかもしれない。
でも…今更言える訳ない!
この気持ちは死ぬまで封印するんだと覚悟を決めると俊の待つ場所へと
向かった。