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ミーティング

「じゃあここからはミーティングに移りたいと思いまーす」

 冬夜はそう言うとタブレットをいじり始める。


「てか、冬夜はいつまで仕切るつもりなの? 出来ないでしょ、そういうの」

 

 リョウは頬杖をつきながら冬夜に話しかける。


 意外と辛口なんだな、と廉が思っていると冬夜は笑顔でタブレットをリロイに渡した。


「はい、バトンターッチ」


 リロイは無言でそれを受け取ると、慣れた手つきで操作をし依頼を振り分け始める。

 


「まずはお得意の鈴三原さんが、来週2泊3日で京都へ出張だからその間にペットの世話を⋯⋯」


「またボクか⋯⋯」


 リロイが話し終える前にリョウは自分の担当だと察知し、がっくりうなだれる。


「ペット担当にするつもりはないんだけど、お得意さんだから出来れば一番慣れてるリョウにお願いしたいんだ」


 ごめんな、とリロイは申し訳なさそうな顔をしてリョウに謝る。


「よろしくー」


 全く気にも留めずにこやかに手を振る冬夜。


「ていうか鈴三原さんて独身貴族でお金なんて山ほどあるんだから自動の餌やりロボでも買えば良いのに」


 冬夜の態度に苛立ったのか明らかに不満そうな声でリョウは呟く。


「愛犬のファロンが機械は嫌がるらしいんだよー。やっぱりペットは人の手で育てないとね、てこの間会った時も力説してたし。ま、そういうことだから頼んだよ、リョウくん」



 それからいくつか雑用の様な依頼が続き、リロイはその内容を読み上げながら振り分けていった。

 思いの外普通の依頼が多く、廉は少し拍子抜けしていた。この前の一件から、万屋とは常に危険な仕事を引き受けているのではないか、と思っていたからだ。そしてそれをにわかに期待している自分もいた。


 廉自身そのことには驚いていたが、あの時のあまりにも非日常な体験に、どこか惹かれている自分がいたのである。今まで平凡に生きてきた自分が急に命の危機にさらされたこと、圧倒的な力を間近で見せつけられ、助けられたこと。もちろん廉は自殺願望がある訳ではない。危険な目に合うことはなるべく避けたいとは思っている。しかし一方で、今まで知ることのなかった世界は、廉にとって強烈な魅力を放っているのも事実であった。


「次のは少しヘビーだな。ストーカー被害の相談。いや、ストーカーって断定してる訳じゃないみたいなんだけど、とりあえず調査してほしいらしい」


「あ、それね、もう依頼人とやり取りしてて1時間半後くらいに依頼人と会う約束になってるんだ」


 冬夜が思い出したように口を挟む。


「被害現場の映像、回収しましょうか?」

 凛子が柔らかな口調でサラリと言う。当たり前ではあるが万屋は警察ではないため、正当な方法で映像を回収することはできない。しかし凛子の口ぶりはまるでコンビニに行きますけど何かいりますか?と同じくらい軽いものだった。

 

「うん。よろしく頼むよ。でさ、リロイ。この件は研修ってことで子鹿くんと一緒にやってくれない? 店を開ける日は僕が代わるからさ」


 急に名前を呼ばれ、ドキッとする廉。一人ではないものの初めて仕事を任され、廉は少し緊張していた。


「分かった。よろしく、廉」


「よ、よろしくお願いします!!」


 緊張しているのが伝わったのか、リロイはクスリと笑うと気張りすぎるなよ、と言った。


 溜まっている依頼はこれで最後だったらしく、ミーティングという名の依頼振り分け会は終了した。

 ミーティング自体は基本的に冬夜が依頼を振り分けるスタイルだったので、廉は特別何かをすることはなかったが、それでも初めての参加ということもあり、ミーティングが終わることにはすっかり疲れていた。


