第54話
「おっ……?」
なんて気楽に構えていたら。
あっというまに宙ぶらりん。
俺が。
「ちょっ……ま、魔王おおおーーーーーっ!?」
「おっとっと。これはびっくり」
女王ともなると、俺にも手を出してくるのか。
知らないうちに足に触手……もう触手でいいや。
それが巻きついていて、俺をぶんぶかぶんぶか振りたくってくれている。
「お~お~お、視界がワイルド」
「だ、だ、大丈夫なの!? 大丈夫なのー!?」
「パワフルな子どもにもてあそばれる人形って、こういう気持ちなんかな?」
「知らないわよ!? いやまあそんだけしゃべれりゃ大丈夫よね!?」
「うむ。焦ることはないぞ。しっかり戦ってくれ」
「え、ええ……! ……っ……」
む……?
どうしたイールギット。
額に汗がうかがえる……
さっきまで、あれほど駆け回り、跳ね回り、おまけに俺へのツッコみまでこなして、それでもスマートなたたずまいだったのに。
視線が定まっていないぞ?
「近づかなきゃ……でもそもそも狙いどころが高い! 頭を下げさせないと……!」
「ふむ……」
「動物なら脚を狙うとこだけど、効果があるとは思えない……イチかバチか……!」
「イールギット。落ち着け」
「いくわよ……!」
両目を大きく見開いて、イールギットが走った。
横に。
女王の繰り出す触手をかわして、森際の木に突撃していく。
おいまて。
そこにも1株、フラワーモンスターがいるぞ!?
「<テイム>ッ!」
イールギットに指さされ、子株がぴたりと動きを止めた。
テイムがかかりづらい。手こずっている。
しかしそれでも、
「<ラオネルド>!」
さらなる力押しに、子株の動きが止まった。
瞬間的に力を増幅し、強引にテイムを押し通すスキルだ。
火事場の馬鹿力としては使えるが、持続力がないので耐えてくる強敵相手には分が悪い。
子株の触手が、イールギットにのびて――
それを足場に、イールギットが飛び乗った。
テイム成功したか!
「うおおおおおおお!」
『シャギャアアアアアアアア!』
触手が空中高く伸び上がる。
イールギットがそのまま、身を投げ出すようにして、女王フラワーを指さした。
「<テイム>ッ!」
どわんっ、と薄い木の板に重たい物をぶつけたような音。
両者のあいだの空間が、力と力のせめぎ合いに、ねじれるようにたわんで――
バチンッ!
と衝撃をともなって弾けた。
これは。
「ぎゃんっ!?」
地面に落っこちて、イールギットが野性味豊かな悲鳴をあげる。
そう、失敗だ。
相手もふらついてはいるが、力が空中で弾けて、入っていかなかった。
余波で子株へのテイムも解けているようだ。
もう1回、できるか……?
「く、くそっ……! あきらめないわよ……!」
「なぁにをとろとろ……」
背後からの声に、イールギットが身構えて振り向く。
そのさらに後ろに回りこんだ彼女が、イールギットの腰にガシッと両腕を回した。
「やってんのよ!」
「ちょっ、アンタっ、待っ――」
「そおらいけえ!!」
ぶんっ
と反り投げの要領で、イールギットが天高く放り投げられる。
すごいな。
闇の精霊はこんな技も持ってたのか、マロネ。
「ふぎゃっ!?」
『シャゲッ!?』
ぼてっ、とイールギットが落下したのは、女王フラワーの花びらの上。
状況がつかめないのか、両者しばしの沈黙。
もぞもぞと、イールギットが思いのほか安産型のおしりをふりふり、花の上で安定を模索して……
「<テイム>ッ!!」
足下を指さし、スキルを敢行した。
じん、としたしびれのようなものが、女王フラワーの表面を伝わってゆくのがわかる。
距離がよかったのか、なんらかのツボをとらえたのか。
『シャ……ギ、ギギ……』
「っし!」
イールギットの完勝だった。
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