第二部 二話
泣き疲れて眠ってしまった池上荒太をどうしようかと悩んでいた。
彼の同居人は嫉妬深い彼のようなのできっと泊まって帰れば、何をするの
か心配ではある。
今はまだ心が追いついていないのか、不安定な精神状態の彼をそのまま帰
すのも不安だし、泊めて帰した時に、何をされるかも不安に思う。
スマホで連絡するか?
いや、私が出れば余計にややこしくなるだろう。
起きて連絡してくれると助かるのだが、さっき眠ったばかりなので起こした
くもない。
「もったいない事したかな〜」
せっかく池上を自分のモノにするチャンスだったのに、みすみす逃してしま
った。
しかし、あんな状態の彼を抱いても嬉しくないし、終わった後で気まずいのも
嫌だった。
「起きるまで待つか…。」
そう覚悟を決めるとベッドに寝かせて、山村教授はシャワーを浴びに行った。
シャワーの音が遠くで聞こえて来る。
俊が浴びているのだろうか?
目をそっと開けると見覚えのない部屋にいた。
ベッドに横になっているけど、上半身裸のまま眠っていたらしい。
下は履いているが、記憶が曖昧で覚えていない。
「あれ…俺は…どうしてここに?」
俊が恵と会っている現場を見てしまって、慌てて逃げ出したのだ。
それから…泣きながら彷徨いていたら教授にあって…ホテルに一緒に
入って…あれ?
「うそ…えっ…俺は何もしてない…よな?」
何もしてないと信じたいが覚えていない。
そしてシャワーの音が聞こえている。事後なのか?それとも今から?
怖くてそれ以上は考えたくなかった。
慌てて服と鞄を引っ掴むと逃げるように出ていく。
まだ胸がドキドキして収まらない。
「何も…てしてない。多分…してない、よな…」
家に帰ると玄関に俊の靴があった。
電気は消されていて、寝たようだった。
ベッドに行くと一つ分膨らんでいる。
恵を連れ込んだわけではないらしい。
それでも、もうこの関係は終わりだと思うと、俊の口から聞きたく
なかった。
いつもは一緒のベッドに寝るのに、今日はソファーで寝転がると、
疲れていたせいかすぐに眠気がきて落ちていた。
朝起きるといい匂いがキッチンから匂ってきた。
「おはよう。昨日はどこ行ってたの?ちゃんと連絡してくれないと!
何回も連絡したんだぞ?」
俊はいつものように何も変わらない態度で話してきていた。
「あぁ。そうだな…」
「なんか目が腫れてないか?これで冷やしとけよっ!」
そう言ってタオルを濡らすと当ててきた。
そんなに優しくしないで欲しい。
突き放すなら、もう、優しさなんていらないのに…。