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第4話



「ほう……!」


「おおおおおおお!」


 吠える男の全身に、今までにない力がみなぎっている。

 狙い通りに事が運んでいるのだろうに、少しも油断した様子はない。


 裂けた大槍の破片も、短槍と同様だ。

 意図的でなければなりようもないほど粉々になって、この魔王を何重にもとりまいている。

 破片のひとつひとつに、確かな力が宿っているのがはっきりとわかった。


 これが、狙い澄ました勝負手。

 なるほど!


「<ランダウンフォーギュスト>!!」


 ドムンンンン……!!


 地の底まで震わせるような轟音とともに、俺の体をゆがんだ力が襲った。

 これは。|


 支援技・・・


 本来は、味方の力を増幅させ、サポートするスキル。

 その応用だ。


 俺の中にある魔力を暴走させようとしている。

 俺が自らスキルを使うことを防ぎ、なおかつ力の方向をコントロールして、自爆に至らせようと押し包んでくる!

 なんと繊細な技だ。


「すばらしい……!!」


「……くっ……!?」


「見事な力だ、勇者よ。そうとも勇者よ」


 押しとどめられていた右足を、俺は改めて振り上げた。

 ドッ、と石床(いしどこ)に叩きつけると同時。

 俺の周囲でうずまいていた力が吹き散らされる。


「ぐあっ!?」


 猛烈な余波に襲われて、男がよろめき、倒れた。

 慌てて起き上がったときには、俺がもう、目の前にいる。


「……――~~~ッ……!! ……う」


「勇者よ」


「うおおおおおおお!!」


 弾かれたように立ち上がり、男は右腕を振り上げた。

 その場から動かない俺の左目を、正確に拳が捉えて――


「ぐ、っあ……!」


 砕けた指を押さえ、男が後退った。


 ……さっきのスキルに、力のすべてを込めたか。

 今のパンチは、何の魔力もまとっていなかった。

 ただ生身で、向かってきた。


「……ふ、く、ふふ」


 男が、今度こそはっきりと苦笑し、両腕をだらりと脱力する。


「ワシの負けだ……殺せ」


「ダクテムよ」


「!!」


「ダクテム・オルテドスよ。腰を下ろせ」


 ほうけた表情の男の肩に手を置き、俺はむりやり座らせた。

 玉座のほうを振り向くと、すぐにアリーシャが駆けつけてくる。


 なかなかに心得たものだ……

 俺の弟子というだけで、配下でもなんでもないんだけどな、アリーシャ(この子)は。


「彼の手を治療してやってくれ。マロネが来るまでの間に合わせでいい」


「承知しました」


「俺の使える回復スキルは、人間には合わん。もっと死にかけレベルに重傷ならともかく、拳が砕けたくらいだと、治りすぎて手がもう1本生えかねんからな! はっはっはっ」


 話が! と男が――ダクテムが立ち上がった。

 よほど不本意らしく、ひび割れた唇を噛みしめている。

 まあ、そりゃそうだろうがな。


「話が違う!! 再び(まみ)えるときは、真剣勝負と……命のやりとりと! そう約束したはずだ!!」


「やかましい、このバカモノ。先に約束を破ったのはおまえのほうだ」


「なっ……!?」


「倒しに来いと言ったぞ。俺はな。勇者となって、俺を倒しに来いと。真剣勝負、そう、この命を奪えと! そういう約束だったはずだ」


「なればこそ――」


「死にに来い、などと言った覚えはない」


「……!!」


「約束を破った罰だ。娘以下の年齢のカワイ子ちゃんに世話される屈辱を味わうがいい」


 しばらくそのまま立ち尽くし、やがてダクテムは、倒れこむように腰を下ろした。

 ふはは、とまたしても苦笑が聞こえてくる。


「これは……1本、取られましたな」


「だろうよ。さっきのも俺の勝ちだからな? またたくまに2本取られた気分はどうだ?」


「悪くありません。ええ、久方ぶりに……どこか、胸がすっとしたような気分です」


「約束はどうあれ……」


 俺は片ひざをつき、ダクテムの左手をとった。


「武器が尽きても、よく向かってきてくれた。それでこそ勇者だ」


「……いえ。自分は……」


「光なき死地に光を見出すことこそ人間の力だ。次は(こっち)の手でも殴ってこいよ! 急に拳に力が宿って、魔王絶対殺すパンチにならんとも限らんからな」


「そんな……はは。はははは……!」


 わざと大きく笑ってみせるダクテムの目じりに、わずかな涙が光るのを、俺は見逃さない。

 ダクテムよ……

 おまえ……


 相変わらず感受性の強いやつめ~!

 こいつめこいつめ、愛い愛い~!



お読みくださり、ありがとうございます。


ここまでで、もし「おもしろい」と感じていただけたり、

「オッサンがかわいいとは……!?」と首をひねってくださったり、

そういうのなくてもお心がゆるすようでありましたら、

この下にあります☆☆☆☆☆を、

★★★★★にする心やさしきひと押し、

なにとぞよろしくお願いいたします!


次は11/17、19時ごろの更新です。

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