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第116話



 アリーシャが両目をぱちくりさせている。

 アードランツはまばたきひとつしない。


 その点に差異こそあるものの……

 このふたりだと……基本的にリアクションが薄くて、こう、張り合いがないなあ……


「どうだ!?」


「……どうだと……おっしゃいましても。……弟子?」


「ああ!」


「いえ、そもそも……魔王道とは……?」


「それは勢いでつい言っちまっただけだが!」


「勢いで」


「俺は感心したんだ。おまえとこの城は、こう……! なんていうか……! それっぽい!!」


「ぽい……」


「魔王っぽい! 空気感がすごい! こないだ行ったラグラドヴァリエんとこより、この城のほうがずっと魔王城って感じだ!」


「……ラグラドヴァリエ……」


 お、さすがに聞き逃さないか。

 まあどうでもいいことだ。


「ましてや、俺の城とは……! 比べものにならん!」


「おお。なつかしき、ゼルス様の魔王城……常闇の頂点。黒き力の象徴。お変わりないのであれば、たいへんけっこうな城と存じますが」


「……常日頃から、マロネに言われている」


 あの闇精霊に。

 腹立つ半笑いで。


「ゼルス様はぁ~、魔王っぽくないランキングのぉ~、トップでも目指してんですかぁ~~~? プフークスクスクス……、と……!」


「マロネ様……あいかわらずでなにより」


「俺も自分の城は好きだ! こまごまと手を加えてもいる! 裏門にこわい門番が増えたし! 保育所だって増やしたし! 地上地下屋上に大浴場増やしたら遊びに来てくれる魔族も増えたし!」


「最初のひとつは魔王らしいかと。残りのふたつはゼルス様らしいかと」


「ちなみにこの城に大浴場は?」


「ございません」


「それかー……やっぱそれかー……!」


「その点で気づきを得られましても、なんとも言い難きところではありますが……」


「いいんだ。わかっている。すべてはこの俺、ゼルスに起因している……魔王城も、魔王領も、持ち主の鏡となるは必定。俺が魔王らしくないのが問題なのだ! そうだろアリーシャたん!?」


 はあ、とアリーシャが、アードランツの城を見回した。

 先ほどより半歩、間合いを開けている。

 アードランツに対する警戒を、少しは解いてくれたか。


「アードランツ様もこちらのお城も、重厚なたたずまいと思います。ですがわたしは、魔王様のお城が好きですけれど」


「ありがとう。でもな? 実際アレじゃん? 来ないじゃん?」


「来ない?」


「勇者」


「……あー……」


「ダクテムとかさ? イールギットとかさ? 昔の弟子とか、それを追いかけてたまたまとか、そーゆーのしかないじゃん? これって、俺が……俺の城が……魔王城と思われてない説、ない?」


 俺の領地に人間は住んでいない。

 魔族、魔物、精霊族などばかりだ。

 近くにある国の人間たちにしても、自分たちの土地ではない、という認識くらいはあるだろう……だが……


「倒すべき魔王がちゃんといますよ、って……あんまり知られてないんじゃないかなあ……!?」


「いえ、そんな。過去には討伐隊も来たのでしょう?」


「もう覚えてないくらい昔な? 今いちばん近くにある人間の国、たぶんそんときなかったぞ」


「なにも申し上げられません……」


「俺もな……別にいいと思ってたんだよ。そこらの冒険者が来たからって、城までたどり着けるわけでもないし。勇者なら誰でもいいわけじゃないってことも、さすがに理解してる。だが……だが、アードランツのこの城を見るに……! こう……!」


「えもいわれぬ危機感が」


「そう!!」


 というわけで、と俺は元弟子に向き直り、ぺこっと頭を下げた。


「弟子にしてくれアードランツ。あいや、してください魔王様」


「酒に毒を入れてあおるべきは我でありました。おさらば」


「まてまてまてまってくれなんでだ!? このタイミングで死に走るココロは!?」


「師匠に弟子にしてくれと言われれば、いかなる者でも動揺いたしましょう……ましてやそれが魔王であれば、予想だにしていないタイプの闇におののくは当然」


「闇か」


「闇です。魔王が人間に魔王を習わんとする、この文言に闇でない箇所などありませぬ」


「ならばまさしく魔王として適切じゃないか」


「さすがはゼルス様。御見事な話術に感服しきり」


「うんごめんな、マロネがここにいたら『ああ言えばこう言ってんじゃねぇー!!』とか怒られることはわかってる」


 でもな、と俺は腕組みした。

 これはアードランツだけじゃない、アリーシャにも聞いてもらいたいことだ。


「いつか……俺を倒しに来てくれると。勇者として、俺の前に立つと。アーくんも、アリーシャたんも、それには相違ないわけだ」


「左様」


「ならばなるべく、魔王としてカッコよく相まみえたいじゃないか」


「……!」


「俺には見える。勇者として立派に成長したおまえたち。それを迎えうつ、やはり魔王として立派に成長した俺……そんな未来が……!」


「感服つかまつりました、ゼルス様」


 ちょろいぜアーくん。


「魔王様がそうまでおっしゃるのであれば」


 マイペースだぜアリーシャたん。


「俺がより魔王らしくなることで、おまえたちもよりやる気を増すかもしれない。勇者たちも倒しに来てくれるかもしれない! 勇者パーティにもぐりこむより、ずっと直接的だと思わないかアリーシャ!?」


「行動だけ見るとふざけているとしか思えませんでしたが、そう聞くと確かに、謎の向上心すら感じられます。さすがは魔王様」


「的確な辛辣……。そういえばなんだけど、アリーシャって俺のことゼルスって呼ばないよね。別にかまやせんが」


「わたしにとって、王たる存在は魔王様だけですから」


 えっ……なにそれやだキュンときた……

 俺ってひょっとしてちょろい……?




お読みくださり、ありがとうございます。


次は1/5、19時ごろの更新です。


じわじわした体調不良が続いてしまっており、

新作がまったく進んでおりません。

どうにかこちらのストックは確保していきたい所存……

そんな状態ではありますが、新年もよろしくお願いいたします。

皆様よいお年をお迎えください。

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