氾濫の予兆
「つまり、魔人との戦闘中に竜化を使ったさいに、ルミアが攻撃されたことで集中が乱れた結果、暴走したと」。
「ああ、その通りだ」。
にしても魔人かー、確か、神界の本によると、魔人族には三つの派閥があって、人間などと共存する『共存派』と、敵対する『対立派』、そして、そのどちらでもない『中立派』の三つだったはずだ。話を聞く限りだと、相手は恐らく『対立派』の魔人族だろう。
「にしても、あの魔人族は何が目的だったんでしょう」。
「うーん、そこなんだよなー」。
「対立派の魔人族は、そのほとんどが大なり小なりの徒党を組んでいるからな、単独犯の可能性は低いだろう」。
「でもそれだと、街にいる魔人族の人達全員が怪しいですし」。
「「「うーん」」」。
「ひとまず、分からない物はしょうがないし、今は様子見だな」。
「そうですね。とりあえず、ギルドには報告しておきましょう」。
「ああ、それがいいだろう」。
そうして、僕らは一階のギルドへと向かった。
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「そうですか・・・、では、ギルドの方でも調査をしておきますので、また何かあれば、ご報告をお願いします」。
「あっ、あとコボルト討伐の報告もしたいんですけど」。
「はい、では討伐証明部位をこちらに」。
「えっ、それって死体まるごとじゃだめなんですか?」。
「いえ、逆にその方が素材が多く手に入るので助かりますが、そう言えば、ジンさんは『異空庫』が使えたんでしたっけ」。
「はい、(ドサッ)」。
『異空庫』を発動させ、コボルト達の死体を取り出す。
「・・・・・あの〜、私が知る限り、『異空庫』のスキル自体はたまに見ますが・・・ちなみにコレ、何匹いますか?」。
「えっとまぁ、五十匹ぐらい?」。
受付の人も含め、横にいるアリーネやルミア、そして、ギルドの中にいる冒険者の人達が、一斉にこちらを向いてフリーズする。どうしたのだろうか?
「えっと、どうかしましたか?」。
「・・・・・そのー、普通、『異空庫』のスキルは、中型の魔物が五匹入ればいい方なんですけど・・・」。
そうなの?、と、横にいるアリーネとルミアに尋ねるが、どうもそうらしい。するとなにやら、他の冒険者の人達がコソコソと話し始める。
「あいつって確かFランクだろ・・・」。
「あのガキをウチのパーティーに引き込めば・・・」。
「荷物持ちになるよう上手く脅せば・・・」。
「実力はBランクの魔物を倒すぐらいはあるみたいだし・・・」。
「欲しいな・・・」。
うわー、利用する気満々だー。もちろんそうなるのはゴメンなので、報酬だけもらってギルドを出ていこうとする。
「そこのお前、ちょっと待て‼」。
「おいキミ!ウチのパーティーに入らないか!?」。
「オイガキ!ちょっと来い‼」。
そんな声が次々と上がる。こんな時は・・・
「『気配遮断』!」。
「「「「消えた!?」」」」
そんな中、僕は街の宿屋まで逃げるのだった。
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「モールラビットの討伐?」。
あれから三日程たち、最近しつこかった勧誘も鎮まった頃、見慣れない依頼を見て呟く。
「おぉ、ジンじゃないか」。
「あ、アリーネ、おはよう」。
アリーネが声をかけてきたので、軽く返す。その隣には少し眠そうなルミアがいる。
「どうかしたのか?」。
「うん、何かモールラビットの討伐の依頼が増えてたから、ちょっと気になって」。
すると、今度はルミアが少し不思議そうな顔をする。
「ルミア?」。
「あっ、いえ。ただ、モールラビットは、確かこの辺りには生息していない魔物のはずだったので」。
「へー、そうなんだ」。
モールラビットは、角が生えたモグラの頭とモグラの手に、ウサギの身体がくっついたような魔物だ。まっ、最近ゴブリン討伐やコボルト討伐に飽きてきた所だし、ランクはEらしいから受けてみよう。
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「さて、ここか」。
依頼人の農家の人に案内され、最近モールラビットが出現するという畑に到着する。どうも最近、モールラビットが畑の作物を食べてしまうそうだ。だがこのモールラビットはかなり慎重なので、見付けるのがかなり大変なそうだ。だが、ある方法さえ使えば、コイツらは簡単に狩れる。
「まずは・・・、『ベイト』」。
半径100メートル程の範囲に魔法を発動させる。すると、一分もしないウチに、地中から気配が漂ってくる。
『ベイト』は、自分の周囲に魔力のエサをまく魔法だ。数は十匹ぐらいか。
「お次は、『アースニードル』」。
そう唱えると、僕の周りの土が針のように尖り、その先端には、十匹のモールラビットが突き刺さっていた。ね、簡単でしょ。という話を報告がてら農家の方々にしたら、首をブンブンと横に振ってた。ナンデダローネ。
「さて、ギルドに戻りますか」。
タッタッタッタッタッタッタッ
すると、後ろから誰かが走って来る音がする。
「おぉ、ここにいたか」。
「あれ?アリーネ、どうしてここに?」。
振り向くと、そこには慌てた様子のアリーネがいた。
「ジン、大変だ。氾濫が街に向かって来ている!」。
「・・・はい!?」。