第23話
「しかし、はてはて……」
俺は視線だけを動かして、ロング・ボウの弓術士とフルプレートの重装兵士を見やった。
「どう思うアリーシャ?」
「はい、ゼルスン様?」
「あの弓ちゃんと、鎧くん……」
なんかさっき、ファレンスに名前呼ばれてた気もするな。
ぜんぜん覚えてないけど。
「まるで動かんぞ。ただの1匹も、ゴブリンを倒していない」
「手出しすらしていませんね」
「今まで、俺が見てきたパーティは……」
すなわち、辺鄙な俺の居城までたどり着き、戦いを挑んできた誉れ高き勇気ある者たちは。
「こういう感じではなかった、と思うんだがな。流行りか? 現代っ子ってこうなの?」
「ファレンス氏の指示に従っているようですが」
「そうだな、確かにその通りだ。だが、つまり? そういうことなのか?」
「……ゼルスン様、わたしにはお言葉が難しいです」
「おっと、そうか? ははは、すまんすまん。アリーシャは何も気にする必要はない、普段通りで」
「はい」
「すまんやっぱりひとつだけ。マロネの影響だと思うけど、氏はやめろ。やめるんだ」
「はあ。相手取るときには、様付けを心がけますが」
「わかっている。だがそうじゃない。きみだけはマロネ色に染まらないでくれマジで」
承知しました、とうなずいてくれる気配。
いつもながら、なんて素直なんだ。愛い愛い。
マロネもこのくらいおしとやかであれば……
『このオレンジ果汁を混ぜこんだクリームといったら!』
こンの野郎マジでぶっ飛ばしてやりてえ!
優雅なおやつタイムだと!?
しかもなんか、また普段俺には出さないレベルのモン食ってやがるな!?
ゆるさん!
ツインテ引っこ抜いて鉢植えにしてやる!!
「はっはっはっはっはっ!!」
あ。
気づいたらバトル終わってた。
鎧についたゴブリンの返り血をぬぐいながら、ファレンスがこっちに戻ってくる。
「見たか! ゴブリンどもめ、たかだか16匹程度で私を止めようなどとは、まったく頭の足りんことだ! どうだ!?」
まあそうだな、ととりあえずうなずこうとした俺だが、
「当たり前だよな! ファレンスのダンナにかなうわけねえ!」
おっと鎧くん反応が早い。
どうした急に、さっきまでとは大違いだぞ。
「5分37秒しかかかってないよ! さすがよねえー!」
まって弓ちゃんなにそれきみ数えてたの?
ずっと? 秒単位で?
ツッコミ待ちか?
「なに? 5分もかかってしまったか……!」
ファレンスも反応するしよ。
「確かに、初手で出てきた連中にしては、思ったよりしぶとかったな。だが、このファレンスの剣には関係ない! 駆け出し冒険者パーティなら2部隊がかりの仕事を、1人でこなしてしまったな!」
「1人で……?」
「ゼルスン、きみはどうだ?」
いぶかしげに呟くアリーシャをよそに、ファレンスがこっちに顔を向ける。
「自分のスキルを、初めてこのファレンスに役立てた感想は?」
え、なんだその質問!?
やばい想定外だった。
魔王この文化知らない。
むしろこっちが「どうだった」と聞きたいくらいなんだが……
「そうだな……」
うーん、実は……
感想よりも疑問があるんだよな。
まあ、勇者の考えがあったんだろうから、いいか。
あ、そうだ。
かつて、ある魔王が勇者にこう言った、っていう有名なセリフを、マロネから教えてもらったな。
確か……
「世界の半分をあげてもいい、と思ったよ」
「……おお? なんだそれは、っはっはっは! 私に王族にでもなれっていうのか? 悪くないが、いささか面倒だな! はっはっはっ!」
機嫌良さそうな高笑いに隠れて、
『ゼルス様、それ、魔王のセリフじゃないっス』
マロネのささやきが降ってきた。
そーなの?
まあいいじゃん。実に便利な言葉だ。
「ファレンス様」
先へと進みかけたパーティの足を、アリーシャの声が止めた。
「なにかな?」
「なぜゼルスン様に、肉体強化型スキルを要請なさったのですか?」
「ん……?」
「火属性強化のスキルが妥当だったように思うのですが」
ファレンスが振り返る。
どうしてか、その眉間には深いしわが刻まれていた。
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