第二部 四話
荒太の前に立ち塞がるようにしてくる俊を睨みつけると横を通ろ
うとするが、すぐにまた立ち塞がってきた。
「もう、いい加減にしろよ。俊には関係ない事だろ?」
「関係ないなんて誰が決めたんだ?自分の恋人を変態と二人っき
りになんてできるかよ!」
「…もう、いい加減にしてくれよ!!」
全く退く気のない俊に対して苛立ちが募ると声を荒げていた。
荒太がこんな風に怒るのも久々だった。
ずっと何があっても我慢してきたから、怒ることさえ最近ではなかっ
たから余計に俊は驚いたのだった。
「そんなに迷惑か?」
「あぁ、迷惑だよ。俺が誰とどこにいようが関係ないだろ?いちいち
詮索するなよ!」
その一言で、力なく道を開けた。
その隙に横を通ると靴を履いて出て行った。
重いドアが閉まる音で我に帰ると、俊はすぐに後を追ったのだった。
荒太の足取りはとても重かった。
行きたくないと思いながらも、たどり着いたのは昨日のホテルの前
だった。
「よく来てくれたね。待っていたよ。さぁ〜入ろうか?」
「待ってください。スマホ…返して下さい。」
荒太が一歩下がると山村教授は何も言わずに荒太のスマホを取り出し
て見せる。
「これ、欲しいんでしょ?なら、昨日の続きをしようか?」
「続き…それってどう言う…」
何を言っているのか分からない。
記憶も朧げで、起きた時に上半身が裸だった事しか分からない。
まさか、本当に?
怖くて思い出せない。
「まさか…俺は…」
「昨日は楽しませてもらったけど、途中で落ちちゃったからね。今日は
その続きがしたいんだよ。不完全燃焼だからね?」
「うそっ…ぅっ…かはっ…ぁっ…」
真昼間でホテルの前で話す事ではないのだが、今の時間人通りが少なく
閑散としていた。
それでも、揉めているのを見れば野次馬も集まってくる。
なので早く中に入りたかったのだが、そうもいかなくなった。
本当はちょっと揶揄って返すつもりだったのだが、予想以上に顔色が悪
くなっていく。荒太の様子がおかしい事に気づいて肩を抱き寄せる頃に
は、首を必死に掻くように苦しみ出したのだ。
息が吸えないという表情に崩れ落ちる身体。
支えようにも意識を手放したせいか自然に倒れ込んでいった。
慌てたように抱き起こすがもう、意識がなくなっていた。
山村教授が慌てて救急車を呼ぼうとした時、影が上からかかると、そこに
は怒りの表情を浮かべた俊が立っていたのだった。