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第59話



 翌日の昼すぎ。


「ということで、またここに大量のプリンがあるわけだが」


「バッカじゃないの!?」


 イールギットの情け容赦ないひとこと。

 やはり毎日聞きたい切れ味だな。


「バカでは作れんおいしさだぞ? イールギットのぶんも、ちゃんと冷やしてあるからな」


「そりゃどうも! アンタねえ、魔王でしょ!? 闇の精霊のドンだかなんだか知らないけど、あのガキちゃんと飼い慣らしときなさいよ!」


「まったくもっておっしゃる通りなんだが、今回のプリンはマロネ作ではないぞ」


「へ? そうなの……ってまさか、ひょっとして」


「心からおいしいと思った物は、自分の手でも作ってみたい。魔王がそう思っちゃ、おかしいですか?」


「おかしいわよ」


 解せぬ。


「ったく……それで? またここってわけ?」


 イールギットが頭をかきながら、魔族保育園のドアを見やる。

 うむ。

 この廊下にまで、すでに元気のいい子どもたちの声がもれてきているな。


「勝手はわかってるだろ? よろしく頼むぞ」


「はあ……、ってちょっと、待ちなさいよ。どこ行くのよ」


「うむ? 俺は戻るが?」


「ハア!? なにそれ、あたし1人でプリン配れっての!? こないだの人数を!?」


「そうだが?」


「冗談じゃないわ!? さばききれるわけないじゃない! せめてもう1人……!」


「何を勘違いしておるのだ、ニンゲンよ……」


 ごごごご、と俺は全身から魔力のオーラを立ち上らせた。

 魔王だぞ。こわいんだぞ。


「貴様は我が城に囚われている身分……口答えなどゆるされようはずもない……そうであろう……」


「急にそんな三点リーダー増やされても……」


「刃向かう者には、とこしえの苦しみを……今宵、まくらの中身が羽毛からプリンに変わっているであろう……」


「なんなのよアンタ……」


「我は魔王……めっちゃえらいものなり……」


「うすらやかましいわ」


 はあ~、とイールギットがばかでかいため息をつく。

 なんだよう、こないだ泣きべそかいてたくせに。


「別にいいけど、遅くなっても文句言わないでよね!」


「はげむがよい……怪我のないように……」


「うっかりテイムしちゃいそうだわよ、んっとにもう……」


 プリンのカートを押して保育所に入っていくイールギットをよそに、俺は魔王城の裏門へと向かった。

 待っていてくれたアリーシャが、ぺこりと頭を下げる。

 彼女は両腕で、小さな茶色い猫を抱いていた。


「案内役なのか?」


「はい。どうしても自らつとめると」


「なるほど。じゃあ行くか」


 アリーシャの腕から放たれた猫が、ととっと裏門を出ていく。

 そのあとについて歩き、俺たちは裏森へと足を踏み入れた。


 ピンと立てられた茶色いしっぽを見失わないように進む。

 俺たちが通っても、例のフラワーモンスターたちは身じろぎひとつしない。


「テイムが完全に定着しているな」


「魔王様が上書きなさったのでしょう? 親株に」


「そっちはもう解いている」


「え……?」


「このままにしておこうかと思ってるよ。じゅうぶんいい門番になってくれそうだ」


「……こちらから出向いて、正解かもしれませんね」


「アリーシャ、歩きづらくはないか? 肩車でもしようか?」


「いえ、大丈夫です」


「そう遠慮せずに」


「というか森の中で肩車などされては。足下はともかく上の枝に。魔王様。魔王様」


 森を抜け。

 川を渡り(ほら肩車が役に立ったろう)。

 また森に入って、しばし。


 猫が開けた岩場に出た。

 数人の冒険者が立ち上がり、武器を構えてこっちを見ている。

 ふむ。


「案内ご苦労」


 にゃーん、と鳴いた猫が、しっぽをふりふり俺のそばに控える。

 人間たちは皆、わけがわかっていない表情だ。


「だ……誰だ!?」


 リーダー格とおぼしき、ロングソードを構えた青年の声に……


「ククク……」


 ばっ、と俺はマントを翻した。


「よくぞこの魔王までたどり着いたな! 勇者たちよ!」




お読みくださり、ありがとうございます。


次は1/22、19時ごろの更新です。

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