第53話
「つっても、この手の魔物は……」
ざ、とイールギットが裏森に向き直る。
なんらかの気配を敏感に感じ取ったか、シャゲゲゲゲ、とフラワーモンスターどもがいっせいに蠢いた。きもい。
「テイムも難しいけど、その後の反応も予測しづらいのよね……」
「じゅうぶん気をつけるんだぞ」
「わかっ……てるわようっさいわね!」
魔王怒られた。
心配したのに……ってまあ、けしかけてもいるから、そりゃ怒られるか。
イールギットの言うように、知能が低い魔物には、むしろテイムは通りづらい。
高すぎても抵抗が強いが、人によってはそっちのほうがまだやりやすいとも言うな。
だが、イールギットほどのレベル、ましてや魔王を倒そうと志す者は、そんな選り好みなどしていられない。
単なる森のお手入れではないぞ!
イールギットの手腕やいかに!?
「ふー……!」
細く息を吐いたイールギットが、キッと視線を鋭くする。
「行くわ!」
そのまま地を蹴り、まっすぐに森へと――つまりはフラワーモンスターたちへと突っ込んでいった。
『シャギャアアアアアアア!!』
怒りの咆哮? とともに、モンスターたちがうごめく。
蔓草をムチのようにしならせ、イールギットをからめとるつもりだ。
「はッ!」
風のスキルと身のこなしで、イールギットが次々と攻撃をかわす。
すごいな。
木立や茂みに囲まれる森や山じゃ、風はコントロールが難しいのに。
「腕を上げたな、イールギット!」
「まあねっ……ってなんでついてきてんのよ!?」
「大事な囚人にケガされたら困る、当然だろ」
「ここ数年でダントツに意味わかんないこと言われた!」
そうか?
「アンタのことまで世話できないわよ!?」
「それはかまわん。こいつら、俺の言うことは聞かんが、襲ってもこないから」
「なんで!? ずるくない!?」
「そこはー、まあー、魔王の特権と言いますかあー」
「そのしゃべりかたっ……やめなさいよね!」
ずばずばっ! と腰から引き抜いた長山刀で、イールギットが蔓触手を切り払う。
返す刀で薮をも薙いで、森の奥へと突進した。
「入り口さえ抜ければ楽かと思ったけど、やっぱ森の中にもうじゃうじゃいるわねっ……!」
「そうだな。ところで、俺はテイムを頼んだはずだが?」
「黙ってついてきなさいよ! こんなやつら、いちいち足止めてテイムしてたら、あっというまにぐるぐる巻きにされるわ!」
「そんなイールギットもかわいいかも」
「うるっさいッ! 狙うのは親玉よ、アンタみたいなね!」
「ほう」
「こいつら植物系だし、群生してる! 絶対に女王がいるはずよ。ザコより知能が高い期待も持てるし、そいつをテイムできれば1発だわ!」
さすがだ。
急場での的確な状況判断こそ、戦いのキモといえる。
テイムとて決して最強のスキルではない。
それをよく心得ているな……
しかし……
「女の……」
「あん!? なんか言ったあ!?」
「女のイールギットが、植物とはいえ女王をテイム、か……ごくり」
「何考えてんの今さら!? チャームじゃないんだから、普通でしょうが!」
「そーだけどね。魔王とて想像しちゃうお年頃」
「このヘンタイッ! だいたいこないだ、アホアホ闇精霊だってテイムしたっつーの!」
「うむ、あのときも実は、ちょっとドキドキしてた。こいつらほんと仲いいなって」
「目ぇ腐ってんの、げほっ! ちょっ、走りながら戦いながらツッコみながらってつらすぎるわ! だいたい女王っつったって、見た目にわかりやすいとは限らないんだから! さがすのジャマしないでよ――」
ゴシャアアアアアアア!!
と、ひときわ大きな雄叫びに、イールギットと俺は足を止めた。
水のにおいのする、森の奥地。
さらさらと流れる湧き水のそば――おそらく『いい位置』なのだろう、少し開けた土地に根を下ろしている飛び抜けて大きな古木に、これまた飛び抜けて大きなフラワーモンスターがへばりついていた。
大きさは、子株の倍近くあるだろうか。
触手、じゃない蔓草にはトゲのような毛が生え、色もなんとも毒々しい。
ゴヒュー、と吐息する口は花びらと1体化し、そこだけ妙に美しかった。
間違いなく、こいつが株主。
「よかったな。わかりやすかったぞ、女王」
「そーねー……」
女王を見上げるイールギットの目に、「死んだかも」の意思が見て取れる気がするが。
ま、大丈夫だろ?
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