第十話 お洒落な時代
必要最低限の生活必需品…服の他に歯ブラシやバスタオルを買い終わると、一回屋外に止めてある車をトランクに荷物を置いた。
ずっとカバンの中にしまってあったスマホを開くとホーム画面にある時計を見たら、もうお昼の時間になっていたので、もう此処で昼食を取ろうと決まった。
此処のデパートはファミレスや喫茶店が合わせて数店舗しかない。こういう所は東京より都会ではないんだな…と感じる。
昔、栞は仲の良い友人と二人で東京観光しに行った時少しだけデパートに行った事がある。
デパートの名前はもう忘れたが、中は此処よりも広く迷子になりかけたが、飲食店はファミレスや喫茶店など家族が気軽に入れる場所や老舗店などの高級店舗もあった。
『何処で食べようか?』と軽いノリで聞いても、菅野達はまだこの生活に慣れてなさそうだし、戸惑っている場面がある。
「お昼は喫茶店に行きましょう」
そう言うと五人は樋口に任せるとの事で賛成していた。
そうと決まると再び、エレベーターに乗り4階まで行くと飲食店が立ち並んでいる。もう12時を回っているからなのか結構人がいた。その奥にある黒を基調としたお洒落な喫茶店があった。
店の前には店員さんが描いたであろう黒板におすすめのメニューがカラフルなチョークで描かれている。
「そういや、俺喫茶店に入った事ないなー…」とボソッと鴛淵が言った
「え? そうなのですか?」
「嗚呼…喫茶店なんて言葉、耳にはしたくらいで行った事ない。そもそも東京の大都会にしかない店だったな」
「そうですね。戦争が始まってから喫茶店は殆どの店が閉店したと新聞に載ってましたし…」
杉田と林が鴛淵に続いて言う。
(……そういや珈琲豆は高級品だったらしいがコーヒー自体飲んだ事あるのかな?この人達。
珈琲豆が輸入されなくなったからインスタントコーヒーで済ませてたって本で読んだことがあるが……実際どうなんだろう?)
「失礼ですが、珈琲とか飲んだ事ありますか?」
「いや、俺らは飲んだことねぇ。上層部の人間達が飲んでいたらしいが…」
カランカラン
扉に設置されているドアベルが良い音で鳴ると奥から店員がやって来て席を案内してくれた。
席に座ると辺りをちらほら見渡すと栞達以外にも数人客がいる。
片手に飲み物を持ちながら本を読んでたり、学校の課題か仕事なのかパソコンの画面を喰いつくように見ながら打っている私服姿の客、昼食を取ってるグループなど…人それぞれだ。
暫くして、さっきの店員さんが人数分のお水とビニールにくるまれた暖かいおしぼりを持って来てテーブルに置き、「ご注文がお決まりでしたら呼んでください。」と愛想よく笑顔を私達に向けると、戻って行った。
窓際に立ててあるメニュー表を取ると、直さん達が見えるようにテーブルの上に置く。
メニュー内容は珈琲や紅茶など、どの喫茶店にもある普通の内容だった
「何飲みますか?」
「うーん…俺、一回珈琲飲んでみたいな!」
「俺も珈琲!」
「じゃ、俺も菅野隊長と同じ珈琲で」
「私は紅茶で」
「お、俺も林さんと同じ紅茶で」
鴛淵、菅野、杉田は珈琲、林と武藤と私は紅茶を頼む。
「アイスでいいですか?」
「アイス??」
「普通の温かいのじゃなくて、冷たい珈琲や紅茶があるんですよ」
五人は『へーっ』と言うと、『冷たいので』と即決した。
飲み物が決まると、食べ物を選ぶ。
「なぁなぁ、これ何だ?」と庄さんが指さした所にはオムライスの写真が貼ってあった。
「嗚呼、オムライスですね。こっちはナポリタンで、こっちはハンバーグに、トースト…」
「オムライス…? ナポリタン…??」
「ハンバーグ…ですか…」
見た事もない食べ物の写真に五人は興味深々だ。
「オムライスはケチャップライスを薄焼き卵で包んだ食べ物で、ナポリタンは茹でたパスタにケチャップと野菜を混ぜた料理です。どちらとも日本で生まれた食べ物ですよ。
ハンバーグはドイツ発祥の料理で、ひき肉とみじん切りにした野菜にパン粉を混ぜ、塩を加えて卵を入れてフライパンで加熱して固めた肉料理です」
「旨そう…」
「オムライスにしようかな…」
「ハンバーグいいな…」
などワイワイしながら食べ物を選んでる所見ると、微笑ましいな…と栞は思う。
「栞ちゃんは何するか決めたの?」
「うーん…私はオムライスにしようかな」
「じゃあ、俺はオムライス!」
「俺、カレーあるからカレーにしようかな…」
「私はハンバーグで」
等々、自身の食べたい物が決まると呼び出しボタンを押すとさっきの店員さんがハンディターミナルを持ってやって来た。
さっき決めた食べ物を人数分お願いすると、『かしこまりました。』と言いその場を後にして暫く経つと『お待たせしました』とお盆には頼んだ飲み物や料理の数々。
持って来てくれた店員さんに会釈すると、食べ始めた。
初めて此処に来たが、味はどうなんだろ…?? 樋口は先ず頼んだオムライスをスプーンで一口大にすくった。
味は薄焼きにされた卵はふわとしていて濃いケチャップライスと一緒に食べると、丁度良い味付けで美味しかった。アイスティーを付いてあるストローで飲むと、サッパリとしていてオムライスと良い組み合わせだ。
「ん! このオムライスふわっとしてて旨っ!」
「辛いけど美味しい!」
「このハンバーグ…肉汁が出てて美味しですね」
「アイスコーヒーは初めて飲んだけどこれはこれでイケるな!」
*
あっという間に完食した私達は少し休憩した後、お会計を済ませて店を出た。
「はぁ~。美味しかった!」とかねさんは満足そうな表情を浮かべた。
「どうでしたか? 初めて食べた洋食やコーヒーなどのご感想は?」
「珈琲は苦かったけど、オムライス旨かった」
「え~? 菅野。俺、珈琲旨かったんだが」
「紅茶初めて飲みましたけど、日本茶とは違って濃い味でしたが美味かったですよ」
「お口に合って良かったです」
もし五人がいなかったら、あの喫茶店にある美味しいメニューの事すら知らなかっただろうし、そもそもあの喫茶店に入る事自体なかっただろうな…と樋口は考える。
「今日の夕飯の買い出ししたいので、食料品売り場に行きますから手伝ってくださいね」