第二十三話
カフェにたどり着くと一番奥の席に彼は座っていた。
たまたま偶然この前会った彼とは最近メールを何度かする様になって、
たまにこうして会うことも増えたのだった。
「いきなり呼び出しちゃってごめんね〜、荒太くんとは上手くやってる?」
「ん?あぁ、まぁまぁだ」
「そっかぁ〜妬けちゃうな〜」
「…それより用事は?」
「あぁ、そうそう、これね。僕はこっちがお値打ちですっごくオススメだよ。
僕らみたいな人にも気を遣ってくれるし、親切丁寧できっと気にいると思
うよ!」
「あぁ、ありがとう恵。」
俊は恵を見つめると懐かしそうに微笑んだ。
「でも、変われば変わるよね〜。俊が飲み会の迎えに毎回行ってるなんてさ〜
しかも毎回酔い潰れた荒太を背負って帰ってくるなんてさ〜、見てみたいよ〜」
「それはだな〜あいつが不用心すぎるんだ!」
「はいはい」
「今日も教授に呼び出されたからって…そうだ、こうしちゃいられなかったんだっ
た、もう行くからな!」
「うん、ひさしぶりに荒太にも会いたいな〜」
「それは…悪い。あいつは今俺のモノなんだ。」
俊の言葉に少し驚くと恵は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「その言葉ちゃんと言ってあげてね。言葉って言わないと伝わらないから。それ
とこの前頼まれてたやつなんだけどもうすぐ手に入るから、明後日にでも連絡
いれると思うよ」
「あぁ、さんきゅ!」
俊は大学へと戻って行くと山村教授の使っている準備室へと向かった。
そこはまだ鍵がかかっていて誰もいなかった。
「あれ?君はだれだい?」
後ろから教授の声がすると俊は振り返った。
「山村教授ですよね?荒太…池上くんの友人です。今日手伝いを募集してるって聞いた
ので来たんですけど」
「いやぁ〜ありがたいんだけど、池上くんに頼んじゃったからもういいよ。それに君…
私の講義には来たことないよね?」
顔だけはいいと人気の講師だったが、何せ女性には全く興味を持たないからという
理由でゲイという噂の教授だった。
「それにね〜、講義が終わってから頼もうと思っていたから君は帰っていいよ」
「教授はゲイだという噂があるんですけど、本当ですか?」
「君にそれをいう必要があるのかな?」
「それは…」
意地悪い笑みを浮かべると、ポンッと肩を叩いた。
「帰りなさい」
「もし、そうなら…荒太には手を出さないで下さい。もしあいつを泣かせるような
事したら…絶対に許さないんで」
睨みつけると教授は余裕のある表情を浮かべた。
「それは私の勝手だろう?私が何をしようが、それは池上くんが決める事じゃない
のかい?」
「なっ…」
「彼が誘ってくれるなら、乗らないわけにはいかないしね。大人として色々と手ほ
どきをしてあげないといけないかもしれないね〜」
「クソがっ…」
俊は吐き捨てるように叫ぶとそこから離れた。
「最近の若者は口が悪くていけないね〜」
山村教授は部屋の鍵を開けると教材を持って次の講義へと向かった。