第31話
「まったく、ダクテムのおっちょこちょいめ」
ぽりぽりと頭をかきながら、俺は深くため息をついた。
とんだ無駄足を踏んでしまったじゃないか、まったく。
「ファレンスが勇者じゃないってだけなのに、勢いあまって俺に挑みまでして。早とちりにもほどがあるぞ」
「ぜ……ゼルスン、貴様。何を言って……」
「逆にアレか、そういうところが足りなかったという話か。そうかー、そうだよなあ。いやでもそれはもう人格形成とかの範囲で、俺がそんなことしちゃっていいんだろうかとちょっとビビリの心地」
「ゼルスン! 何をわけのわからんことを言ってるんだ!?」
「……いや。わけはわかるだろ」
なあ? とアリーシャに顔を向ける。
彼女は珍しく、複雑そうな表情で目を伏せた。
「まあ、わたしには……。同じ人間として、歯がゆいところも正直ございますが」
「アリーシャが気に病む必要はないだろう。おまえは立派な勇者候補なんだから」
なあ? と今度はファレンスに視線を戻す。
「ど……どういう意味だ……!?」
いや、だから。
「ファレンスは勇者じゃなかったけど、アリーシャはきっとすごい勇者になれるはずだ、って」
「わっ……私は勇者だろうが!!」
「いやいや」
「勇者ファレンスだ!! 気は確かかゼルスン!? 国家公認の私にっ……とんでもない侮辱だぞ!!」
「信じたけどな、俺も。それ。でも違うだろ」
「違わない!! 違うってなんだ!? この剣がっ…………」
手元にないことを思い出したのか、慌ててファレンスが聖剣ロンダルギアを拾ってくる。
おいおい気をつけろよ、そんなに焦ったら転ぶぞ? 転んだら死ぬかもしれないだろ。
勇者じゃないんだから。
「この剣が証明してくれている!! 私の物だ、私の剣だ!!」
「それがどうした」
「っゆ……勇者しかもらえない剣だ!!」
「渡したやつが間違えたんだろ」
「な、あっ……!?」
「気にするな。人間だもの、間違いは誰にでもある」
こういうのは、間違えられた側も傷つくというからな。
「ど、どこまで愚弄するつもりだ……!? このファレンスを、数多の賞賛を受けてきた勇者を……!!」
「……おまえのどこに勇気があるんだ?」
「な……っ!?」
「おまえ――」
ゴブフフフフフフ、と低い笑い声が響く。
相変わらず壁からは離れずに、バドマトスがにやついていた。
「何を内輪もめしているのかしらんが取引とはおもしろいその小物ぶり気に入ったぞ満月がくるたびに20歳以下の生娘を生贄として差し出すならば」
「あ~。すまんな、バドマトスくん。ちょっとだけ待っててくれるか?」
「ゆるしてやろうそれともうひとつ条件があるこの魔王の伝説をうたう吟遊詩人を連れてくるのだそいつに我が力の恐ろしさを讃える歌を作らせそして」
「ちょっと待てっつーに。あとで句読点の入れかた教えてやるから」
「おい貴様さっきから何をえらそうにしている我はそこの勇者と話しておるのだ邪魔立てするなら容赦はせんぞこの洞窟の氷に永久に封じこめられたくなければ」
「人の話を――」
自己主張の強い子はきらいじゃないが……
「聞け!!」
左手を軽く振り、魔力を解放。
スキルのかたちは与えずに、ただの力のかたまりのまま、バドマトスに向かって投げ放つ。
ゴ、
と突風に似た震動が湧き起こって、
「ウオグオグワアアアアアアアアア!?」
吹き飛ばされたバドマトスが、巨体で壁をぶち破り、神殿の外へと転がっていった。
……ちょっとやりすぎたか?
ごめんな。あとでほんとに言葉の面倒は見るから。
カンカラン、と乾いた音がした。
ファレンスが剣を取り落とし、愕然と立ち尽くしている。
「あ……あの、魔王、が。1撃……?」
「おまえ、ファレンス」
「ひいっ!?」
「バドマトスに、なんて言った?」
ほんの数分前のことだ。
まさか忘れてはいるまいが。
「生かして帰せ? 生贄? 勇気の産物とは、真逆のことを言っているように、俺には聞こえたがな」
「ゆ……勇、気……?」
「聖剣を持ってたら勇者か?」
「う……」
「国家に認められれば勇者か?」
「うう……!?」
「あるいは今は、そうなのかもしれん。人間はソレを勇者と呼ぶのかもしれん」
だがな、と瞬間、俺は目つきを改めた。
「そんなもので魔王を」
俺を、
「倒せると思うな!!」
「ひぃっ……!!」
烈波となって噴き出した魔力に押されて、ファレンスがまた地面に転がる。
アリーシャと弓ちゃんも、1歩2歩たたらを踏んだ。
……いかんいかん。
つい熱くなってしまったな。
勇者じゃない者に聞かせても、しかたのない話だった。
「まったく……あのなファレンス、いいか? スライムの子どもでもわかる理屈だぞ、こんなのは。ケンカ強いだけのやつなんて、世の中いくらでもいるんだよ」
「け、ケンカ……!?」
「そんなやつ、いくら仲間にしたって、本当の土壇場じゃ役に立たない。むしろ危険要素にすらなる。……魔王は、そんなやつばかりだ」
俺もな……。
少しのあいだだけ目を伏せ、すぐにアリーシャに向き直る。
「帰るか。育成プログラムを再考せねばならんな、結果的には」
「はい」
「マロネ。召喚を頼む。……マロネー? あれ。あいつまたおやつ食ってやがんな……」
待ってくれ! という言葉に振り返る。
へたりこんだままのファレンスが、ずりずりとこちらに這い寄ろうとしていた。
腰が抜けているのか?
というかなんだ、そのすがりつくような目は。
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