第十七話
荒太の誕生日を祝うつもりで行ったはずだったのが、怪我させてちゃ
意味がない。
本人も言わないから全然気づかなかった。
いつからマメができていた?
そういえば最初始めた時は俊もマメを作って痛いからと暫くは数時間
しかやらなかった事を今更思い出した。
「どうしようか〜」
「この近くに釣り堀りあるんだって〜行ってみる?」
「それって、荒太が行きたいのか?」
「えっ…う、うん。行きたいよ?なんで?」
今言われたのも、荒太にとっては初めてだろう。
俊が好きでよく行ったとか話しているのを恵と一緒に聞いていた筈だ。
なら、なんで今更そんな事を言い出すのか分からなかった。
「俺に遠慮してるのか?」
「そんな事…ねーって」
「なら、なんで荒太のしたい事を言わないんだ?怒ってるわけじゃないか
ら…俺は荒太のしたい事や好きな物を全然知らないからさー、誕生日な
のに、何もやってあげられねーのか?恋人だろ?」
俊が言うと、少し戸惑ったような目で見上げてきた。
荒太から付き合おうと言い出したのに、俊がいうと意外そうな目で見てき
たのだった。
「俺たち付き合ってるんだぞ?荒太の事、もっと教えてよ…」
「それは…」
(恵が見つかるまでの期限付きなんだろ?)
荒太は言葉を飲み込むとただ黙って俯いた。
「行きたいところないのか?ないなら帰るか!」
『帰って寮に用意しておいたケーキでも食べるか?』と言いかけるとシャツの後
ろがピンッと引っ張られた。
「行きたいところ…あるから…」
「どこ?」
「…がいい。俊と…に行きたい…/////」
小さな声だったが、確かに聞き取れた言葉は俊にはちょっと意外だった。
「本当にそれでいいのか?」
「うん」
頷く荒太は恥ずかしそうに目線を逸らした。
言われたのはラブホに行ってみたいと言う事だった。
俊は女子と行ったことがあるのでそこまで感動もなければ期待もない。
恵とは家だったから同性同士で入るのは初めてだった。
「でもさ〜ここきてやることって…」
「俊と…最後までシたい…」
荒太の初めての本音で、初めて言った我儘だった。
「それは…」
「できないなら、帰る…」
ホテルの前まで来ると俊の乗り気でないのを感じ取ったのかUターンする。
「待てって…」
荒太の腕を掴むと引き寄せて抱きしめた。
「本当に後悔しないんだな?」
「…うん。俺じゃ勃たない?」
不安そうに見上げて来ると今更にドキッとする。
散々裸の付き合いをしてきた仲だが、本番は今日が初めてだと思うと少し
不安になる。
恵と違って、荒太は本当に初めての体験になるのだ。
覚悟を決めるとホテルに入って行った。