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第7話



 眉間に小さなしわを寄せ、マロネは黙りこんだ。

 話が見えていないのだろう。

 無理もない。俺も理解にだいぶ時間がかかった。


「この世は闇が多すぎる」


 イスに腰を下ろすと、アリーシャが酒を注ぎ足してくれた。

 そういう役回りを与えたつもりはないんだが、進んでやってくれている。酒のまあうまいことよ。

 今日はいくぶん、苦くも感じるがな。


「我ら魔の者と、人間と……この世界を牛耳る2大勢力は、長らく争い続けているが。その力は、おおむね拮抗している――と、人間は考えている。そうだな、マロネ?」


「およそ間違いなく」


「今現在も、そうのようだな」


「はい」


「無理もないことだが、残念だ。彼らには、闇の勢力の深さが……もっと単純に言うと、魔王の数(・・・・)が把握できていない。人間側が想定している数は、おそらく実際の半分にも及ぶまい」


「むちゃくちゃいますもんね、ゼルス様以外にも魔王」


「大半は、自分の領地で遊ぶのに夢中な、引きこもり連中だからな。俺も人のこと言えんが」


「ゼルス様もそうですけど、領地の場所的にそうなっちゃうことも多いですからね」


「うむ。他の大陸にいるやつも多い。全体数を把握しているのは、魔王の中でも俺と他数名だけだろう」


 魔王は皆、闇の眷属ではあるが、それぞれ独立した存在だ。

 誰が死のうが生きようが、基本的には知ったことではない。

 人間の言うような絆もない。

 皆が皆、この世に生物は己だけとでも言うように、我が物顔で生きている。


 俺はやつらが、あまり好きではない。

 同じ闇より(いで)しものではあるがな。


「人間も、各国が勇者を募り、育て、魔王たちを倒そうとしているが……いかんせん、数が違いすぎる」


「人間もかなり多いんですけど、下手に国とかででっかくまとまっちゃってる分、うちらより連携悪いですもんね」


「ああ。たとえすべての勇者パーティが、魔王を1人ずつ倒したとしても、まったく足りない。だからこそ、俺なりに手助けしてきたつもりなんだが……」


 アリーシャに目を向けると、彼女は小さくうなずいた。


「魔王様には、感謝しています。わたしの力だけでは、果たして勇者になれるかどうか」


「なれるさ。だが、今ほど対魔族に特化してはいなかっただろう、とは自信を持って言おう」


「はい」


「人間の勇者は大変だ。力を示すだけじゃない、魔王を倒したあとは、普通の人間としても生きていかなくてはならない。立派なものだ。だから人間は好きだ」


「はい……」


「戦いについてなら教えられる。対魔族についてなら鍛えられる。本当に、人間と魔王との力が拮抗すれば、世界はもっとよくなる!」


 それが俺の考えだ。

 ……だからこそ。

 今回のことは、まったく予想外なわけで。


「何人もの人間を、魔王城(ここ)から送り出してきた。いずれ劣らぬ実力者、恥じることない勇者の候補。無論、ダクテムもその1人だ」


 もちろんです、とマロネが大きくうなずく。

 彼女もずっと、俺といっしょに人間たちを鍛えてきたんだ。

 思い入れもあることだろう。


 だからこそ……

 そのダクテムが、パーティを追い出されたということに対して……


「やっぱり……」


「ええ」


「っスゴイもんなんだな~~~勇者っつーのは!!」


 天井をあおいで、思いっきり嘆息する。

 これでも覚悟は決めていたつもりだが、そうかあ~。

 そうなのかあ~。


「ダクテムでも厳しいとはなあ~。やっぱすごいな勇者! 魔王を倒そうってだけあるよな!」


「案の定、そーゆー感想になるわけですねえ、ゼルス様は……」


「なんだよ、そうだろ!? 勇者スゲーだろがよ!」


「マロネとしては、ただただくやしい限りですよ。ダクっちもいい仕上がりでしたのに」


「出て行ったときより強くなってたぞ。でも足りないか~、そうか~。うーむ奥が深い」


「課題が山積み、ってことには間違いなさそうですけどね」


「その通り! 燃えてきたというわけだよマロネ!」


 あの、とアリーシャが控えめに口を挟む。

 細い眉毛が寄り気味で、珍しく戸惑っているようだ。


「その……魔王様は」


「おう?」


「先ほどのダクテム様が、勇者のパーティを追い出されたことを……なんというか、ダクテム様の実力不足、とお考えなのですか?」


「そりゃー……」


 そうだろ?



お読みくださり、ありがとうございます。


次は11/18、19時ごろの更新です。

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