第一章その13
「お、おまたせ。 包帯……変える…ね」
ルチルの腕の中には、使い古された包帯が握られていた。 洗っても落ちない類の汚れが染みついて、不気味だ。
「じゃあ、う、動かない、で……」
ルチルが包帯をほどこうとした瞬間、殴られたような激痛が走った。
「グ……ッ!」
「あ、ご、ごめん…なさい…!」
ルチルは、怯えたように手を離した。 ハラリと包帯がほどけて、べっとりと血液がこびり付いた傷口が露わになる。 その生々しさに、ルチルの顔が青ざめた。
「……ごめん、なさい。 わ、私の…せい…で」
「いや」
雷牙は首を振った。
「これは俺の実力の問題だ」
「……?」
「お前を庇って負った傷なのは確かだけどな。 だけど、それを防げなかったのは、俺が未熟だからだ。 気に病むことはないぜ」
「ら、ライガ……」
ルチルが落ち込んでるのをみて、雷牙は、話題を逸らすことにした。
「そういえば、この手当、お前がやったのか?」
その言葉に、ルチルは、ビクリとした。
「ご、ごめんなさい……。 へ、下手…だった…?」
雷牙は首を振った。
「逆だ。 良い手際だと思うぜ。 この深さで、化膿してない。 衛生管理と、迅速な手当てができてる証拠だ。 ───ありがとな」
「……」
そこで会話が途切れた。 実際、ルチルは褒められることに慣れていないのか、日本語で表記するのが困難な表情をしていた。
無言の空間で、包帯を巻く音だけが響く。 手際のいい動きだ。 おそらく、この手の救護活動に慣れているのだろう。 それは、年端もいかない少女が慣れているべきではないことだと、雷牙は思った。
「で、できたよ……」
「おう。 ありがとな───ッ」
雷牙が立ち上がろうとしたその時、激しい立ち眩みが襲った。 現在、雷牙の肉体は血液を大きく損失している。なので、少しでも無理な動きをすると、一気に視界がブラックアウトする!!
「く、うぉ!?」
思わず倒れ込みそうになり、反射的に腕を伸ばす。 なんでもいいから掴めるものが欲しい。 闇雲に手を振り回した結果、何か、柔らかいものに手が触れた。
「……ダ、ダメッ!」
布の感触がしたが、うまくつかめずに、脚が床を離れる。 そのまま横向きに倒れ込み───
DOOON! 咄嗟に右手を突き出して、受け身を取ることはできた。 だが、視界が黒く染まったままだ。
「……」
数秒間の静止の後、ゆっくりと視界が戻ってくる。 そして、最初に見えたのは、眼前50㎝にある、ルチルの顔だった。
突然の事態だが、チーター級の速度についてこれる動体視力の持ち主の方なら、今の動きが見えたはずだ。 具体的に言うと、雷牙に腕をつかまれて、ルチルがもんどりうって倒れ込んだ光景が、だ。 尚、この行為は偶発的かつ突発的かつ不可抗力であり、卑猥は一切ない。 ないったらない。 いいね?




