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第二話 願い

彼らの目の前に現れた男は、目は切れ長で体型はがっしりではなく、ましてや瘦せ細った体という訳ではない。中肉中背で背は高く中世的な男だ。



「天国でも地獄でもないってどう言う事だ?」

「そのまんまの意味ですよ。今、貴方方がいる此処は天国と地獄の間です」


「貴方は一体誰で何者なのですか?」五人が気になっていたことを林が代表として男に質問を投げる

「俺は此処で貴方達みたいに死んだ人間に道案内をしてる。いわば案内人みたいな者ですね」



(ふーん……)



「俺は貴方達の名前やどんな人生を送っていったのかも知っています。


俺は案内人の仕事だけではなく、生前に良い行いをしてきた善人だった人間達の思いや願いなどを聞いて叶えているのです。


貴方方の思いや願いは何ですか?」




(俺は別に良い行いなんて別にしていない。悪い事ばっかしていた人間だったからなぁ…寧ろ俺は地獄行きだろ)



菅野は四人がどんな人生を歩んで来たかは分からないが自身よりは無茶苦茶な人生を送ってはないのだろうと分かってはいたが、自分も善人だった事に驚きながらも願いを思い浮かべていた。

 

 彼らの願いは一つあるが、別に私利私欲では無い。激動な時代を生きていた人間なら誰しも同じ考えていた事だろう。


願いが決まったのか菅野は男に己の願いをハッキリと口に出していた



「俺の願いは、平和な時代で生きたい」

「ほぉ…理由は何でですか?」


「俺らは国同士の戦争に参加していた。お国の為に命を投げ捨てた仲間は星の数程いる! 俺らが生まれる遥か1000年以上昔から何処の国でも争いが起きてた…ずっとそうだった!!


だから、武器も持たず 誰も死なない 人を殺さない場所に行って生きて天寿を真っ当出来る人生を送りたい!」



「俺も隊長と同じ願いです!」

「俺も!」


「俺も菅野君と一緒だ」

「僕も同じ願いです」



(杉田、武藤、鴛淵さん、林さん…)



「なるほど…貴方方の願いは承りました。

平和な世界で生きて天寿を真っ当したいのでしたら、貴方方が生きていた時代から約70年後の日本は如何でしょうか?」



「「「なっ…70年後!?」」」

(生きてたら、俺らジジィじゃねぇか!!)



”約70年後の日本”の言葉を聞いて、杉田が男に質問を投げた。


「な、なぁ…アンタは日本がどうなったのか知ってるのか?」

「勿論です。菅野直さんが亡くなって二週間後に戦争は日本が負けで終止符が打たれました。」



『負け』という言葉で菅野達の表情は悔しがる所か何とも言えない表情だった。市民達は日本は必ず勝つと信じて疑わないだろうが、菅野達は戦場で戦っていた航空兵、戦況で自身の国が不利な状況なのは何となく分かっていた。


(俺が死んだのは8月1日だから…終戦は15日か…運が悪かったな。)



「では、ついてきて下さい」


俺らは言われた通りに男の後ろをついて行った

着いた先には扉がある場所だ。


扉は通常の扉より何十倍、何百倍もデカく(そび)え立っている。


「はぁ…」

「デケェ…!」

「デカすぎるだろう!?」


彼らはその扉のデカさに唖然としたり、声に出していた。


「あの…この扉は一体…?」

「この扉は貴方方が行く70年以降の日本に繋がっている扉です」


(この馬鹿でかい扉が平和な日本に繋がっているのか…)


男は懐から通常よりデカい鍵を取り出し、扉にある鍵穴に挿し扉を開けた



ガチャ…ギィィィィッ!



扉が開いた瞬間、台風かそれ以上の強い風が吹き菅野達は扉の中に吸い込まれた。


「ご武運をお祈りしています。行ってらっしゃいませ!」


男が満面の笑みを浮かべながら手を振ったのを最後に扉がバタンと音を立てながら閉まると、辺りは真っ暗になった。



*


目を覚ますと、菅野達はさっきの柔らかい雲の上ではなく硬い地面に寝そべっていた。


「おっ! 目が覚めたか」


鴛淵と林はもう目が覚めていたが、隣にはまだ杉田と武藤が眠っていて一向に起きる気配も無いため、二人の直属上官であった菅野が二人を叩き起こす事になった。



「おい! 杉田、武藤起きろ!!」


菅野の大声が響いたのか目を覚まし、二人はガバッと勢い良く起き上がり「「おはようございます!」」と三人に向かって敬礼をした。


「もう敬礼はしなくてもいいぞ…」


彼らがいる場所はどうやら山中のようだ。

少し散策してみようと言う事で、少し歩くとじわんりと汗が湧き出てきた。

汗を拭ったりしていたが我慢の限界で、被っていた飛行帽と首に巻いていた絹マフラーを取ると熱った体に丁度いい風が当たり一気に涼しくなる。



後ろを歩いていた武藤が菅野に話し掛けた



「あの、隊長。あの男の言う通り本当に70年後の日本なのでしょうか…?」

「さぁな。俺もよく分からねぇや…」


暫く歩いていると、赤い鳥居の門がある小さな神社があった。

 

人がいないかどうか探したが人っ子一人いなかった。どうやら無人神社のよう 

石段に腰を下ろし、俺らは一言も会話せずボーっと空を見上げる


「こんなにのんびり出来るのは久々だ…こん位の時間には紫電改に乗って命を削って敵機と戦っているのにな…」


そう呟きながら、鴛淵はズボンのポケットからマッチを取り出し慣れた手つきで煙草に火を付けた



 静かでサァッとそよ風が吹き、周りの草木の葉が揺れる音が響き渡った。あまりの静けさにまるで菅野達しかいない世界にいるようだ

俺も煙草を口に咥え、火を付けようとマッチを探そうと懐の中を探していると武藤が…



「あれ?菅野隊長。女の人がいます」



武藤が指さす方を菅野を含めた他三人も顔を向けると此処から遠距離だが髪の長さから見たら性別は女のようだ。女学生みたいなきっちりとした三つ編みでもない。


 女の人は艶のある綺麗な髪の毛をなびかせながらこっちにやって来る。近づくにつれ顔が段々とハッキリ見えた。

その姿は別嬪さんで、あまりの神々しさに圧倒された彼らは咥えていた煙草を地面に落としてしまった。

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