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第62話



「にゃにゃんっ!」


 という、癒やされレベルマックスな声と裏腹に、


ゴッ 「うぐっ!?」


ドッ 「ごはあっ!?」


どかんっ 「きゃひっ!?」


 重たい音と悲鳴が連鎖した。

 勇者たちが倒れている。

 剣士はひっくり返り、槍術士は吹っ飛ばされ、魔法使いは飛んできた槍術士にぶち当たって、目を回しているようだ。


 彼らと俺とのあいだに、アリーシャの腕から放たれた茶色い猫が立っている。

 二足歩行で。


「おいおい」


 俺は眉をひそめた。


「手を出せとは言ってないぞ? ラギアルド」


「ゼルス様」


 くりんとこちらを振り返る猫。

 西の防衛隊長ラギアルドは、ぴんと立てたしっぽを左右に振った。


「服がズタボロにゃ」


「ん? ……あ」


「止めるのが遅かったにゃ。またマロネ様にぶつくさ文句言われちゃうにゃ」


「う、うーむ。確かに何度もそんなことが……いやしかし、そう、今度こそマロネ以外の誰かに繕ってもらおう」


「無理にゃ。ぜったいマロネ様が手ずから縫うにゃ」


「なんで!? てゆーかだったら文句言うことなくない!?」


「そこが闇の精霊のめんどくさいとこにゃ。わかってやってほしいにゃ、愛にゃ。愛」


「にゃんこに愛を語られた……」


 それも、猫パンチと猫キックで、大のおとな2人をぶっ飛ばしたやつに(さと)された……

 さてはこいつ、自分が何をやっても、最終的には「カワイイからいっか」って思われるキャラだと理解してやがるな!?

 あざとい。にゃんこ魔獣あざとい。


「く……ま……まだだッ!」


 む。

 なんか剣士が立ち上がっている。


「まだ俺の聖剣は、光を失っちゃいない!!」


「そりゃそうだろ。ライジングとか言ってたじゃないか、自分で」


「そ……そういう意味じゃない!」


「てゆーかさっきのそれなに、お前雷系の魔剣士とかなの?」


「え、い、いや。違うが……斬れ味を上げて……」


「だったらライジングはおかしくない?」


「な、なぜこの魔王は細かいところをねちっこくツッコんでくるんだ!?」


 素朴な疑問なのに。


「うおおおお! 俺の聖槍だって、まだまだこれからだぜ!!」


 あ、またなんか復活した。


「わたしの聖杖も、早く魔王の血を吸いたいとすすり泣いているわ!!」


 1人だけちょっと方向性違ってて怖い。


「みんな、思い出せ! あの村の女の子との約束を!」


「ああ! 無事に帰ってやらなくっちゃあな!」


「お母さんのために薬草を持って帰ってあげるって、約束したものね!」


 なんか別の話はじまったし。

 ……というか。


「あの宿屋にも立ち寄らねばならない! 300ゴールドほどツケにしたままだ!」


「おい」


「息子と生き別れて以来酒におぼれちまった鍛冶屋もなんとかしてやらなきゃな!」


「おい」


「西へ100歩、北へ400歩、東へ200歩の地点へもまだ行ってないわ!」


「おい」


「う……、な、なんだ! 言い残したいことでもあるのか、魔王!?」


「……お前らがなぜ、イールギットを連れていこうとするのか。それはひとまず置いておこう。お涙頂戴話でテンション上がって、底力が出せるならそれもいい」


 だから。


「勇者になるなら、早くなってくれ」


「……は!? 貴様、なにを……俺たちは勇者だ!!」


「口で言われてもピンとこない。早く魔王を倒せ(・・・・・)るように(・・・・)なってくれ」


「え……!?」


「聖剣を持ってるから勇者じゃない。他人に言われたから勇者じゃない。さっきのが全力じゃないだろう? あれでは俺に傷ひとつつけられないことはわかったはずだ」


「ぐっ……!」


「勇者とは、魔王を倒せる人間だ」


 倒すために、すべてを(なげう)てる人間だ。

 俺が戦いたいのは、そいつ(・・・)だけだ。


「お前らは今、普通の人間だ。勇者を育てる人間社会の1員だ。ラギアルドにも追わせないでやるから、国にでも村にでも帰るといい。気をつけてな」


「き……貴様バカにしてるのか!」


「なぜだ? 来たときと同じようにすればいい。お前らは俺の領地の中で、ただの1回も魔族や魔物を倒さなかった。出会わないように隠れて動いていた。あれでいい。あのまま帰れ」


「なっ……なぜそれを知って……!?」


「もしも、どんな小さな魔物でも倒していたら。お前ら全員、アイツに粉微塵にされていたところだ」


 ぴくっ、とアリーシャの眉毛が動いたのがわかる。

 気づいていなかったか。

 今回、アイツはいつにも増して、陰日向に働いていたよ。


「ほら。どうなんだ? 魔王(おれ)を倒す手段を持っているのか? それともこれからひねり出すのか?」


「み……みんな! こんな戯れ言にひるむな! 力の限り戦えば、必ず勝機はある!!」


「それでもかまわん。さっきと同じだ。だがその場合、俺はもうラギアルドとアリーシャを止める言葉を持たない」


 いまだ本気のカケラも出していないラギアルドと。

 この剣士の聖剣など霞んで消えるようなランクの剣と腕を持つアリーシャとを。


「さあ、どうする? どうするんだ、人間?」


「な……なんなんだ、この魔王……ッ!?」


「どうする? 早く決めろ」


「う……!」


「どうするんだ!! ニンゲン!!」


「う、わっ……! み、みんな! 退くぞっ――」


 そのとき。


「待って!!」


 鋭い声が、木々のざわめきを制して響いた。




お読みくださり、ありがとうございます。


次は2/1、19時ごろの更新です。


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