第二十六話
俊は荒太を探してキャンパス中を走り回っていた。
いつも荒太と一緒にいるメンバーに聞いても講義までは見たがそれ以上は知らない
と言われてしまった。
サークルのメンバーも見ていなかった。
「電話しても出ないの?」
「それがずっと電波が届かないところにいるようで…」
「ふ〜ん、まぁ、なら待ってれば来るでしょ?ねー君さぁ〜池上の知り合いでしょ?
今日この後どう?こんなイケメン君と一緒に飲める酒は格別だと思うんだよな〜」
「いえ、俺は酒は飲まないんです。あいつが酔ったら連れて帰らなきゃいけないんで」
「えーーーー。介護するにはもったいないよ〜、お姉さんが可愛がってあげるからさ〜」
「忙しいので、これで…」
その場を逃げるように駆け出してきた。
教授の準備室もさっき真っ暗だったからいないのは知っているけど、それでも胸騒ぎは
消えない。
もう一回見に行くかと引き返すと、さっきまで暗かった室内に明かりが灯っていた。
すぐに向かうと鍵は空いていた。
勢いよくドアを開けると中には、パソコンに向かう荒太とその側で書類整理に追われる
教授の姿があった。
「どうした?俊…」
「なんで電話に出ないんだ!」
「へっ…電話?鳴ったっけ?」
鞄からスマホを取り出すと数件の着信が入っていた。
講義を聞いている時にサイレントにしてそのままだったらしい。
それとこの場所が電波が悪い事も原因の一つだった。
俊は荒太の腕を掴むと立ち上がらせた。
「帰るぞ。」
「ちょっと待ってって、今日は山村教授の仕事を手伝うって言ってあったよね?」
「あぁ、だがこんなところに置いてはおけない。すぐに荷物持って帰るぞ?」
「俊…いい加減にしてよ。邪魔するなら一人で帰ってよ」
初めて俊に声を荒げた気がする。
こんな感情的な俊を見たのは子供の時以来だった気がする。
恵を助けに入った時以来だろう。
荒太の鞄を引っ掴むと握った腕に力を込めると引きずるように連れて行こうとする。
「痛いって、痛いから離せって…」
「荒太が言うこと聞かないからだろ?ここに残るのは許さない。今すぐ帰るぞ!」
話をする空気でもなかった。
すると後ろから教授の声が聞こえてきた。
「今日はもう帰っていいよ。また今度やってくれればいいから。ゆっくりでいいよ。
できたらたっぷりとご褒美をあげよう」
「すいません。今日はこのまま帰ります。失礼しますー」
礼儀正しい態度に純情そうな彼に少し悪戯が過ぎたかもしれない。
きっと今頃、どうなっているのだろう?
いっそ別れ話にでもなっているのだろうか?
少しの淡い期待を込めて乱入者へ威嚇のつもりで言った言葉。
彼はどう理解したかな…。