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第75話



 鎧の声(・・・)は、低く落ち着いている。


「ゆくぞ」


 ぶつ切りにもほどがあるひとことずつの語り口でありながら、深い知性と経験を感じさせる低い声(アルト)

 しかも、確かに。

 これは女性の声だ。


 となれば心当たりはひとつしかない。

 本当にいつのまに入りこんでいたのだ?


「我が弟子……か……!」


 ラグラドヴァリエが去ってすぐのため、口の中でだけ呟いておく。

 聞かれているとは思わないがな。


「しかし、これはまたなんとも……意外なセン(・・)が――」


「侵入者かッ!?」


 俺の言葉を遮って、スレイプニルが長槍を手に駆け出してくる。

 ラグラドヴァリエがいたときから、マロネと違ってごくごく常識的に下がり、控えてくれていたのだ。


 大きな体で、俺たちと鎧の間に割って入り……

 ……すまん……ちょっと、邪魔だな。

 スレイプニルはほんとにデカいし、鎧はほんとにちっちゃいから、まるで見えねえ。


「おのれ何用だ!? 魔王ゼルス様の居城と知ってのことか!?」


「ゼルス。殺す」


「なにい!? 似たような発音でよくも不届きな! させぬわあああああああッ!」


 スレイプニルは突きかかったんだろう。

 金属がぶつかり合う音がして、


「ああああああああッ!?」


 宙に大きな放物線を描いて、スレイプニルがバルコニーから外へと放り出されてしまった。

 ハンマーを振り上げた鎧がこっちに向き直り、ずしゃ、と重々しく踏み出してくる。


「ふむ……」


 おそらく、槍の攻撃をかわした、というよりは防御力にものを言わせて受け止めた。

 同時にあの長大なハンマーをUの字に振るって、スレイプニルを下からすくい上げ、その1発で終わらせた。

 そんなところだろう。


 ……まてまて。

 どんなところだ。

 そんなパワーあるか!?

 スレイプニルだぞ、単純に言っても人+馬だぞ!?


「出ていったころより、明らかに強いな……」


「勇、者……なのですか……?」


「ああ」


 普段から冷静沈着なアリーシャすらが、困惑を隠せずにいる。

 当然だな。

 幼児のようなサイズの鎧が、柱のようなハンマーを油断なく構えて。

 吹っ飛ばしたスレイプニルなど最初からいなかったかのように、こっちにゆっくり歩いてくるんだから。


「いえ……やつも先ほどのような、魔王様の敵にあたる魔族、でしょうか。ならば……」


「確かに人間ではないが、いいよ、アリーシャ。いつも通り、下がって見てなさい」


「え……、しかし」


「大丈夫。あの鎧の中身は、確かに勇者だ」


 そう。

 勇者。

 ではあると思うんだが。


「なあ……鎧氏」


 1歩1歩、踏みしめるように近づいてくる鎧に、俺は玉座の前に立ったまま言った。

 歩幅もめちゃめちゃちっちゃいもんだから、遅いのなんの。


「念のため、まずは聞いておきたい。おまえは勇者だと思うわけだが」


「そうとも言う。はず」


「う~んいきなり不安な返答! だがそれはおいといてだ。……1人か?」


「肯定」


「仲間は?」


「不在」


 そうか、と俺は深くうなずいた。

 やはりその場から動かず、

 両手を肩まであげ、

 1度アリーシャを見、

 鎧に視線を戻し、

 左手だけを下ろして、


「無理だろ!!」


 右手でまっすぐ鎧を指さし、ストレートに叫んだ。

 長々としたモーション中にも、どう言葉にしたものか、いちおう思案してみたんだけどな。

 俺には無理だったわ。素直に言うしかない。


「絶対ダメだろ! おまえは無理だろ! たとえ思いついたとしても実行しちゃダメだろ!」


「……意味不明」


「意味明快だわ!! 1人はダメだろっつってんの! 来ちゃダメでしょ! こんなとこ!」


「来なければ、貴様を倒せまい」


 そりゃそうだけども。

 でもそうでなくて。


「あのな……あのなあ。テミティよ……」


「人の名。気安く呼ぶな」


「俺だって呼ばねーの! ふつーは! このシチュエーションでは特に!」


「ほう」


「でもな? いいか? おまえのジョブはなんだ?」


「笑止。見てわかれ」


「いいから」


「……重装兵」


「中でも?」


「前衛防御壁(タンク)


「仲間は?」


「いない」


 だから、


「無理だろ!! テミティ・バドミ・ドワーフ!!」


「……わからない。やってみなければ」


「わかるわ! 魔王(おとうさん)そんなやけくそな生きかた教えたつもりないぞ!」


「誰がお父さんだ」


「教科書のようなツッコミありがとう! でも冗談じゃないぞ、おまえこれマジ冗談じゃ――」


「問答」


 ずしゃん


 とまた1歩、鎧が足を進める。

 サイズに比して、とんでもなく重々しい足音ではあるが……


「無用」


「……相変わらず、強情なやつめ」


「魔王。倒す」


「<獄壊暴槍(ゲヘナグングニル)>」


 右手に生み出した、魔力の黒槍。

 魔王のスキル。

 無論、必殺。


 ヅガアアアアアン!!


 ためらわず投げ放ったそれは、想定以上の手応えと轟音を響き渡らせた。

 震動が床を通じ、激しく伝わってくる。

 ……床。そう。

 土の地面でもなければ、スキルも爆煙をともなうようなものじゃない。


 すなわち。

 無事に立っている鎧の姿を、すぐさま目視することができた。



お読みくださり、ありがとうございます。


次は4/25、19時ごろの更新です。

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