第二十五話
嵐のような男が去って山村教授はホッと一息ついた。
さっきの彼はあの時の人だろう。
池上くんとルームシェアしているというのは彼なのだろうか?
なら、飲み会で迎えに行っているのも?
考え出したらキリがなかった。
「お邪魔しまーす!あ、教授いたんですね〜なんで電気付けないんですかぁ〜
真っ暗じゃないですかぁ〜」
「あぁ、忘れていたよ。頼みたいのはこれなんだ…」
教授が差し出したのはいろんな器具に使った費用や、決算報告や、学会での資料
だった。
忙しくてまとめられていなくて全部が無造作に置かれている。
「これをまとめるって事ですか?」
「あぁ、パソコンにまとめて見やすいようにソフトを活用してくれるとありがた
いんだが…頼めるかい?」
「う〜ん、今日中には終わらないですよ〜?」
「かまわない、鍵は渡しておくから好きな時に来てやって貰えると助かるよ」
「ふ〜ん、分かりました。一週間下さい。まとめるのはいいけど、こっちは時間
がかかりそうなんで…」
早速パソコンを打ち込み出すと順々に片付けていく。
「やっぱり若い子は早いな〜」
「そうですかぁ〜?教授は女子生徒に人気ですし、頼んだから誰でも引き受けて
くれるんじゃないですかぁ〜?」
「そうだね…それでもいいんだけど…私は君の方が興味があるんだが?」
意味深な言葉に振り向こうとすると真後ろに来ていて驚いて椅子から落ちるとこ
ろだった。
「危ないよ?」
「あっ、はい…」
「君は私の噂は知っているのかい?」
「…はい、でもそんな事で人を分けるつもりはないです。俺はどんな趣味でも、好
みでも相手を否定したくないです」
教授の噂を聞いても、態度を変えない彼にますます興味をもつ。
「君がルームシェアしているのは男性かい?」
「えっ…いいましたっけ?」
「いや、君もそうじゃないかと思ってね。辛いだろう?」
「そう…ですね…。でも、それでもいいんです。少しでも幸せだなって思える瞬間
があるのならそれだけで頑張れるんで!」
「もし、辛くなったら私のところにおいで。いつでも歓迎するよ?」
「ちょっ…何を考えてるんですかぁ〜、いいです!遠慮します!」
荒太のすぐそばに腰かけると肩に手を置き、腰の方へと触れていく。
そして避けられると頬に触れると顔を近づけた。
唇が触れそうになった瞬間目の前を手で覆われてしまった。
「それ以上はセクハラですからね!いくら理解をしていると言ってもセクハラは犯罪
です!」
「ガードが堅いな〜」
「緩くするつもりは無いんで」
「彼と別れたら、いつでも待ってるよ。大人の仕方もしっかり教えてあげれるよ?」
「結構です。これ終わったらちゃんと単位下さいね。」
「分かっている。一番優秀だと書いておくよ」
「そこまではいいです」
荒太ははっきりというとしばらく教授の側でパソコンとの睨めっこを始めたのだった。