情報提供
「そんなことがあったのですね。でもお二人ともご無事なのは何よりです」
凛子はホッとした表情をする。
仕事柄、危険が伴うことはもちろんあるが、裏社会でも要注意人物として知られる鶴賀田久信との遭遇はやはりインパクトが大きい。
「うんうん、結果的に実被害がなかったのは不幸中の幸いだよね。まあそんな訳で鶴賀田久信とマルクの関係については知ってたってワケ」
そう言うと冬夜は一口コーヒーを飲む。
凛子は少し考え込むと、タブレットを操作し冬夜に話しかける。
「では、こちらの情報は知らないのではないですか?」
凛子の持つタブレットには3人の男の写真が映し出されていた。
「先日廉さんを襲った方々も、篠田という男と同じ犯罪グループに属しているようなのです」
「なるほどね⋯⋯」
冬夜は顎に手を当て何かを考えている。
「三木田、湯白、澤本。この3名はどうやらグループの下っ端のようですが、恐らく篠田が襲われた関係であの辺りをウロついていたのでしょう」
そこで凛子は一旦言葉を切ると、再び静かな口調で話を続ける。
「そしてその犯罪グループは中国マフィアとも繋がりがあるとか」
「中国マフィアとの繋がり?」
冬夜は首を傾げて凛子を見る。
「ええ。最近起きている誘拐殺人のほとんどが、資産が奪われた後も誘拐された子供たちは行方不明のままでしたよね。どうやらこの犯罪グループが中国マフィアに身柄を渡しているようでして」
「うわ、怖い怖い」
冬夜は眉をひそめる。
「犯罪グループは用済みになった子供たちを中国マフィアへ渡すことでフィーを得る、中国マフィアは自ら動くことなく子供たちを集められる、一応利害関係は一致しているということなのでしょう」
凛子は淡々とした口調で話すと、コーヒーを飲む。
品のあるお嬢様といった風貌の割に、凛子はこういう話に関しては冷静に話すタイプであった。
「彼らの関係については置いておくとして、子鹿君が襲われたのはこのマルクと篠田の件があったからだろうね。恐らく犯罪グループも諸々不審者に警戒してたってとこかな。マルクが日本で目立った行動を取っていないってことは、犯罪グループもマルクについての情報は持っていなかっただろうし」
そう言うと冬夜は大きく伸びをする。
「とはいっても、あんな普通の大学生に手を出すなんて勘弁してほしいよまったく」
やれやれといった表情で冬夜は呟いた。
「そうですわね」
凛子も冬夜の言葉に同調する。
「そういえば、実は凛子ちゃんにまた一つお願いしたいことがありまして⋯⋯」
冬夜は凛子の言葉を伺うように尋ねる。
「何なりとおっしゃってください」
凛子はニコリと微笑んだ。凛子は基本的に冬夜からの依頼は断らない。個人的にも仕事を受けいているため忙しいはずではあるが、少し時間をくれと言うことはあっても断ることはほとんどなかった。
「昨日リロイと子鹿君が張り込んでいた辺りにあるマンションの防犯カメラの映像が欲しくて」
冬夜は自分のノートパソコンにマップを表示させる。
「この辺りですと、確かマンションは2つ程あった気がします。昨日の映像でよろしいですか?」
「あー、できれば昨日も含めて1週間分くらいは欲しいかも。」
「わかりました。手配してお送りいたしますね」
そう言うと、凛子はヴェールを操作する。どうやらヴェールに地図情報をメモしているようだ。
「ありがとう、助かるよ。ところで」
冬夜は何かを思い出したかのよう手を叩く。
「凛子ちゃんは巷で噂の凄腕ハッカーについてどう思う? いや、恐らくハッカー集団なんだけど」
急な話題の転換に少し驚いた表情を浮かべると、凛子は少し考え込む。
「⋯⋯そうですわね。意識しない訳でない、といったところでしょうか」
言葉を選びながら凛子はゆっくりと答える。まるで言葉を発しながら自分の気持ちを確認しているかのようだ。
「ま、同業だもんねー。そりゃ気にしない方がおかしいって話だよね。ちなみにハッカー集団について、調べたりしたことはあったりする?」
「いえ。ですがあのレベルのことをやってのける人物というと、そう多くはおりませんから。ある程度の目星くらいは」
その言葉に冬夜は目を輝かせる。
「その候補の中に、美女はいたりしますか!」
「ふふふ。どうでしょう。依頼ということであればその情報をお伝えしてもよろしいのですが」
ニコリと笑う凛子。どうやら情報屋のスイッチが入ったらしい。
「いや、これは男のロマン案件だからね。凛子ちゃんに調べてもらうっていうチートは使わないことにするよ」
「そうでございますか。ただ、ひとつだけ。冬夜さんが勘違いしていることはないかと思いますが、念のため言っておきますと、私はあの方々とは全く関係はございませんよ。私、基本的に単独行動が好きですので」
「だろうね。うちに連れてくるのにもリロイが相当苦労してたもん」
はははっと笑うと冬夜は懐かしいなーと呟いた。
それから10分程2人は雑談をすると、凛子は古書店を後にした。




