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第122話



 パチン、とアードランツが指を鳴らす。

 鉄を鋳溶かす炎にさらされ、作業していたらしいゴブリンたちが慌てて場所を空けた。

 地下のひやりとした空気と、溶鉱炉のよどんだ熱気とがぶつかり合う。


「いずれは我も、コウアトルを駆ってこの城から打って出ることになるでしょう。単騎とて、王城の上空をとってしまえば、我を止めうる力など王国の勇者パーティにはない」


「だろうな」


「そのときにこそ、我は名実ともに、魔王と呼ばれる心づもりでおりました。ゼルス様にははるか及ばずとも、この世の闇に寄与せんがため……」


「……あくまで勇者になる、んじゃなかったのか?」


「勇者にも、様々ございましょう」


 ふむ……?

 俺には今ひとつ、よくわからないが……?


「ゼルス様。はからずもユイルーめの言う通り、ゼルス様はまさしく魔王であらせられる。魔人種の中で、最もの力を持つ御方……」


「魔人には龍族みたいな序列はないけどな」


「明らかなことなれば。しかし、我はあくまでも人間です。かつて人の身のまま魔王と呼ばれた者も在りましたが、我は彼等と同じ道ではなく、ゼルス様の道をこそ歩みたい」


「なんかほめられてるか?」


「この上もなく」


「照れるぜ……で、とどのつまりここは、どういう場所なんだ?」


「人に恐怖と絶望を振りまく……それこそが魔王。人間である我がただ王国に攻めこんだとて、それは単なる侵略行為と認識されてしまうことでありましょう。しからば……」


 パチンッ、とアードランツが指を鳴らした。

 鋳造所の奥、ひときわもうもうと湯気や煙の立ちこめていた区画に、ぶわっと風が起こる。

 晴れた視界の中、大きな台座に乗せられた何かを、ゴブリンたちがゴロゴロと押し出してきて……


 ……こ……

 これは!?


「恐怖の象徴として、よりわかりやすい明示を与えてやればよいのです」


「鎧……?」


「左様」


 アリーシャの呟きに、アードランツが大きくうなずく。

 確かに……

 確かにこれは、この黒々とした金属的なシルエットは。

 鎧、だが……


「全高1.5馬身。人からすれば無理なく見上げられる限度。巨大が過ぎてもいけませぬ。理解の及ばぬものからは、恐怖は得られても絶望は得られませぬゆえ」


「なあ……」


「全身魔力加工はもとより、ミスリルコーティングによる擬似的な結界機能も付与。両腕にある各3枚のブレードは、いずれも上級魔剣を使用しております。肩にも付けたかったのですが、可動域を考えると着用者の頬に突き刺さりかねないので、かわりにドクロを模したデザインを施しました」


「なあ、アーくん……」


「重量は1.5馬分ではすみませぬが、魔力補助が利きますゆえ着用者はほとんど重さを感じることもございません。胸の部分の紋様は、闇に覆われゆく太陽とその闇の根源たる自らをも傷つけ滅ぼしてゆく月を象りました。これは古文書によりますところの――」


「アードランツよ」


「は。ゼルス様」


「鎧のうんぬんは、よくわかったが……」


 たいへんに、たいへんによくわかったが。

 ぶっちゃけカッコイイとも思うが。

 アリーシャがまたとんでもないあきれ顔で黙然としてるけど、強くてでっかい魔法の鎧は男の子の夢じゃないか。

 だが。


「アレは……あの、カブトっぽいものは、なんだ?」


「まさしく、全方位魔力防御型、フルフェイスタイプのカブトでございます」


「だよな。カブトのポジションについてるもんな」


「は」


「でも、おまえ……おまえ、あの、おまえ。あのデザイン(・・・・)は……? てゆーかあの『顔』は?」


「まことに勝手ながら、ゼルス様のご尊顔を(かたど)らせていただきました」


 ゼルス様(おれ)の。


 ご尊顔を(かお)


 かたど、何してくれちゃってんだおまえ。


「いずれこの鎧を着用し、コウアトルの背に仁王立ちして、王国上空を大旋回する予定でおりましたが……」


「これを……これを!? 着て!? カブトもして!?」


「魔王の中の魔王、ゼルス様の威を借りることこそ、真に絶望の象徴たりうるは間違いないと」


「おまっ……」


「ゼルス様が求めておられるのは、いわゆる人間の世俗が理解できる範囲の魔王、その端的な実現でございましょう」


 ごめん今ちょっと頭入ってこないわアーくんのセリフ。

 これはおまえ……これはいくらなんでもおまえ……


「ときに、恐怖の象徴は、恐怖そのものよりも絶望を与えるもの……この鎧、どうぞお納めくださいませ」


「えっ」


「この城と王国首都との間にも、まだ村々が残っております。名ばかりの王国勇者どもも出没いたしましょう。そこで大いに恐怖を振りまいてくだされば」


「ちょっ……まっ……俺が!?」


「はい」


「これを!?」


「はい」


「俺が!? 俺の顔した鎧を!? 着て!? なんて言うの!?」


「我が名は魔王ゼルス、と」


「そりゃゼルスだろうけどもよ!!」


 おかしい。

 デザインはカッコイイのに。

 頭部の存在感がヤバすぎて、ギャグなのか呪いなのかもわからない!


 てゆーかアーくんが着ていったとしてもヤバくね!?

 このカブトしてアードランツだって名乗るの!?

 誤解されね!?


「マロネ様がいらっしゃったならば、世にも珍しい『笑い死にした闇精霊』が見れたところでしょうね」


 ひとりだけ冷静で楽しそうだなアリーシャくそう!!




お読みくださり、ありがとうございます。


次は2/10、19時ごろの更新です。



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