第一章その2
ザクッ、ザクッ、ザクッ。 雷牙は、両手の爪で生い茂る草木をかき分けながら進んでいく。
両の爪は、まるで何十年も使ってきたかのように躰に馴染む。 武術の極致とは『五体が武器』だそうだが、今の雷牙は、まさにその通りだった。 野生の武器たる、爪と牙を持ち、その使い方は躰で覚えている。 今なら、鬼が出ても蛇が出ても勝てる気がした。
「……こっちか?」
ここがどこかは分からないが、斜面であるからには、山なのだろう。 ということは、下れば、何処かに着く可能性が高い。
「感謝するぜ親父。 男子たるもの、サバイバル知識くらい覚えとけってのは確かに正しかったぜ」
「───!」
と、その時、彼方から声が聞こえてきた。 人間の悲鳴だ。 今の雷牙の聴覚は、鉄腕少年のように1000倍、とはいかずとも、常人をはるかにぶっちぎるレベルだった。 だからこそ、遥か彼方の声が聞こえたのだ。
雷牙の内に宿った、獣の如き本能が、ただ事ではない、と告げている。 だが、雷牙には躊躇いがあった。
”””俺に、何ができる? 愛羅を助けられずに、殺されたこの俺に”””
脳裏に焼き付いた愛羅の最期。 また、雷牙は見ているしかできないのだろうか?
否! 断じて、否!! 愛羅が生きていたら、ここで躊躇う姿を男のくせに、と詰るだろう。 今度こそ。 今度こそ、雷牙は、誰かを救いたかった。 自分は無力ではない。 此の拳は、無力ではない、と!
「ヴォオオオオオオオオオオ───ッッ!!!」
雷牙は天高く咆哮した。 木々が震えるほどの声を出すと、力がみなぎってくるのがわかる。 まるで昔見たロボットアニメのスーパーモードみたいだ。 まぁ、金色には光らないが。
そして、気が付くと雷牙は走り出していた。 地面、木の幹、枝、目に映るあらゆるものが足場になる。 まるで森で生きてきたかのように、森の中を自由に疾走していた!
雷牙「で、なんで俺こんなところにいるんだ? まあいいや、面白いと思ったら、応援してくれよな!」
金紅「出番、まだ、かな……」
雷牙「もうちょい待ってな。 とにかく、次回もお楽しみに!」