第二部 三話
俊の態度は一環して変わらなかった。
「昨日はどこ行ってたんだ?」
荒太の問いかけに俊は平然と応えてきた。
「荒太を見失っちゃったからそのまま家に帰ったんだけど…荒太は何時に
帰って来たんだ?」
「それは…」
午前3時を回っていたなどとは、言えなかった。
それに目を覚ましたらホテルにいたなど絶対に口が裂けても言えやしない。
それも、相手が山村教授なんて…それを言ったら俊が何をするか…いや、もう
口を出す権利はないのではないか?
俺はもう、俊とは関係ないのだから。
別れるわけだし、もう、誰と恋愛しても誰も咎めない。
咎められる訳はないのだ。
「あれ…俊ちょっとスマホ鳴らしてくれるか?」
「ん?見つからないのか?ちょっと待ってろよ!」
スマホを鳴らすが一向に音が鳴らない。
「鳴らしてるよな?」
「あぁ、家には無さそうだな…どこかに落としたのか?」
「うーん。どこに…ま、まさか…俊、切って!」
そう言った矢先、スマホの呼び出しが通話に変わった。
「はい、こちら池上くんのスマホですけど?」
「なんであんたが持ってんだよ…」
俊の声が一瞬で不機嫌になった。
嫌な予感は的中してしまった。
やっぱりホテルに忘れて行ったのだろう。
それを山村教授が預かっていた訳だが…俊からの着信になぜ出たんだよ!
と心の中で悪態をつくと俊の方を眺めた。
ずっとこっちを睨んでいる。
そもそも教授とホテルに行くハメになったのも全部俊のせいなのに、なんで
そんな目で見てくんだよと思いながらタオルをずらすと視線を隠した。
「それ、荒太のやつなんで返して下さい。」
「いいけど、本人が取りに来たら返してあげると伝えてくれるかな?」
「俺が取りに行くんで、どこに行けばいいですか?」
「ん〜じゃ〜昨日の場所でと使えてくれ。彼なら分かるはずだよ。待って
いるよ」
プツっと通話が切れる音が聞こえてきた。
「荒太、取りに行ってくるから、場所教えて。」
「場所って?」
「山村が言ってたんだよ。昨日の場所で待ってるって。そしたら渡すってさ…」
「俺が…」
「ダメだ!許さない」
「なんでっ…別にいいだろ?」
「場所言えばいいだけだろ?」
意地でも言う訳にはいかなかった。
しつこい俊に時間の指定を聞いたが、何も聞いてないと言われた。
「昨日はどこであの変態と会ったんだよ!」
俊の機嫌がどんどん悪くなっていく気がする。
こんな時に独占欲なんか出すなよ。どーせすぐに振る癖に…。
荒太は立ち上がると着替えて出て行こうとしたのだった。