表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/128

第51話



 その夜、俺の自室。


「少しずつ、調子を取り戻しているようだ」


 食後の酒を楽しみながら、俺はアリーシャたちにうなずいた。


「しばらくは、あのままがよかろうな。また勇者として魔王城(ここ)を発つ気力が養われるまでは」


「イールギット様ご自身にも、それは難しい判断かと思われますが」


「そうだな。だが俺にもどうしようもない。結局まだ、本人の口からは、なにも聞けていないことだし」


「……左様ですね」


「なに、それほど心配することもないんじゃないか。人間には悩むことも必要と聞くしな」


「わたしは、以前のイールギット様を存じ上げませんので、なんとも言えませんが……魔王様がそうおっしゃるのであれば」


「うむ。もともと前向きで、明るく強い子だ。今日も園児たちのパワーに押し負けていなかった」


「すごかったですね」


「ああ。ついにアーンはしてくれなかったが」


「それはそうかと」


 つまんな~い、とマロネがなにやらぶーたれる。


「もっとこう、囚人っぽいことさせましょーよー。囚人っぽいことー」


「どんな欲望だよ。なんだ、ぽいことって?」


「昔の人間は、奴隷を猛獣と戦わせてたそうですよ?」


「えっひどい。なんでそんなことするの?」


「さあ? 見世物なんじゃないですか。うちだと誰だろ、ラギアルドあたりですかね?」


「確かにあいつライオンっぽいけど、ダメだぞそんなの。イールギットかわいそうだろ」


「囚人なのに……」


「あとテイムされて終わりな気がする」


「相変わらずテイムうざい……ラギアルドがんばって……」


 確かに、とアリーシャがまじめな顔でうなずく。


「体を動かすということは、どんな状況でもそれなりの気分転換になります」


「アリーシャたん……マロネ、そんな建設的な意見出したつもりないもん……」


「今日のことも、なかなかの体力仕事。あのくらいでいいのではないでしょうか。気分が変われば、イールギット様もスローライフを楽しみはじめるかもしれません」


「楽しまなくていい……苦しめ……もっと苦しめ……!」


「マロネ様がこうやって自分からお構いになることも、実際わりと良い効果をもたらされているかと」


「な……なんだってーーーーーッ!?」


 なるほど。そういう考え方もあるのか。

 人間の心は奥が深いなあ。


「まあ、マロネはイールギットにばかりかまけていてもらっても困るが」


「うぐぐぐ、魔王様までそんなことを。根本的に作戦を練り直さないとっ……!」


「せんでよろしい。アリーシャ、おまえはイールギットを見ていてやってくれ。同じ人間だ、なにか細やかな変化に気がついたら、教えてもらいたい」


 承知いたしました、とアリーシャが1礼して、俺の部屋を出て行く。

 自分の修行もあるというのに、本当にいい子だ。


「俺も今日はずいぶんやられたな。あの子どもたちのエネルギーときたら……やれやれ、腰が痛い」


「もみましょっかー?」


「おお、頼む」


 どっこら、とベッドにうつぶせになる。

 マロネがぴょいと背中に飛び乗り、でやでやと腰を圧迫してくれた。


 うぅ~む、闇の精霊。

 重さはほとんどないのに力はある。

 まこと便利な存在……あ~~~効くのお……


「イールギットの元パーティが近づいております」


 背中からの声に、俺は反応しなかった。

 目を閉じたまま、マロネの静かな報告にじっと耳を澄ます。


「すでに西の隣国に入ったとのこと。ゼルス様の情報を集め、装備を調えているようです。精霊までは使っていないようなので、大したことがわかるとも思えませんが」


「何のために……?」


「調査中です。しかしゼルス様……あいつが罠(・・・・・)、ということは考えられませんか」


「イールギットがか」


「はい」


 ふむ……

 わざと囚われたイールギットが、なんらかの手段で勇者に情報を渡し、いざ乗り込んできたときは内側から呼応する。

 なるほど。


「アリーシャだけでは心許ないかと。常時見張りを張りつけたほうが、まくらを高くしておやすみいただけます」


「そうだな。だが、マロネよ」


「はい」


「イールギットが勇者と呼応し、俺を倒さんとしている。それの何が問題だ?」


「ゼルス様……」


「見事な策じゃあないか。いったいどんな勇者が来てくれるのか、楽しみだ」


「ゼルス様。勇者パーティはともかく、イールギットを甘く見られては」


「わかっている」


 腰をはなれ、肩に置かれたマロネの小さな手を、俺はぽんぽんとたたいた。


「わかっているとも。甘く見たりなどするものか、おまえのライバルを」


「……マロネは、あんなやつのテイムなんて、へのかっぱです」


「そうか? それにしては、ずいぶん甘えてくれたじゃないか」


「あれはそうしたいからです。いつだって。……マロネは、いつだって」


 ぴた、と背中に張りつく気配がする。

 軽いからこそ、しっかりと伝わるにおい。

 次の瞬間、ふ、とそれが消え失せた。


「おやすみなさいませ」


 それきり、なにも聞こえない。

 首筋に触れたマロネの吐息だけが、ふしぎな存在感をいつまでも残している……


 しばしのち、俺は寝返りを打った。

 天井を眺め。

 身を起こし。

 うむ、と小さくうなずく。


「マロネよ」


 反応はない。


「マロネよ」


「……へ~い」


 ガチャ、と普通にドアが開いた。

 かつてない渾身のふてくされ顔で、マロネがぺたぺたと入ってくる。


「なんスか。なんスかマジで」


「いや、ちょっと用事が」


「ふつー呼びます? あの雰囲気で出てって? 甘い余韻を楽しみながら『愛いやつ……』とか呟くとこじゃないんスか今こそ」


「なんかごめん」


「あ、それともアレ? 思いのほかツボに入っちゃって、マロネとえろいことしちゃう気になりました? どんとこいばっちこい」


「伝言を頼みたい」


「憎しみで魔王が殺せたらっ……!!」


 ぎりぎりぎり、と奥歯をきしませるマロネに。

 至急だ、と俺は付け加えた。


「西を守るラギアルドに、伝えてくれ」



お読みくださり、ありがとうございます。


次は12/29、19時ごろの更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