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眠り姫は熊将軍のキスを所望する  作者: とらじ。
第1章
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皇家の晩餐



「お母様、私に何かご用がおありだったのでは…?」




「ああ、そうだったわエステル。

あなたの誕生日の舞踏会用のドレスの採寸の予定が入っているから迎えにきたのよ。」

ナターシャは頰に手を当ててわたしったら忘れていたわ、とため息をついた。ナターシャは家族の男たちとは違いエステルをでろでろに甘やかしたりはしなかったが、かといって本気で叱ることは稀だった。

「あと十日で姫様も10歳になられるのですか…」

色々な思いの色を滲ませた声でフィッシャーは呟く。

時が経つのはなんと早いことか。あの呪いの日から時は本当にあっと言う間にながれてしまったのだ。

「そうよフィッシャー先生。

私も半分大人になるの!ふふふっ。」

子供の頃は誰にとっても誕生日は特別嬉しい日だ。

エステルもそれは同様で、数日後に控えている自身の誕生日を想像し笑みがこぼれた。フィッシャーやナターシャの瞳に一瞬影が落ちたことも知らずに。



「10回目の誕生日を迎える日、

その日から100年の眠りにつく…」

その西の魔女の呪いの話を、当の本人は聞かされていない。いや、逆にそれを知っているものの方が少ないかもしれない。 彼女の両親、兄、宰相、二方将軍、そして国家魔術師の権威であるフィッシャー。彼がエステルの家庭教師となった理由は呪いのせいでもある。

魔女の呪いには魔術をー

エステルに何かあった際、対抗できるのは魔術師である彼だけであろうと皇帝は考え願い出たのだ。



「では、そんな半分大人な姫様に」

フィッシャーは幸せな気分のエステルに分厚い本を一冊差し出した。

「…へ?」

重い10㎝はあろう本をエステルは受け取る。ずっしりと手に圧力をかける本をみて、嫌な予感を覚えたエステルの顔に冷や汗がでた。フィッシャーの貼り付けたような笑顔。





ーああ、この表情は、非常によくない


「はい、宿題です。皇女殿下。」

「…。」


ーやはり。





エステルには手の中の本が更に重くなった気がした。














「で、宿題は進んだの?エステル。」

昼間の出来事を見ていたナターシャは、思い出し笑いをしながらエステルに尋ねた。晩餐の席で共に座るエルアルドと皇子エルタナもまた出されたのか?と食事を口に運びながら二人に興味を示す。

「お母様!フィッシャー先生は師としては尊敬しておりますが、人としては鬼畜家ですわっ!…ふん!もしゃ、もしゃ…」

皇女として食事のマナーも完璧なエステルであるが、この時はパンを手にして大きく口を動かしていた。


あれからナターシャと共にドレスの採寸を済ませ、戻った自室で宿題の本を開いたエステルであるが、冒頭の章から苦戦した。それもそのはずである、あの本は国家魔術師の為の教本なのだからさすがのエステルも、少し手間取った。だが、ここで補足すべくなのは頭脳明晰なエステルの苦戦が一般人との苦戦とは大きく異なることだろう。

「あの本に、2時間も時間を費やしてしまいましたわ!」

相変わらず、エステルはパンを口にしていた。実際に本の厚さや題名をみていたナターシャは、さすがねと口角を上げる。あの本を今国家資格を持つものに渡したとしても、内容を理解しながら読み上げるのに三日はかかるであろうから。



「そう!お父様!


今日誕生日の舞踏会用のドレスをつくりましたの。お母様とお揃いの水色のドレスでとってもステキなデザインに仕立ててもらったの!」

嫌なことは忘れようと、エステルは今日あった楽しいことを話し出す。

「…お父様、私もう十になるの、半分大人よ…?

だから、私とダンスを踊ってくださいねっ!」

ついでに、前から考えていたことを父親にねだってみる。ダンスを女性から誘うことは社交界ではまずないが、目に入れても痛くない愛娘に上目遣いに誘われてエルアルドが断るはずはない。

「もちろんだ、我が愛しのエステル。

今から、二人のドレス姿を見るのが楽しみだな。」

心からの笑みを浮かべエルアルドはフォークを置くと、エステルの頭を撫でる。

「約束ですわよ、お父様!

お父様のために、私、ダンスの練習頑張りますからっ!」

母と同じくらい大好きな父との約束にエステルは胸を踊らせる。頭を撫でる手のひらは暖かく、その感触にエステルは更に幸せな気分になる。


「エステル…が、私のために…頑張る…」

エルアルドはエルアルドで、親バカモードが発動してしまっていた。ナターシャは全く、とため息をつきながら夫の様子をみている。もはや、こんな夫の姿は日常茶飯事だったが。

「エステル!お兄ちゃんとは踊ってくれないのかいっ?」

そんなナターシャに追い打ちをかけたのは、エルタナだ。この一家の男性陣、仕事はできるし見目も良いが皆エステルの崇拝者なのであった。もちろん、エステル自身は崇拝レベルまで思われていることに気づいていない。いや、むしろ生まれてからずっとこの関係のため慣れてしまっているのかもしれない。エステルは誘われなかったことへの悔しさに半泣きの兄の方に体をむける。

「お兄さまは、いつもお友達と一緒にいらっしゃるから…私なんかがいては邪魔かと思って…ごめんなさい。」

エステルは、シュンっと項垂れた。まるで、怒られたウサギが長い耳を垂らしているような可愛さと儚さが入り混じった姿にエルタナはゴクリと唾を飲み込む。

「エ、エステルが謝る必要はないよ!

いいかい、私にエステルより大切なものなどない! 断じてない!ないから!」

未来のナフル皇帝とは思えぬ発言がさらりと当たり前のように飛び交う恐ろしい晩餐の時間。


「では、お兄さまともダンスのお約束ですね。」

「ああ!ほら、約束のゆびきりだ!」


少女の一言で一国の皇帝も皇子もすぐに顔色をよくする。エステルは差し出された兄の小指に自分の細っそ

りとした白い指をかけた。


「ゆびきりげんまん!」


嬉しそうに約束を交わす二人をナターシャだけが静かな眼差しでで見つめている。










この場にいる皆が忘れようと努力していた。



現実を見ようとするのをやめようとした。



ホールに響く約束の歌が、まるで哀歌のように悲しくこだまする。









呪いの「10回目の誕生日」は10日後に迫っていた。












後二、三話幼少期編が続く予定です。

次話もよろしくお願いします。(*´-`)

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