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第70話



 ペガサスにすがったイールギットが、木造の小屋へと姿を消す。

 魔王ならではの都合のいい超視力でそれを認め、ゼルスはそっとため息をついた。


「元気になったようだ……。やれやれ」


「お気がすみましたか」


 かたわらのアリーシャが、いつも通りの無表情の中にもせいいっぱいの呆れを表して言う。

 いまだ騎士っぽい身なりをしてくれてはいるが、3日にわたる野宿でいささか薄汚れてしまっている。


「ああ。ほっとしたよ。……ほっとはしたが、いや、ここからも大丈夫かな? ちゃんと世話してもらえるかな、イールギット」


「大丈夫でしょう」


「ほんとか? ほんとか? マジメにか?」


「調査して報告しました通り、あの小屋の老夫婦はここ近辺でいちばんの人格者と評判です。思いきり怪しいわたしが思いきり怪しいイールギット様を託した折も、こちらが少々不安になるほどあっさり引き受けてくれたではありませんか」


「う、うむ。そうだったな……いやしかし……」


「魔王様からのお金も、さして断らず、やわらかに受け取ってくれました。こと人間は、そういった手合いのほうが信用できると思います」


「なるほどな。ちゃんとイールギットのために使ってくれそうだな」


「ええ」


 それに、とアリーシャが口元をゆるませた。

 なんとも珍しいことだ。


「たとえ、なにかしら意に沿わぬ事態があったとしても、イールギット様はいかようにも乗り切られるかと」


「確かにな。もう目覚めたことだし」


「はい。必ずやまた、魔王様の前に立ってくれることと思います」


「そうか」


 そうだな。

 ……となると、問題は俺のほうか。

 次こそひるむわけにはいかない。


 たとえイールギットが、どれほどの修羅場をくぐってこようとも。

 どれほどのものを背負ってこようとも。

 立派な勇者に対する、絶望たる魔王として立ちはだからねばな!


「帰ろうか、アリーシャ。長らく手伝ってくれた礼だ、俺が料理を作ってやろう」


「それは……ありがたくありますが?」


「宵闇鶏を使おう。シメるところから、ぜんぶ俺がやるぞ。やるったらやるぞ」


「……なるほど」


「楽しみにしているがいい! ふははははは!」


「……予行演習になるとよいですね、それで」


 ぎくり。

 き……気づかれてるのか?

 妙に鋭いからな、アリーシャも。

 魔王の心を読むなんて芸当は、マロネ1人でじゅうぶんなんだが。


「そういえば、先ほどマロネ様からテレパシーが」


「ぎくりぎくり!」


「? なにか?」


「い、いや。本当に心を読んでるんじゃなかろーなと……」


「なにをおっしゃっているのかわかりませんが、伝言をお預かりしています。魔王様はイールギット様に夢中のご様子でしたので」


「なんか、ごめん……え、マロネはなんて?」


「はい。

『ダクテムっちのときに作った勇者の仲間選定マニュアル、ゼルス様の机の引き出しに入れっぱっぽいですけど、イールギットのアホに渡さなかったんですか?』

 だそうです」


 ……………………。

 しまったああああああ!!


「忘れてた!!」


「……ご愁傷様です」


「取りに戻ろう! そんでもっかい届けに行ってくれないかアリーシャ!?」


「それは……無理があるかと」


「なぜ!?」


「怪しい女騎士が再訪して、お金を渡したその手でアレを渡したとなると、評判になるほど人のいい老夫婦とはいえさすがに通報待ったなしだからです」


「バカな! いわば勇者マニュアルだぞ!? いいもんだぞ!? きっと売っても高いぞ!?」


「そういう問題では……魔王様のイラスト付きですし」


「どゆ意味!?」


 いいから転移しましょう、とアリーシャに浜辺へと手を引かれる。

 人目につかないところに行ってしまうと、ああ、イールギットのいる小屋が! 小屋がもう見えない!

 イールギット!

 魔王はいつでも待ってるぞ!


 何度でも……

 何度でも戦おうじゃないか!!


「甘いですね」


「やっぱ心読んでないかアリーシャ!?」


「魔王様はよく顔に出る。イールギット様にも、お伝えするべきでしたでしょうか?」


 くっそ!

 上等だ!

 心の中さらけ出しながら戦ってやるよ。


 俺はいつでも、いつまでも。

 勇者たちのことが、大のお気に入りなんだからな!




お読みくださり、ありがとうございます。

これにて第二部完結となります。

応援してくださった皆様、まことにありがとうございます。


あと一回、おまけの更新があります。

今回のおまけは長くなってしまいました。

2/25、19時ごろの更新です。


今後の投稿予定は、また近くお知らせいたしますが、

3月より新作を投稿できればと思っております。

そちらもなにとぞ、よろしくお願いいたします。

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