神様の恩返し
ーーー君に一度だけ奇跡をあげる。
頭の中に声が響いてきて目を開ける。
目の前に広がるのは一面の白い花。
私の前には帽子を深く被った背の低い男の子がいた。
「…あなたは?」
「僕の名前はセル。
…君は目を覚ますまでのことを覚えているかい?」
「私は………
ここで目を覚ますまでの記憶が頭の中を流れていった。私は夜会に参加していた。その最中、婚約者のレジナルドから驚くべきことを告げられた。
「ナディア、俺はお前との婚約を破棄させてもらう。」
「レジナルド様!私は納得できません!」
私とレジナルド様は周りを気にする余裕もなく、言い合いをしていた。そんな私たちの周りでは参加者たちが騒めきあっている。すると、
「ッグス…レジー様〜、ナディア様がかわいそうだから〜あんまり怒るのはやめてあげて〜。エミーはレジー様が大好きだけど…あなたに捨てられたらナディア様がかわそうですう〜」
レジナルド様に抱きつきて泣きそうな声で縋りつく彼女はこっちをチラッと見たと思ったら目があった瞬間、ニヤッと口元を緩ませた。そのことには誰も気づいていない。
「エミーはとてもやさしいな。ナディア、こんなにやさしいエミーになぜお前は嫌がらせをしていた?そんなことをしていたお前と結婚なんてできない。」
「だから私はっ!
ーーバシンッ
………え?」
この音はなんだったのか…自分が頬を叩かれた音だと理解するのには時間を要した。
「もういい。言い合っても無駄だ。俺はもう決めたんだ。…ここにいる全員が証人だ!レジナルド・セルシアはナディア・クロフォードとの婚約を破棄し、エミー・バートレットと新たに婚約することを発表する!」
レジナルド様はこの国の第一王子。次期国王の発表に集まっている人たちは困惑しながらも拍手をし新たな婚約を祝福した。
私は静かに会場を後にした。
………その日、私は婚約破棄を申し付けられました。そしてその後………祈りの塔から落ちたのですね。」
「…嫌なことを思い出させてしまったかな。
…でも君をここに呼ぶことができて本当によかった。
ここは僕だけの世界なんだ。僕は君たちの世界でいうと…神?かな。」
「セルシウス神様…」
「そんなかしこまらないで?気軽にセルって呼んで欲しいな。」
「セル…様…私はどうしてセル様のところに?
私は…確かに…」
「そう…残念だけど……君は死んでしまった。
…覚えているかい?…祈りの塔の前に倒れていた、君が助けた猫のことを。あの猫はね、僕が姿を変えたものだったんだ。
1人が寂しくなって時々君たちの世界に降りていた。んだけど…その時塔から飛び降りたところでたまたまある人にぶつかってしまってね…思い切り蹴飛ばされてしまったんだ。」
私はその猫のことを鮮明に覚えていた。セル様を蹴飛ばしたのはレジナルド様だったから。そしてぶつかってしまったのはエミー。エミーは汚い猫のせいでドレスが破けちゃった〜とレジナルド様に泣きついていた。
「セル様!申し訳ありませんっ!」
「君が謝ることじゃない。それに君は僕を助けてくれたじゃないか。僕はあの日君に助けられてからずっと君のことを見てきた。レジナルドや他のやつに冷たくされても君はいつも明るく強かった。そんな君を僕は好きになったんだ。
好きになったからといって僕は神だ…君と結ばれることはない…し会うこともないと思ってた。
だけど君は理不尽に命を落としてしまった…。
だから僕は君に助けてもらった恩を返したくてここに呼んだんだ。」
セル様の話を少し信じられない思いを抱きつつ静かに聞く。
「僕は君と一緒にいられたらとても幸せだ。けどね、僕は君に幸せな人生をやり直してもらいたい、そう思ってる。
君はどうしたい?
僕とずっとここにいてもいい。僕は君に幸せな人生を、といったけどやり直したとしても君が望む人生を過ごせるかはわからない。
だからナディア、君に選んで欲しいんだ。」
「…私が死んだ後の話を聞いても?」
「…セルシア王国は
セル様は私が死んだ後のことを説明してくれた。
エミーは私を突き落とした後、叫び声を聞いたレジナルド様たちに私に呼び出され突き落とされそうになった。
避けたら彼女が落ちていった、と説明したらしい。
レジナルド様は私に怒りを向け、死んだ後なのに殺人未遂だ、と両親の元に帰さず、内密に処理をした。その後エミーと婚約、結婚をし、王位継承までされた。
王国はそこからエミーの贅沢三昧により国庫からは徐々にお金が減り、そこにレジナルド様の外交失敗が重なり王国の傾きに手がつけられなくなっていったらしい。
「…僕はレジナルドとは結ばれてほしくない。けど君がレジナルドと人生を歩みたいって言うならそれは止めない。君の未来を僕が決めることはしたくないんだ。
でもひとつだけ…ひとつだけ言えることは君は幸せにならなきゃいけないってこと。」
「セル様…私、人生やり直したいです!」
「…僕はここから君の幸せを祈ってるよ。
君が生きてきた17年の記憶はそのまま引き継いでいけるようにする。でもそれは周りには言わない方がいい。ナディア、幸せになってね。」
そこで私は意識を失った。最後に見たのはセル様の切ないようで嬉しそうな笑顔だった。
読んでくださりありがとうございました!
更新速度は早くないかもしれませんが精一杯がんばりたいと思います!
これからよろしくお願いいたします。
次回更新をお待ちくださいませ。