「じゃ、お疲れ様でーす。良い週末をー」


 リョウはこの後予定があるらしく、ミーティングが終わるとすぐに店を出て行った。


「私も休暇のうちに溜まった仕事が諸々ございまして、今日はここで失礼いたします」


 そう言って凛子も席を立つ。


「あ! 凛子ちゃん。それともう一つ頼みたいことがあって」


 すっかり忘れてた、と言いながら冬夜は帰り支度をする凛子を引き止める。



「先週から今週にかけて、隣町の廃墟ビルが並ぶ裏通りで誰の出入りがあったか調べてほしくて」

「廉さんの件ですね。もちろん構いませんけど、あの辺りは監視カメラもそう多くはなくて完璧に洗い出すのは少々難しいですわね」


「だよね。でもまあ子鹿君を襲ったのがどこの誰なのか、何で一般人を襲ったのか、その手がかりになる情報があれば見つけたいんだ。頼めるかな? 」



「分かりましたわ」


 ニコリとして頷く凛子。


「ありがとう」


 廉は自分がヤクザに絡まれたせいで凛子の負担を増やしてしまったのではないかと思い、少し申し訳ない気持ちになった。


「すみません、俺のせいで手間を取らせてしまって」


「いえいえ。お気になさらないでくださいね」


 凛子は廉の方を向き穏やかな口調で廉に言った。


「そうそう、子鹿君のせいじゃないから。子鹿君ってたまに気にしいだよね」


 あははと笑いながら冬夜は廉の方を叩く。


「それに反社の方々が安易に一般人を巻き込む様な行動を取るのも少し気になるところですし⋯⋯」


「確かにそうだな」


 リロイは顎に手を当て考えるような表情で呟く。


 最近ヤクザ絡みの事件が目立つようになってはいるものの、そのほとんどがヤクザ同士の対立や何か裏社会と関係のある人間との間に起きた事件である。全く無関係の一般人が巻き込まれたというケースはほとんど報道されていない。


「とにかく廉さん、無理はなさらず、お大事になさってくださいね」


 凛子はそう言うと、バッグを手に取り店を後にした。


 すると、冬夜は何かに気がついた様にヴェールを確認すると店の外に出て行く。

 廉は何も言わずに出て行く冬夜を不思議に思いリロイを見ると、リロイも特に心当たりがないのか、さあと言うように首を傾げた。


 電話かそれとも近くのコンビニにでも行ったのか、と廉は考えていたが予想に反して冬夜は1分もしないうちに店に戻ってきた。

 両手にピザの大箱をいくつも抱えて。


「冬夜、お前またピザか⋯⋯しかもその量」


 呆れたようにリロイが言うと冬夜は不満そうに口を尖らせる。


「いーじゃん。僕の奢りなんだし。あの二人が帰ると思わなかったからちょっと量は多くなっちゃったけど」

 

 口を尖らせながらそう言うと、冬夜はピザの箱を机にドンっと置く。

 5人揃っていたところでどう見ても余る量だ。


「というか見る度にそれ食べてる気がするけど、流石に太るんじゃないのか」


「太らないの知ってるよね」


 あははと呑気に笑うとピザを机の上に広げ始める。

 リロイはやれやれといった表情で首を横に振ると、皿を取りにカウンターへ歩き出す。


「さ、依頼人が来る前に食べちゃうよー。 いただきまーすはいどーぞー」

 

 一人でそう言うと、冬夜はリロイが皿を持って来るのを待たずにピザを食べ始めた。


「そういえば、冬夜さんもリロイさんも万屋以外に仕事をしてますけど、他の人もそうなんですか?」


 リョウや凛子がミーティング後すぐに帰ったことを思い出し、廉は尋ねる。

 するとリロイがお皿をテーブルに並べながら返事をする。


「いや、リョウはここだけで、凛子は元々名の知れた情報屋だから個人でも仕事を受けつつだけど、やってることは変わらないし本業と副業みたいには分けてないんじゃないかな」


「それに僕らが店を持ってるのは完全に趣味だしねー。今日もDrowseは休みにしたけど、これが仕事だったらこんな風に自由はきかないし想像もしたくないよ」


 コーラを飲みながら冬夜が呟く。

 冬夜の店である古書店Drowseは日曜が定休日と決まってはいるものの、それ以外に関しては完全なる不定休であった。万屋業との兼ね合いや冬夜の気分で休みの日を決めているらしい。


「冬夜よりはしっかりやってるつもりだけど、まあ確かに冬夜の言う通りこの店は趣味に近いのかな。やってて居心地がいいというか、落ち着くというか」


「なんかいいですね。そういうの」


 すると廉の言葉に冬夜は気を良くしたのか、誇らしげな表情を浮かべた。


「ねえ、もしかして憧れられてる感じ? 尊敬されてる感じ? やっぱり子鹿くんみたいな子には分かっちゃうのかなあ。この隠しても隠しきれない素晴らしいオーラが」


 キメ顔で廉を見つめる冬夜を横目にリロイは苦笑いをしながら廉に話しかける。


「冬夜はいつもリョウから冷たくあしらわれてるから、廉の反応が余計に嬉しいんだよ。変なやつだけど、大目に見てやって」


 ちょっと、変な奴って何と言いながら冬夜はムスッとした表情でリロイをみる。


 タイプの全く違う二人は一見うまくいかなそうに思えるが、その性格の違いが妙にハマってちょうど良いバランスになっている様に見える。


 仲良いんだなあ⋯⋯。


 二人のやりとりを見て、廉はしみじみとそう思った。


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