第二部 九話
いつも側にいた人間がいなくなるとこんなに広く感じるのかと部屋の
中を眺めた。
ここで、ずっと一人で暮らすと思うと自分でも信じられないくらいに
耐えられそうになかった。
「俺ってこんなに一人がダメだったっけ?」
いつも友人という友人は荒太くらいで、それ以外はただ話しかけてくる
だけの存在だと思っていた。
何をするにもいつも横にいるのは荒太で、思っている事は大体察してく
れるし、嫌がりそうな事は絶対にしなかった。
どんな言葉を言っても、嬉しそうに聞いてくれたし、恵がいなくなって
ポッカリ空いていたはずの穴もいつのまにか忘れるほど楽しく過ごして
いた。
夜を一人で過ごすのはもう、嫌だ…。
「どうしてこんな時にいないんだよ…いなくなるなよ」
ピンポーン。
インターホンの音でハッとなるとすぐに玄関へと向かった。
ドアを開けるとすぐに抱きしめていた。
「俊くーん、苦しいんだけど〜」
「…恵?」
「こんなところを荒太くんに見られたら誤解ってだけじゃ済まないよ〜」
「ご、ごめん。」
「いいって。それでどうなの?仲直りのできた?連絡返さないから心配
になってきちゃったよ〜」
俊は話しを聞いてほしいと言うと部屋に招き入れた。
「僕がいていいの?」
「あぁ、荒太はもう…いないから…」
「ん?一体何があったのさ?」
あの日に恵に相談して仲直りをしようと帰った時にはもう居なかった事。
そして携帯もメールも既読がつかない事。
大学に行ったが、今も会えていない事などを話した。
「それで諦めちゃうの?」
「嫌だ…あいつを手放したく無い」
「ふ〜ん、僕の時と違ってそう思っちゃうわけだ〜」
「あの頃とは違うだろ?」
「まぁ〜ね。でも、そうやって思えるって事はいい関係だったんだね〜」
「…そうだったのかな?俺は最近まであいつの好きなものも知らなかった
んだよ…ずっと紅茶が好きだって思ってて、ケーキはショートケーキで
って思ってた。」
俊が情けないような顔で話し出すと、恵が笑い出していた。
「あははははっ、傑作じゃん!それ僕の好みだね!荒太は違うでしょ、紅茶
は苦手そうにしてたよ。当時もね」
「えっ…それは…」
「見ていなかったんだね!僕だけを見てくれてたのは嬉しいけど、今付き合
ってる相手の事もちゃんと見てあげなきゃ嫌われちゃうよ?」
「…それがこの結果なのかもな…」
恵は部屋の中をゴソゴソと物色しながら見て回った。
するとガムテープでぐるぐる巻きの箱を見つけた。
「この箱なに?」
「箱?なんだこれ?…俺のじゃ無いな〜」
「開けてみよっか?」
好奇心で恵が言うと俊は承諾した。
何重にも貼られているせいかなかなか取れない。
そこまで厳重にしたい理由はなんなのだろうとおもうと余計に気になった。