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第104話



「調子に――」


「<不滅の道(アタナシアロード)>」


「のるな小娘えええええええええ!!」


 やつが動き出すその前に、わたしは剣を振りました。

 狙いなどつけていません。

 とりあえず軌道を置いておく(・・・・・)ことで、相手の行動を制限します。


 はたから見れば、敵の目の前で思いっきり素振り。

 マロネ様には、アリーシャたんだっさ~い! と笑われてしまうかもしれません。

 ださくて重畳。

 わたしの強みでありましょう。


「死ぃねええええええええええ!!」


「っ……ッだ!!」


 <不滅の道(アタナシアロード)>の斬撃軌道は、防御に使うこともできます。

 目にもとまらぬラグラドヴァリエの連撃を、幾重にも張り巡らせた剣線で迎撃。

 目で見ていては間に合いません。


 予測。

 誘導。

 反応。

 それらすべてでもって――


「ぐぅあッ!?」


 ――届いた!


 渾身の突きを足に受け、ラグラドヴァリエが後退します。

 いきなり動きにキレがありません。

 傷を負うことには、慣れていませんか?


 好機、

 ですよ、

 テミティ様!


「ぬん」


 ドグァオオオオオオオオオン!!


 一直線に振り下ろされたハンマーが床を砕き、謎の粉塵を巻き上げます。

 ……今、跳んでらっしゃいましたか?

 そこそこに高く、あのハンマーを掲げたまま。

 しっかりとバケモノですね。


「ふぅー……ふぅー……! 貴様ら……!」


 しかし、かわしていますか、ラグラドヴァリエ。

 わかっていましたが……ここからが勝負でしょうね。


 龍族が人型に擬態しているだけあって、ラグラドヴァリエの上背はかなりのもの。

 わたしの1.5倍ほどあるでしょうか。

 首を跳ねとばすことのできる角度が、ずいぶんと限られております。

 さっきはチャンスだったんですけどね。


 つまり、こちらの『決め手』をどうするか。

 それがわたしには、まるで見えていないわけですが……


「ふ……、ふふふふ、っふ、ふほ、ほほほほ……!」


 …………。

 このタイミングで……ラグラドヴァリエが、魔王が笑う。

 嫌な予感しかしません。


「ほほほほほ、きょほほほほほほ! ……よもやこの――」


「ぬん」


 ドガゴオオオオオオオオオン!!


「会話ができんのはようわかったから! わらわが1人でしゃべるくらいよかろ!?」


「よけるな」


「よけるわ! 魔王とて! ゼルスとてよけるわ!」


「よもやこのラグラドヴァリエが本気を出しているとでも思っておるのか? ……とでも、言おうとしていたか?」


「……つくづく気に食わん下級種族だのう……!」


「わたくしはテミティ。もと勇者」


 ぶぶんっ、とハンマーを振り回したテミティ様が、振り向かず続けます。


「あれなるはアリーシャ。これからの勇者」


「テミティ様……」


「誇るがいい。我らに倒されることを。悔いるがいい。勇者を侮ったことを」


 くく、

 とやはり、ラグラドヴァリエは笑います。


「侮ってなどおらん。わらわはどの魔王よりも、勇者どもの力を評価しておるぞ」


「上から目線でか」


「それはしかたなかろう。単体でわらわに敵う生物はおらぬ」


「笑止……」


「いやいや。笑うがよいぞ、テミティとやらよ」


 翼を広げたラグラドヴァリエが、ふわ、と宙に浮きました。

 ドラゴンは、あんな飛び方もできるのですか……?


「これより先、笑うよりなくなるのだからな」


「……なに――」


「貴様らの首を、ゼルスめに届けてやろうと考えておった」


 ラグラドヴァリエの、その長身に比しても大きな翼が――

 増えました。

 2対。3対。

 それぞれの羽に紋様の光が走り、スキルの輝きを灯します。


 同時に、宮殿のあちこちに転がる大きな宝珠の数々も、ふわりふわりと浮き上がりました。

 これは。

 もう。

 嫌な予感などというレベルではなく……


「不可能になってしまうのが、残念であるのう」


「アリーシャ!」


 テミティ様の、いつになく鋭い声。

 鋭いだけで意図が伝わってきません。

 ラグラドヴァリエの紋様と宝珠が、すべて同時に輝きを増し――


 すさまじい数の魔力弾が、四方八方にまき散らされました。

 光量だけで目がくらむほど。

 わたしやテミティ様を狙っているというより、この場のすべてを粉微塵にするがごとく。


「ちぃ……!」


 わたしは身をかがめ、剣を構えました。

 スキルや魔法の処理は、聖剣の得意分野ですが……

 いえ、ですがなどと言ってはいられません。

 (はし)れ、ガルマガルミア。


「<不滅の道(アタナシアロード)>!」


 自ら引いた剣の軌道を、体でなぞるようにして動きます。

 物量攻撃なら、斬撃効果を維持できる<不滅の道(アタナシアロード)>は対応しやすいはず。

 これほどのスキルを操っている当人に、隙が生まれないとも思えません。


 ガルマガルミアが、よく応えてくれています。

 刀身でも光弾を斬り払いながら、少しでもラグラドヴァリエに向かって――


 色の、

 ちがう、

 光弾が……見えたなと。

 頭の片すみでは、確かに思いました。


 危機感を覚えたときには、体が勝手に動いていて。

 斬り飛ばしてしまったその光弾が。

 間近で、炸裂――


「ッがはっ!?」


 床に叩きつけられ、肺から空気がすべて奪われました。

 なんと器用な攻撃をしてくれるのでしょうか。

 耳鳴りが……、っく。

 動きを止めては、いけません。


「くああっ!」


 どういうわけかわかりませんが、光弾のこない右手側へ向かいます。

 左手側から来る光弾を斬り、爆発弾は<不滅の道(アタナシアロード)>の長射程で処理して、どうにか、こうにか。

 たどり着いた場所は、テミティ様の真後ろでした。


「テミティ様……!?」


「――……――」


 返事は返ってきません。

 いえ、返ってきている気配はしますが、ラグラドヴァリエのスキルがやかましすぎて、なにも聞こえません。


 それよりも……攻撃が来ない。

 テミティ様が、なんらかのスキルで『魔力溜まり』を形成し、自分のほうへ光弾を引き寄せています。

 わたしを……

 わたしを、守るために……!




お読みくださり、ありがとうございます。


次は9/20、19時ごろの更新です。

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