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第102話



 どうも。

 アリーシャです。

 だいぶピンチのアリーシャです。


「きょほほほほほほほっ!」


 敵地の宮殿にこだまするのは、(ぬし)たる龍魔王の鼻にかかった笑い声ばかり。

 とんでもない速度で移動を繰り返すラグラドヴァリエに、完全に遊ばれている状況です。

 ……と。


「そうわたしたちに思わせることも、ラグラドヴァリエの狙いだったりする……などと考えるのはうぬぼれすぎでしょうか」


「いや」


 ガシャ、と重々しくも頼もしい足音。

 テミティ様が、わたしの斜め前に位置取ります。

 ハンマーを低く構えた防御姿勢……役割がわかりやすくて助かります。


「間違いない。やつが様子を見ていることには」


「左様ですか」


「不審に思っている。部下どもが来ないのを。これほど大騒ぎしているのに」


 ……確かに。

 ユグスがこの場を去ってから、何者も新たに現れません。

 ここは本当に、龍の本城……?

 あるいは知らないところで、何かが起きている?


「予想外。こちらとしても」


「テミティ様? 言葉は特盛りでお願いいたします」


「これほどまでとは、思わなかった……ラグラドヴァリエの近接攻撃が」


 それも確かに。

 聞こえていたのか、ヤツが再び笑います。


「おほめにあずかり、光栄の至り。お望みならば、もっと披露して進ぜようぞ」


「そういう泥臭い魔王は、少数派かと思っていました」


「間違ってはおらぬぞ。離れたところからズドンでドカンが楽であるし、なにより危険がないからのう。勇者どものスキル、聖剣。そういったものを、少なからず魔王も恐れておるものよ」


「ふむ……」


「だが」


 まばたきほどの瞬間。

 風よりも速く振り抜かれようとしていたラグラドヴァリエの扇を、わたしの剣がどうにか受け止めました。


 相変わらず、間合いも何もありません。

 離れているかと思ったら、いきなり目の前から攻撃が飛んできます。

 返す刀で斬りつけようとすれば、すでに遠く……床に転がっている不気味な珠を、ドレスのつま先でつついて遊んでいます。


「わらわは、怖くもなんともないぞ? そのごたいそうな剣ものう、くふふふ」


「……当たらなければ意味がない、というやつですか」


「当てられたとて、大したこともないがの。よけてみせるのもサービスというもの。いちおう、わらわがホストであろ? きょほほほほほほ」


 くそったれです。

 なすすべなしとはこのことでしょうか。


 というかあの扇、なんですか。

 やわらかそうにしか見えませんのに、受けると硬いわ重いわで。

 常識外れです。いらだたしいです。


「焦るな。アリーシャ」


「! テミティ様……」


 先ほどよりも、数段抑えた声。

 ラグラドヴァリエに届かないように。


 これは……わたしは、返事をするべきではありませんね。

 テミティ様の口元は、フルフェイスの兜に隠されておりますが、わたしは素通しですので。


「ああは言うが、あやしい。決めにこれるはずだ。なのにいちいち遊ぶ」


「…………」


「警戒している。剣を。アリーシャを。しかししきってはいない」


「……テミティ様……言葉を。言葉を、盛りめで……」


「遠距離ではスキルを使うはず。使わせろ。ゆえに、警戒させろ」


「盛りめで……!」


「そうすれば、あとはわたくしがやる」


 そうすれば。

 どうすれば?


「なにをブツクサ――」


「くっ……!」


「言うておるか!?」


 再び突っこんできたラグラドヴァリエの攻撃を、どうにかさばきます。

 これだけでもじゅうぶんに厄介なのです。

 単に速いだけではありません……


 転移。

 ラグラドヴァリエは、極めて短距離の転移を連続で発動できるようです。

 もともとの移動速度にそれを織り交ぜることで、目にもとまらぬ、というかタイミングによっては実際見えない機動を実現しています。


 それを見切らない限り、テミティ様どころか、わたしも防戦一方です。

 しかしそんなもの、人の身と感覚で及ぶところではありません。


 ただ……ひとつ、私が狙っているのは。

 ラグラドヴァリエが、本気でこちらを仕留めにくる、その瞬間。

 効かないアピールにも余念がありませんでしたが、いくらなんでもガルマガルミアに斬られて無事な魔王などいません。

 刃を食いこませることさえできれば、しっかりとダメージを与えられるでしょう。

 それはラグラドヴァリエとて承知しているはず。

 テミティ様も…………


 ……テミティ様?

 なにを。

 そんなにもハンマーを大きくふりかぶって。

 なにを。


「ほう……」


 ラグラドヴァリエの、不愉快げな舌なめずり。


「おもしろい、挑発よの!」


 ひゅん、


 と風を切る音に先んじて、


 ガギギガギギギンッ!!


 テミティ様の鎧の表面に、無数の火花が散りました。

 いけない。


「テミティ様っ――」


 ガヅウウウウンン


 駆け寄ろうとしたわたしの足が、ふわっと床から浮きました。

 それほどの衝撃。

 テミティ様が、渾身の力でハンマーを叩きつけた結果、ですが……


 恐れ入りました。

 よもやこれほどの威力とは。

 メタルドラゴンでもぺしゃんこにできるのでは、と思われるレベルですけれども。


「きょほほほほほ……!」


 まさしく、当たらなければ……ですか。

 扇で自らをあおぎ、たたずむラグラドヴァリエが、まったくなんともいまいましい。

 あのニヤニヤ笑いに、テミティ様のハンマーがメリこんだなら、さぞかし爽快でしょうけれども……


 その期待は、酷というものですか。

 テミティ様が行える攻撃方法は、およそ今のようなものだけでしょう。

 かつて魔王様の居城で拝見した戦いを思い出しましても、にんともかんとも。


 どうにかしなければ。

 ほかのドラゴンが駆けつけて来る前に。

 ガルマガルミアの斬撃を、龍魔王に届かせなければ。

 そのためにはこのまま、近距離攻撃を誘って……

 ……………………


 そんな……

 そんな程度のことは。

 テミティ様も、重々ご承知のはずですね……?

 だというのに、先ほどは?


「警戒、させる……? 接近戦を……?」


 つまり。

 何かあるのですね?

 やつの遠距離攻撃に対する『備え』が。


 だからわたしの攻撃も、テミティ様の攻撃も。

 どちらも届かなくなるような選択肢を、ラグラドヴァリエに選ばせろと。

 そうおっしゃったのですね?

 ごりごりに足りてないお言葉で。


 不安。

 なれど。

 承知。




お読みくださり、ありがとうございます。


次は9/10、19時ごろの更新です。

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