序:2~夢の中~
至らぬところが多々ありますが、よろしくお願いします。
誤字脱字ミス知識などありましたら、申し訳ございません。
俺のもっとも古い記憶は母親の背中だったと思う。
たぶん背負われてる。
そして母は泣いていた。
俺の国が戦火に燃えたのはその時だった。
母は泣きながら俺を背負い逃げた。
炎の中に俺たちはいた。
そこからはよく覚えていない。
眠るように瞼を落とした俺は気が付くと船にいた。
乗っていたのは軍人と母と俺。
なぜだろう。なにかとてつもなく嫌な思い出があったような気もする。
「王妃…どうやらここまでのようです」
見慣れない船と巨人の影が炎の灯りに揺れながら近づいてくる。
「我々は最後まで戦う覚悟があります。ご命令を」
「なりません。これ以上ヤパンの血を流してはなりません。投降しましょう」
母の力強い声に俺はもう一度目を閉じた。
「ペケ…!ペケ!!…起きろよ…」
「なんだ…リュコフまだ朝じゃないか…」
「バカ野郎!もう昼だよ!」
「今朝の新聞読んだかい?」
「いやまだだけど」
「見ろよ。ヴェント海洋の人工島…開島式の日程が出てるぞ。なんでも、皇下11か国共同の護衛艦隊が警護するらしい」
「軍に興味ないよ」
「お前はいつもそうだ。ペケ!いい加減俺たちはちゃんと世界を目の当たりにしないといけない」
「また始まった」
リュコフの話は長い。こと軍隊に関しては。
「行ってきます」
「なぁちゃんと話を聞けよ」
「遅れるぞ」
「もうとっくに遅れてるよ。誰かさんがずっと寝てたからね。着いた頃には午前の授業も終わってる」
レンガ造りの学校内は少し冷える。俺はその冷たさが好きだった。
閉まった門を乗り越えるのは慣れたもんだ。俺たちにとっては日常茶飯事…。
「こらぁああああ!!」
門を跨いでた俺は思わず手を放してしまい地面に肩から落ちてしまった。
「お前らぁ…何度目だぁ?先生はなぁ…ずぅっと待ってたんだぞ!!」
「やだなぁ先生…怖いよ…」
耳を引っ張られながら廊下を歩く。「いてててて」と言っても先生は話してくれない。
「今日という日は許さん!!いくらお前らが特別扱いされてるといえ先生は手を抜かんぞ!!」
騒ぎになって教室から生徒たちが顔を覗かせる。そうなってきてようやく止めに入る者が現れる。
「ヤヨウ先生!マズいですよ!ヤパンさんになんて言えばいいか…」
「なんとでも言えばいい!!皆が甘やかすから二人も腐る…!!」
「ヤヨウのバカ…」
「何か言ったか?」
「ヤヨウのアホ…」
「子供かお前ら!!13歳にもなって恥ずかしくないのか!!」
「子供だようだ!」
「そうだそうだ!」
ヤヨウの拳は二人の脳天を容赦なく打擲した。
「ヴェント海洋に接するアデルは海洋業から鉱山業で発展した。今や経済大国としてこの50年で各国に威厳ある立場となった。それもこれも各地で発見されている液体鉱石ディラマイトの発見による功績が大きい」
あくびをする俺に後ろからリュコフが話しかけてくる。
「見ろよ。港だ!」
窓から見える軍港に一隻の船が現れる。
「ホウゲン号だよ。一世代前の代物だが、かつては凄まじい活躍をしたって…!!」
「こら!リュコフ!静かにしろ!!」
「チッ!ヤヨウめ!」
「バーカ怒られてやんの」
「うるせぇ!」
「まったく…。見ろあの軍港で今弾丸列車が開発されようとしている。開発されれば人工島への最短での移動が可能になる。そうなればここアデルがどれだけ発展するか…」
その時軍港の船から何か見えた。
「パンツァージャケットだ…!」
巨人。
かつてヤパンの国を焼いた巨人。
液体鉱石ディラマイトは世界を覆した。ディラマイトを使った装甲は瞬く間に戦争を変えた。
液体でありながら僅かな圧力をかけると硬化する。その硬さは鉱物の中でもトップクラスだ。また軽さも驚くことなかれ鉱石とは思えぬほどの軽いディラマイトはすぐさま重宝され、市場価格は高騰した。そして戦争も起きた。
航空機が発展すると人道的な戦争は少なくなっていった。人道的な戦争というものがあるなら見てみたいものだが、人間は恐ろしい。
そうなってくると領空権の獲得競争も起きた。
コズメット事件。
皮肉なことにほぼ同時期に量子コンピューターの開発が行われ、複数の有権国家がこれを所持したがどの国も持て余していた。誰もその真価を試そうとしなかった。
オーランド大陸の南東に属するメティス。これはあくまで疑いだが、その真価を独断で試した男がいたとされる。その結果サーバー戦争となり、それまで飛んでいたありとあらゆる航空機は墜落した。
たった一人の男がきっかけに全世界が疑心暗鬼となり、たった一つのボタン操作で世界中が恐怖した。
無論この男は消された。メティスと共に。
その後条約が結ばれた。航空規制が行われるようになった。年間で飛べる航空機を各国の経済力を基準に制限された。そして量子コンピューターの使用も制限された。不思議なことに各国がこれに賛同し、驚くほど迅速に一部を除く量子コンピューターは凍結された。誰もが戦慄したのだ。あの戦争を…。
結果として戦争の主流は白兵戦に戻ったのだ。
戦車の躍動はやがてコルベットバイクの登場で廃れたがディラマイトの発見で見直される。ディラマイトの装甲を身に着けた人類は移動手段のためのキャタピラやローラー、そして遠距離攻撃用の砲台、障害物を乗り越えるための僅かなバックパック。人の身体にディラマイトの装甲と戦車の役割を身に着けたそれを『パンツァージャケット』と呼ばれた。
俺たちの国を焼いた巨人…パンツァージャケットは戦争の主流。現在4世代目のパンツァージャケットは四足走行から二足歩行への変形が可能となった。そうなると海に浸かりながらも土木作業もできるため戦争以外にも活用され、今や学校の授業でも乗り方を教わる機会があるぐらいだ。
日が暮れていつもの帰り道。俺たちははしゃぎながら帰路を辿る。
「俺士官学校に行こうと思う」
リュコフの言葉は唐突だが驚く内容ではなかった。
「知ってた」
俺は淡々と答えた。
「ペケも行こう」
「俺は行かない」
「戦争…嫌いだから…」




