第81話
数日ののち。
アリーシャの修行にもなると考え、彼女1人を供として魔王城を出発したこの俺、魔王ゼルスは。
「どこからまぎれこんだ、貴様らあ!?」
めっちゃしかられていた。
ほこりっぽい土が風に舞う街道、その端っこに正座させられて。
「この隊をどなたのものと心得る!? おそれ多くもかしこくも、ラリアディ公国第9公女にあらせられるところ! セオリナ・ラン・カロッド・ラリアディ様の精鋭部隊なのだぞ!!」
「し……知ってるし……」
「今なんとほざいた? 知ってるし? 知ってるしだあ!? 知った上でならなおのこと不敬であるし、たとえ真実そうだとしてもこういう状況なら知らなかったことにしたほうがおとがめも少ないかもとか打算せんかボケがあ!!」
目の前に仁王立ちした男の騎士が、頭ごなしに怒鳴りつけてくる。
な……なかなかよく回る口だな……
マロネと口ゲンカさせてみたいもんだ。
そう。マロネ。
マロネだあんちくしょう。
「あいつが、『兵士のカッコしてたら絶対バレないっすよアハハ~』だとか言うから……!」
「魔お……、ゼルスン様も『それバッチ良くねえ?』とおっしゃっておられました」
「つまらんことよく覚えてるねアリーシャたん……!」
俺も、となりで正座してるアリーシャも、革と鋼でできたシンプルなライトメイル姿だ。
歩兵、足軽、一般兵。
いろんな呼び方があるが、まあそれだな。
まわりには、似たようなカッコの人間たちがぞろぞろたむろしている。
ある者は興味深そうに。
ある者はいつでも対処できるよう油断なく。
ある者は、まわりの誰とも違う様子で……
ちん入者である俺たちのことを眺めている。
「だいたい俺らの鎧より、こいつらの鎧のほうが質がいいじゃないか。マロネめ手抜きしおって……」
「こらあ! ブツブツうるさいぞ男のほう!」
「ぐぬぬ。屈辱。せめて名で呼んでくれ、俺はゼルスンという」
「なにをのんきな! 貴様な、わかってないのか? 行動中の軍に忍びこむなんぞ、問答無用で殺されてても文句言えんのだぞ!」
「か、勝手に人数増えててお得、とか思ってくれればなあーと……」
「バカか!?」
うう。言われたい放題。
魔王ちょっぴり涙の心地。
だって……だって。
まさか、こんなマッハでバレるなどとは!
「点呼なる文化を知ってさえいればっ……!」
「なんだ貴様ら、点呼知らないとか、どこの田舎者だ……?」
「貴様らとか言うな! アリーシャは知ってたんだ! 『テンコされたらいかにします?』って聞かれたときに、俺が知ったかぶって『まかせろ!』とかイキっちまったのがいけないんだ! 怒るなら俺だけを怒りやがれ!?」
「うむ、うむ、え? どういう逆ギレだ? なんでこっちもちょっと悪いだろみたいな目してるんだ? は、腹の立つ若造だなっ……!」
そう言うこの騎士もけっこう若いぞ。
立場からして、幹部クラスのようだが……
勇者資格でも持ってるのか? 要チェックだな。
「まあまあ、ロームン殿。そう目くじらを立てずとも」
お。
白ヒゲのじいさんが輪に入ってきた。
長い杖に、とんがり帽子……高級そうな黒マント。
今どき逆にいないくらいの、絵に描いたような魔法使いだな。
「暴れるそぶりも、見たところない。なにかしら事情があるのやもしれませぬ」
「ユグス殿! このようなやからに情けなど……」
「いやいや、情けこそ勇者には肝要。我らは勇者でこそござらぬが、姫様の隊の一員として、相応の振る舞いをせねば」
「む……。おっしゃる通りに思えます」
「どれ、お役目交代いたそう。姫様もまもなくお目覚めでしょうぞ」
なんだか人材豊かな隊だな?
神経が細かいんだろう若者にかわって、ふところの深そうな老爺が前に立つ。
目尻のしわもやさしげだ。
正座する俺を軽く覗きこむようにして……
「……ん……」
「ん?」
「んなんっか、よう見たら、妙にムカっ腹の立つマヌケヅラしとるのう!? こんガキャあ!」
うそだろ。
「ワシらの姫様に何をしに来おったか!? 言え! 正直に言うたらば、全身に針を刺してヘビのエサにする程度でゆるしちゃるわい!!」
「ひいいいいなんだこいつら怖ええええええ! だ、誰かあー!? たすけてえー!」
「荒野のまんなかじゃあ、誰も来るかい! 大事な大事な姫様にゃ、指1本触れさせんぞい!」
ちくしょーわけわかんね~!?
おいマロネ! マロネーっ!
聞いとんだろが魔力感応で!
『ほ~い、聞いてま~す。マロネは今日もかわいいでーす』
今日イチいらない情報!
主人のピンチだぞ、なんとかせんかい!?
『もちろんおまかせ! マロネで解決!』
おお!
『先に朝ごはん食べてきますね』
なんで遠距離通信できる部下コイツしかいねえの!?
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