第41話
ドンッ!!
と、耳の奥で太鼓が鳴ったような衝撃。
少女の魔力が、こちらに向けられた指先と呪文とから、俺に流れこんできている。
体内で、俺の魔力と共鳴し、染め上げようとしているのだ。
テイムは、魔力を備える生き物すべてに通じる。
すべてに通じるんだが、なんというかな、魔力依存度というか、含有度というか……
存在するために消費するエネルギーの割合が、魔力に比重がでかいか物理に比重がでかいかで、効き目に違いが出るわけだ。
当然の話だが、魔力に大きく依存している生物ほど、効果が強い。
人間は、かなり大きく物理寄り。
魔族は無論、魔力寄りだ。
種族にもよるが、たとえばマロネのような精霊なんかは、純度100%近く魔力依存。さっきはよくがんばったほうだと思う、マジで。
すなわち、俺も……
種族的にいえば『魔人』であるこの魔王も。
かなり、ほぼほぼ、ばっきばきに、魔力依存の生物ではある。
あるんだが。
「な……なっ……なんで!?」
少女の大きな瞳が、焦りの色にはっきりとゆがむ。
「なんで効かないのっ!? そ、そんなわけない!」
「あ~……」
「手応えはあるのに! ちゃんとテイムしてるのに! ……え、まって、実は効いてる? 3回まわってワンと言え!」
「ワン」
「あ、言った。わーい。いやだまされないわよ!? 3回まわってないじゃない!」
「マロネがどかないからまわれないのだ」
「あっ、そういうこと!? じゃあテイムはかかってる!?」
「いいや?」
「なんでやねん!!」
おおっ……久しい、久しいぞ!
マロネをもしのぐこのツッコみ力!
西方の血がまざるこの子だからこそ。
このリズム感が愛いくてたまらん。
「まあ実際、テイムはされていないが」
「ど、どうして!? うそよっ……! まだそんなにも力の差があるっていうの……!?」
「いや、そんなことはないと思うぞ。立派なスキルだ」
「くっ……さ、さすが魔王。最上級の嫌みね……!」
「いやいや、ほんとに。見事なものだぞ。証拠にマロネはこの体たらくだ」
「わああ、まだすりすりしてる!?」
「これはこれで、正味けっこうなダメージだ。見事なり勇者よ」
「うれ! しく! ないわッ!」
独特の気合いとともに、少女の術式が力を増した。
胸の前で両手を組み、印を結んでスキルを後押ししている。
全身全霊でもって、俺を支配下に置こうというわけか。
なんという覚悟だ……
己の身ひとつ、常に乾坤一擲。
これほどの力を身につけたならば、万の魔物を操ることも可能だろう。
「なぜ、そうしなかった?」
「な、に、があ……!?」
「足がわりのペガサス1頭。千頭にすることもできただろう? 光の死霊でこの城を埋め尽くすことも、不可能ではなかったはずだ」
「そんなのっ……!」
「にもかかわらず、この魔王をテイムできるかどうかという、イチかバチかの勝負に出た。どうしてだ?」
「こ……たえる義理は!! ないッ!!」
すばらしい。
「ぐ、う、っう……ううう!!」
少女の全身が小刻みに震えはじめる。
力を振り絞り、この魔王をねじ伏せようともがいている。
いいぞ。
本当にすさまじいスキルだ。
並の魔物なら――いいや。
たとえ魔王であったとて、抵抗しきれたかどうか!
「ぬぐうううおおおおおおお!!」
「もう……いい。もう、よくわかったぞ、勇者よ」
「勝手に! いいことに! する、なああああああああ!!」
「やめろ! 確かに俺は魔王だ、魔力抵抗も高い、だがそれだけじゃない!」
「うるさああああああああああ!!」
ブツッ、と少女の鼻から血が吹き出る。
口の端にも血がにじみ、目つきは飢えたブラックドラゴンさながら。
全身の震えも大きさを増し、魔力の放出を懸命に制御している。
己の限界を、超えようとしているのか……
見たい!
いやしかし、このままではこの子の体のほうが保たんぞ!
「聞け! 勇者よ……いいや、イールギット! 我が愛弟子イールギットよ!」
「あぎいいいいいいいいい!!」
「俺にテイムは効かんのだ! 魔力の強さがどうこうじゃない!」
「ぐぞあああああああああ!!」
「俺はもう……すでにもう、おまえに!」
勇者に。
「魅了されているようなものだからだッ!!」
瞬間。
ふっ……と少女が白目をむいた。
強ばりきっていた体からも力が抜ける。
魔力の限界を迎えたか?
それとも我が声が届いたか?
「なん……じゃ、そ……りゃあ……」
ふらふらと、よろめき離れた少女――
イールギットは、白目のまま、どうとその場に倒れこんだ。
「い、イールギットーーーッ!?」
「ゼルス様、テイムってそーゆーものじゃないっス」
「ていっ」
「ぎゃんっ!?」
マロネを引っぺがしてペガサスにポイ捨てし、俺はイールギットに駆け寄った。
すまない……! すまないイールギット!
力を尽くすおまえに見惚れて、止めるのが遅れてしまった!
立派だったぞ!
よくがんばったな!
鼻血まみれの白目でも、実に愛いやつだイールギット!
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