皇女エステル
「あっ!お母様っ!」
黄金色に輝く髪と、白く透けそうな肌、大きいが優しげな瞳はルビーの光を放ち部屋に入ってきた人物を写す。
愛する母親の姿を目の端に認めたその少女は部屋に可憐な声を響かせた。
ナフル皇国第一皇女の私室というだけあり部屋には一見で高価だとわかる家具が揃えられ、すべてが埃一つなく整えられている。
「こら!エステル、
貴方は今フィッシャー先生に勉強を見ていただいているのでしょう?」
満面の笑みを浮かべる娘に対し母ナターシャは甘い態度を示さなかった。エステルと呼ばれた少女の隣にいた家庭教師のフィッシャーもそんな母親の様子に苦笑する。
「…あっ。」
また、やってしまった…と少女は口を手に当てた。
「ご、ごめんなさい!フィッシャー先生。」
頭を下げるエステルの髪がふわりと揺れる。
皇女でありながら彼女がこうしてきちんと謝れる少女に育ったのは、この母親やフィッシャーの教育のおかげであろう。
「いいんですよ、姫様」
「全く、少しは先生も叱って下さいな。
みんなでこの子を甘やかして…もうっ。」
微笑むフィッシャーに対し、ナターシャは母親の顔を崩さない。
「皇后陛下の意見もごもっともですが…最近は姫様の勉強の進みが早く、専らお茶会ばかりなのですよ。」
ははは、とフィッシャーは笑う。
まぁ、先生まで!とナターシャはまたもぷん、と頬を膨らました。
フィッシャーはこのナフル皇国の魔術学の分野の権威である。今は教職を引退しているが、かつては国学院で教鞭をとっていたため卒業生であるナターシャはフィッシャーに気を許していた。愛娘の家庭教師を依頼したのもフィッシャーとの良き関係故も一理由である。
この国には、「魔術」と呼ばれる不思議な文化が存在し、主に医療や農業に用いられている。
小さなものでいえば風邪薬や肥料。それらは小売店にいけば子供ですら簡単に手に入れることができた。それくらい、魔術はこの国では受け入れられ浸透している。ただし、魔術を扱えるものは限られていた。国家試験を受け合格の印を押された国家魔術師だけが、魔術師を名乗れ魔術を使用することが許されているのだ。現在ナフル皇国に国家魔術師は10人存在し、通常五人ほどである他国と比べるとその数の多さは圧倒的である。ナフル皇国は人口や領土の広さは他国に劣る点が多いが魔術学に長ける国として密かに恐れられていたのだ。フィッシャーももちろんその国家魔術師の一人である。
そんな学問の国ナフル皇国の姫として育ったエステルー
彼女の知識量はフィッシャーが述べた通り一般的な九歳の少女が理解するべき量をとうに超えていた。
おそらく、15歳までに受講すべきカリキュラムは終えているはずだ。
この美しい少女は、見目だけでなく頭脳も性格も素晴らしく長けていたのだ。
家族に愛され、使用人にも好かれ。
社交界デビューを果たした日には多くの崇拝者が現れ、あの親バカな皇帝を大いに悩ますことだろう。
だが、それは、そんな未来が来ればの話だ。
不定時亀更新ですが三日更新を目標にしていきたいと思っておりますので、のぞいていただけたら嬉しいです!今日も、ありがとうございました。