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誕生日パーティー

 日曜日、廉は予定通り早坂三喜雄監督の誕生日パーティに参加していた。場所はもうすぐ派多部グループに買収されるという、アンダーソンホテルのバンケットホールだ。つい先日、派多部グループが公式に買収の方針を固めたとの発表をしたばかりである。歴史ある老舗の高級ホテルなだけに、今回派多部グループが買収することに対しての民間からの評判は良いものは言えない。ネット上では成金派多部がまた好き放題やってくれた、などと話題になっていた。


「それにしても、有名人ばっかですね⋯⋯」


 廉は声を潜めて呟く。

 有名映画監督の誕生日パーティーということで、廉自身もある程度、著名人が集まるであろうことは予想していた。しかし実際に目の当たりにしてみると、やはりその豪華な顔ぶれに圧倒される。それと同時に、とんでもない場所に来てしまったなと廉はひどく緊張していた。


「そりゃそうでしょ。早坂監督の誕生日パーティーなんだから。あ、女優の鮫川光! さっすがに綺麗だわー。お肌がの艶がCGレベル」


 リョウは全く緊張していないのか、何らいつもと変わりない様子だ。


「あ、二人ともお待たせ」


 廉が後ろを振り返ると、深いグリーンのクラシカルなロングドレスに身を包んだ碧がそこに立っていた。

 この間バーで会った時はカジュアルな印象が強かったが、ドレスアップをした姿からはやはり財閥令嬢の品格が漂っている。


「挨拶済んだの?」


「うん、一通りは」


 碧はウエイターが運んで来たシャンパンを取りながら頷く。


 大帝財閥のご令嬢というだけあり、当然のことながら碧は顔が広い。今日も親や自分の仕事で関わりのある人や、プライベートで親交のある人が大勢パーティーに参加しているため、会場に着いてからは休む間も無く挨拶とたわいもない会話を続けていたのだった。

 そんな姿を見てただの一般市民である自分が、碧の知人としてパーティーに参加していることに不安を覚えたが、それをリョウに話すと


「あの一族はそういうの何にも気にしないから全然オッケー」


 という軽すぎる返事が返ってきたのであった。



「あとでタイミング見て監督にも挨拶に行きたいんだけど、いつ行けるのやら」


 碧はそう言って、遠く離れた場所にいる早坂監督に目をやる。

 会場に着いてからの碧の引っ張りだこ具合もなかなかのものだったが、やはり主役は段違いである。

 

「あれじゃあなかなか声かけられそうにないよねー」


 リョウは首を横に振りながら呟く。

 

「そう言えば、監督のスピーチもう少しでしたっけ」


 好きな映画の監督ということもあり、廉は密かにスピーチを楽しみにしていた。


「そうね。監督酔ってないと良いんだけど。あの人酔うともうとんでもないからさ」


 碧の心配とは裏腹に早坂監督はかなりのハイペースでお酒を飲んでいるように見えた。


「まあ、めでたい席だし良いんじゃないの? しかも自分のお祝いだしさ」


 リョウはそう言うと料理の並ぶ台の方へ歩いていく。


「あ、私も何か食べたいなー。廉くんも、行こ!」


「はい!」


 リョウと碧の後を追うようについていくと、綺麗に並べられた豪華な料理の数々が目に入る。どれも初めて見るような料理ばかりで、料理の近くに置かれている名前を見てもイマイチピンとこないが、恐らくどの料理も普段廉が食べているものよりは遥かに美味しいであろうことだけは分かった。


 廉が何を取ろうか迷っていると、リョウは小さな声で碧に話しかける。


「あの顔をまさかこんな所で見かけるとは思わなかった」


 リョウの視線の先には眼鏡をかけた、やや細身のスーツの男性が立っている。


「副河原議員ね⋯⋯。監督と親交があったのは私も知らなかった」


 二人の会話を聞き、廉も副河原議員をちらりと盗み見る。

 副河原議員のことは廉もよく知っていた。とは言っても、廉が特別政治に関心があるという訳ではない。

 副河原道重は元総理大臣副河原春助を父に持つ二世議員である。そしてその副河原春助は、ヴェール装着を義務化させた張本人であった。

 当時野党やマスコミからは相当なバッシングを受けた政策であったが、結局は半ば強引に押し切るような形でヴェール装着が義務化されることとなった。その時の政界の裏事情については、今でも度々ネット上で噂が浮上し熱論が繰り広げられている。


 しかし、息子である副河原道重が著名である理由は父が元総理大臣であること以外にもある。


 彼もまた父同様、黒い噂が絶えないのである。


 所謂政治とカネ問題は勿論のこと、秘書への暴力や暴力団との関係、中には殺し屋を雇って自分に障害となる者を消しているなんていう噂もある。

 黒い噂が絶えない人物としてまず筆頭に挙げられるのが、派多部グループ代表派多部竜司であるが、副河原議員も負けず劣らず良い勝負である。

 そんなことから、政治に興味関心のない世代にも副河原議員の名は知れ渡っているのであった。

「あの議員も真っ黒な噂しかないっていうのに、よく続いているよね。あ、碧ちゃん面識あったりする?」


「いや、元総理とは小さい頃にお会いしたことがあるけど。あの人とは一度も」


 碧はそう言うと、手に持った更に器用に料理を盛り付けていく。


「まぁあんまり関わらない方が良さそうな相手ではあるよねー。うちのオーナーは知り合いみたいだけどさ」


 すると碧はその言葉に反応し、手元の皿から目線を離しリョウの方を向く。


「冬夜さんが?」


「そうそう。あの人たまに謎の人脈あるから」


「そう言えばこの前も危なげな人と会っていたような⋯⋯」


 廉はミーティングの日のことを思い出し、会話に入る。


「なーんか冬夜さんって昔からそういうところあるよね。まあ本人がうまくやってるなら別に良いんだけど」


 碧が呆れたように呟いたのとほぼ同時に、司会と思われるお姉さんの声が会場に響き渡る。


「皆様ご歓談中かと思いますが、ここで本日の主役、早坂三喜雄監督からご挨拶をいただこうと思います」


 司会のお姉さんは言い終わるとマイクを監督に渡す。会場からは一斉に拍手が沸き起こった。


「えー皆様、本日は私早坂三喜雄の生誕77周年パーティーにお集まりいただき誠にありがとうございます。ここまで映画監督としての人生を歩んでこれたのも、ひとえに皆様方のお陰と深謝いたします。最近はどうも腰の調子が悪く、長時間の撮影が⋯⋯」


「これ、長くなるパターンだわ」


 碧はシャンパンを一口飲むと、ポツリとつぶやいた。

 


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