第十四話
俊の誕生日はちょうど日曜だった。
一緒に出かけると街のあちこちを歩きまわったり、自転車で走った。
「恵はどこに住んでるんだろう?」
「いいだろ。どこだってさ。俺らで探そうぜ。俺はどこまでだって付き合っ
てやるよ!」
「ありがとう。荒太。」
笑顔で言われると流石に照れる。
俊とこんな会話がずっとできていたらいいのに…。
恵とは会いたくなかった。
出てきてほしくもない。
ずっと、このまま見つからなければいいのに…。
荒太は自分らしくないと思うけど、それでも願わずにはいられなかった。
「あ、あそこのカフェ入って休憩しようぜ?」
「いいな。行こうか!」
「うん」
二人っきりでいろんなところへいけるし、この時間が楽しかった。
中に入るとひんやりとして気持ちがいい。
「そうだ、これ。俊の時計そろそろ寿命だろ?使えよ!」
「ん?いいのか!ありがとう。一体どうしたんだこれ?」
「おいおい、自分の誕生日くらい覚えておけよ!」
「あぁ、そうだったな〜、忘れてた…」
「誕生日、おめでとう」
荒太から言うと、嬉しそうにお礼を言って時計を早速つけてくれた。
ただ貰ってもらっただけだというのに、嬉しそうにする荒太の頬を
撫でて微笑むと、ポッと耳で赤くして俯いてしまった。
「可愛いな…」
「はぁ〜、可愛くねーし!」
すぐに反論するところは荒太ならではだった。
恵は大人しくて綺麗だった。
いつもどこか怯えているようで守ってあげなければと思っていた。
荒太はその正反対で、元気で社交的。
誰にも気兼ねなく話せて、そばにいて楽しい。
表情もコロコロと変わるので揶揄いやすかった。
イベント事には敏感で俊自身でも忘れてしまっていた誕生日なども必ず
覚えていて、祝ってくれた。
前は恵と一緒に祝ってくれたっけ…。
それを思い出すと、どうしても恵の影を追ってしまう。
東京のどこにいるのかさえ分からない。
どこの高校に通っているのかも教えて貰えなかった。
母親と一緒に暮らしていた恵が父親が来ると言ったあの日。
荒太が帰ってしまい、転校するといったあの日に恵を父親が迎えに来ると
言った。
東京で暮らすと言ったのは父親が引き取る事になったからで、経済的には
裕福になると言っていた。
「どこにいるんだろうな〜」
突然こぼした俊の言葉に荒太の表情が固まる。
「あ、ごめん。荒太の気持ちは嬉しいよ。3人でいた時を思い出しちゃって…」
「うん、そうだよな…絶対見つけような?」
笑って荒太は言ってくれるが、本当はそんな事、微塵も思ってはいなかった。