第一話 運命
「ワレ菅野一番」
彼の名前は菅野直。海軍航空隊所属のパイロットだ
時は第二次世界大戦の真っ只中、彼は国の為に今日も紫電改に乗って戦う。
上層部らが考えた神風特攻隊みたいに零戦に乗って「お国の為に死ぬ」という考えで敵の米軍…現代で言う、アメリカの艦隊に体当たりをするのではなく、敵国の戦闘機と戦っていくのが彼の所属する343空が任務である。
その菅野である男は『部下の為なら命を捧げても構わない』と考えた事もある位仲間思いな性格を持ち合わせている男だ。
時は1945年8月1日。この日 起こった出来事が菅野の運命を変えた
今、屋久島付近を飛んでいるのだが、ここで緊急事態発生した。
「くそっ……! 頼む耐えてくれ!」
突然、彼が何時も乗っている紫電改とは違う紫電改の片翼が筒内爆発を起こし、翼に大穴が空いてしまったのだ。菅野は爆発した片翼に負担が掛からないように機体を傾ける
菅野は設置してある通信機で共に闘っている部下に報告を入れる。
「ワレ機銃筒内爆発ス。ワレ菅野一番」
入電を聞いていたからなのか、上空を飛んでいた部下の堀という男が入電で菅野の安否を確認して来た。
「大丈夫ですか!? 隊長!」
菅野は通信機で堀にこう言い返す。
「俺に構えわず敵を追え。攻撃に備えろ」
「自分が隊長を護衛します! だからそんな事言わないで下さい!!」
そう言っても堀は俺の事が気掛かりなのか一向に敵を追わない、寧ろ菅野が米軍にやられないように護衛すると言い張る。それぐらい菅野の事を尊敬していることが分かる。
(部下がいなくなる姿はもう見たくねぇんだよ……
俺のせいでお前に何かあったらと思うと申し訳ねぇ。頼むから俺の言う通りにしてくれよ…)
菅野は堀が見えるように、窓枠から拳を突き付けて見せ、敵の方向を見ながら堀を睨み付けた。
例え部下が何かをやらかしたりしても怒りを露わにした事がない菅野の姿は人生の中で最初で最後だった。
その姿を見た堀は菅野が言いたいことを察したのか泣きそうな表情で高度を上げ、搭乗している機体が段々小さくなるにつれ菅野はうっすら微笑む
「そう。それでいいんだ」
段々、紫電改の速度が落ちていく。このままでは水面直下に彼もろとも海に墜落するだろう
菅野は『もうここまでなのだ』と悟り、再び入電を入れる。
直筆で遺言を残す事はなく、自身の肉声を言い残す事に決めた。
「空戦ヤメ。アツマレ 諸君ノ協力ニ感謝ス。ワレ菅野一番」
入電した次の瞬間、菅野は紫電改と共に屋久島の海に沈んだ。
音も立てず 爆発もせずに機体もろ共海水に包まれる
(改めて考えると、俺の人生は滅茶苦茶な人生だったなぁ…お前ら待ってろよ。今そっちに行くから)
菅野は人生を振り替えながら目を閉じた。
*
「……う! ……ちょう! ……菅野隊長!!」
(誰かが俺を呼んでいる。一体誰だ?)
「菅野隊長!!」
目を覚ますと菅野は操縦席ではなく雲の上で眠っていた
起き上がり、声がする方へ首を向ける。その声は菅野にとって懐かしい声だった。
「杉田! 武藤! 林さん! 鴛淵さん!」
その声は彼と一緒に紫電改に乗っていた仲間達の声だった。菅野は嬉しさの余り、走って四人の元に駆け寄る。駆け寄った菅野は少し泣きそうになりながらも彼らとの再会に喜びを見せた。
「鴛淵さん達が此処にいるって事は……俺は死んだんだな」
「嗚呼、そうだ。」
「此処は天国なんスか?」
「死んだ私達がいるのでそうかもしれませんね」
杉田が俺に疑問をぶつけた
「あの……大尉。何故大尉は此処に……?」
「まさか、米軍にやられたんじゃ……」
「そんな訳ねぇだろ! 大尉に限ってそんな事はない!」
杉田は武藤が呟いた言葉に認めたくなからだろうか怒鳴った。
「杉田の言う通り、オレは米軍にやられて此処に来たんじゃねぇ。紫電改の左翼が筒内爆発を起こしちまったんだ」
「あの大尉の愛機がですか?」
「愛機じゃねぇよ。別の紫電改に乗っていたんだ」
「堀は無事だったのだろうか…」
「堀? 堀と最後まで一緒にいたのか?」
「嗚呼…一寸ワケあって、アイツに怒っちまったんだ……」
すると、四人が驚きの声を上げた。
今まで上の人間に自分の意見をハッキリと述べるが部下には優しい菅野が怒ったなんて信じられなかったのだ。
「怒ったんですか!? 部下には怒らないあの菅野大尉が!?」
「オイオイ…俺だって怒る時は怒るぞ、武藤。」
「一体何があったんだ?」と鴛淵は聞いてきた。
「実はですね――」
菅野はさっきまでの経緯を事細かに何も知らない四人に説明した。
「隊長らしいですね」
「きっと堀も分かって身を引いたんだろうな」と菅野が怒った理由を聞いて納得した表情を浮かべた。
五人が話し込んでいると中性的な男性の声が響き渡った
「貴方方がいる所は天国でも ましてや地獄でもありません。」
(!? 誰だ? どっから聞こえたんだ?)
彼らは辺りをキョロキョロと見渡すが誰もいない。人影はなく雲一面だった
「おい! 誰かいるのか!?」
「姿を見せろ!!」
姿を見せない誰かの声に、武藤と杉田が大声で叫び返す。
「初めまして」
後ろを振り向くと、いつの間にか声の主であろう男が微笑みながら立っていた。
【参考サイト】
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