第二部 一話
突然現れた山村教授に驚いて動かない荒太の手を引くと近くのホテルへと
入った。
ビジネスホテルなので男同士でも怪しまれる事もなかった。
「池上くん、一体どうしたんだい?」
「…」
「君はそんな取り乱すような子じゃなかったと思っていたが…何かあったの
かい?なんでも相談に乗るよ?」
「なんでも…ない」
「なんでもない訳ないじゃないか!こんなに目が腫れちゃって〜」
山村教授は備え付けのタオルを濡らすと荒太に渡した。
目の上に当てると冷たくて気持ちがいい。
さっきまでの出来事が嘘のように少し落ち着いた。
自分の感情がコントロールできなかった。
あの二人を見た瞬間から、俊が自分に隠していた事実を知った時から。
もう、自分はいらないのだと意識してしまうと、どうしても涙が溢れ出す。
唇を噛み締めると血が滲んできた。
「強く噛んじゃいけないよ。一体どうしたんだい?私には話せない事なのか?」
「もう…どうでもいいです」
「どうでもいいとは?」
「何もかも…終わりだ…っ…なんで気づかなかったんだろ…何もないのに…」
「えーっと、何を言いたいか分からないんだが…辛い事があったなら、目一杯遊
んでみてはどうかな?今からでも私でよければ付き合うよ?どこか行きたい場
所はないか?」
「…ない…です」
「なら、この近くに水族館があるんだよ。近いし、もうすぐナイト用の照明になっ
て綺麗なんだよ。どうかな?」
「…」
さっきまでいた場所に、しかも別の人と行くなど、行けるはずもなかった。
タオルを落とすと上着を脱ぎ捨てた。
「教授ってさ〜俺としたいって言ってたよね?いいよ…何しても…」
「池上くん?ちょっと待ってくれ、流石に嬉しいけど…こんな状態の君に手を出
すのはちょっと気がひけるんだが…」
止める気はないのか教授のズボンのチャックを下ろすと中のモノを口に咥えた。
必死にやめさせようとするがやめない池上の頬に思いっきり平手打ちをしていた。
パーンッ。
という大きい音と、衝撃で目の前がくらくらしていたが、正気に戻ると大声で泣
き出してしまった。
大の男が人前で大泣きするなんてと思うかもしれないが、荒太にはもう考えるよ
うな余裕などなかったのだった。
教授の胸に抱きしめられたまま、泣き続けると疲れ果てたのかそのまま眠ってし
まった。