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天才の秘密

「お疲れ様ー」


 リロイは廉を家まで送り届けると、その足で冬夜の自宅へと向かっていた。

 本来であれば、仮に犯人を捕らえたとしても報告は明日にするつもりであったが、思わぬ人物の登場に、なるべく早めに冬夜と話す必要があると思ったからである。


「本当に疲れたよ。予想外だ、何もかも」


 慣れた様子でキッチンの椅子に腰掛けると、リロイは疲れ切った声で呟く。

 万屋の仕事には慣れているし、この仕事をやっていれば裏社会の人間とバッティングすることもある。しかしまさかこのタイミングで鶴賀田組の若頭と出くわすとは思ってもいなかったのだ。

 鶴賀田久信と言えば東京の裏社会の中でもかなりの有名人だ。父親である千次郎ほどではないものの、裏社会の中では相当な力を持っている人物と言って間違いはない。

 リロイは冬夜とは違い自ら裏社会の人間と関わりを持とうとするタイプではないため、鶴賀田久信などという有名人には基本的には出くわしたくはないと思っていた。 


「いかなる場合においても対応出来るよう、準備をしておくのが大人ってもんでしょ、リロイくん。⋯⋯と言いたいところだけど、いやーさすがに想定外だねー。愉快愉快」


 まるで想定外である事が好都合であるかのように、にこやかな笑顔を浮かべる冬夜。リロイはそれを見て呆れたような表情をするとゆっくりとした口調で冬夜に尋ねる。


「⋯⋯本当に、想定外なのか?」


「うん」


 ケロッとした表情で冬夜は答える。


「嘘、言うなよ」


「うん。嘘じゃないよ。神に誓って。⋯⋯それで言うと、そうだね。あの子と出会ってからさ、想定外なことがよく起きるんだよ」


 冬夜はロックグラスにウイスキーを注ぐ。グラスの中の氷がカランと音を立てて動いてた。

 冬夜はグラスを自分の目の高さまで持ち上げるとご機嫌な様子でそのブラウンの液体を眺めている。


「あの子って廉だよな?」


「そ。なんか地味に予想を狂わされるっていうか。面倒ごとを引き起こしてくるっていうか。まあ僕は未来予知の能力がある訳でもないから予想が外れるのは不思議なことじゃないんだけど。⋯⋯飲む?」


 そう言って冬夜はリロイの方にグラスを向ける。


「いや、車だから。でも確かに冬夜は未来予知の能力なんて持ってないけど、その能力と同じくらいの脳は持ってるだろ。それが機能しないとなるとあまり楽観視はできないんじゃないのか」


 その言葉に冬夜はニヤリとした。


「お、何気に褒めてる?」


「茶化すな」


「はいはい。でもさ、子鹿君の影響かはさておき、面倒ごとには巻き込まれるけど、そのお陰で見えなかった事が浮かび上がってきてるのも事実なんだよね。これならもう少し厄介な依頼にも首を突っ込めそうかなーなんて」


 冬夜はどこかワクワクしているかのように見える。


「あんまり裏社会に関わろうとすると、ただじゃ済まなくなるぞ」


「それは分かってるけど、僕としては非常に面白い展開なんだよ。それに危険な目に遭いそうになったらさ、奥の手があるでしょ」


 冬夜はハンドパワーを出すかのようにリロイに向けて掌を向けた。

 リロイはそれを見た瞬間、眉をひそめ険しい顔をする。


「それはさせない」


「どうして」


 リロイはため息をつくと真面目な表情で冬夜の問いに答える。


「どうしてって⋯⋯お前のそれは、命を削ることになるんだぞ。たかだか好奇心のためにそんなことを良しとする方がおかしいだろう」

 

 

「たとえ命を削ったって退屈よりは余程マシだよ。それにしてもリロイって僕の能力の話となるといつも怒りっぽくなるよね」


 冬夜は頬杖をつきながらリロイを見る。


「当たり前だろ。お前の考えてることは基本正しいし信頼もしてる。けどその考えだけは絶対に間違ってる。仲間として、というか友達として認められない⋯⋯って、あ! お前、またっ」


 リロイは何かに気づいたようにハッとするとすぐに冬夜を睨みつける。

 冬夜は自分を睨むリロイを見てニヤニヤとしながらウイスキーを口に含む。


「リロイがこんなにも僕の身を心配してくれるなんて⋯⋯。やっぱり熱い想いを語られながら飲む酒ってほんと最高だよね。この歳になると友達っていうワードがやたら胸に響くっていうかさ。なんか遅れてきた青春みたいな? さ、語って語って。なんならデレデレに褒めてくれても良いよ」

 上機嫌な様子で冬夜はさらにウイスキーをグラスに注いだ。


「毎回同じ手に引っかかる自分が嫌になる⋯⋯」


 上機嫌な冬夜を横目にリロイは深いため息をついた。


「僕は嬉しいけどね」


「⋯⋯そういえば、廉は知ってるのか?お前の能力のこと」


「いや。それどころかリョウ君と凛子ちゃんにも話してないよ」


 そう言って冬夜は一瞬考えると、再び口を開く。

 

「あーでも、凛子ちゃんは知ってるかもね。僕らと組むってなった時に、恐らく僕ら全員の身辺調査くらいはしてるだろうし。あの優秀な情報屋を前に隠し事が出来るとは思えない」


 その言葉を聞き、確かにとリロイは頷く。


「でも何も言ってこないって事だよな?」


「うん。まあ情報屋とかハッカーとかしてると人の秘密なんてごまんと見てるだろうしね。あんまり興味ないんじゃない? それか、彼女なりの気遣いか。ま、秘密にしてるつもりはないんだけどね。これと言って話すタイミングがないってだけで」


 冬夜はそう言ってキッチンのカウンター部分に突っ伏すと、グラスをくるくると回しながらそれを見つめている。


「確かに、時間を巻き戻せるけどその分、何百倍も寿命が縮むってのはなかなか切り出しにくいかもな。能力はポップなのに代償が重い」


「ま、当の本人はそう重くは捉えてないんだけどね」


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