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絆だけでは…… 演劇台本

作者: アコヤ貝

登場人物 大翔 男。高校3年生。

浜路 女。推定15歳(90歳)


午後2時。病室の庭。

下手から落ち込んだ様子の大翔(学生服(夏服))が歩いてくる。上手まで来て木(桜)の根元を見つけ、座り込む


上手から浜路、何かを探している。


ぶつかる。お互い尻餅をつく。


大翔 いってー‼

浜路 いったー!って…痛い?


大翔立ち上がる。


大翔 あんたなんだよ急に!

浜路 えっ、えっと…会話出来てる?なんで?

大翔 何言ってんだよ!

浜路 えっ、えっと、ごめんなさい!


浜路、大翔を押しのけ木の根元で何か探し物をする。


大翔 なにすんだよ!

浜路 えっ、本当に私今会話出来てるの?

大翔 何言ってんの?


浜路、混乱を無理やりまとめる。


浜路 えっと、最近人と話してなかったから実感なくて、あ。


気まずくなる。


大翔 その、なんかごめん。

浜路 いえ、私も、変なこといってごめんなさい。


何をしたらいいのかわからなくなる大翔。何かに気付く浜路(後の布石)


浜路 お兄さん、誰かのお見舞い?

大翔 そうだけど。

浜路 名前なんて言うの?

大翔 えっと…大翔。

浜路 大翔さんね。私は浜路って言うの。

大翔 え、それちびまる子

浜路 みなまで言うな!

大翔 え⁉

浜路 あっちはあだ名!こっちは本名!浜に道路の路で浜路よ。

大翔 あ、うん。

浜路 それはともかく、今時間ある?まあさっきは思いっきりベタに落ち込んでたあたり時間はあるわよね。

大翔 なんだ急に。

浜路 お願いしたいことがあるんだ。

大翔 ?

浜路 探し物手伝ってほしいの。

大翔 探し物?

浜路 うん探し物。

大翔 なんで俺が…。

浜路 ここ狭いけど草繁ってて探し辛いの。ちょっとだけでいいからさ。

大翔 そうじゃなくて、そんなの見舞いに来たやつとかに頼めよ。

浜路 そんな人いないから頼んでるの!

大翔 家族とかいるだろ!

浜路 あえないの!

大翔 え?

浜路 あ…。



大翔 えっと、そういえば、君そもそも何を失くしたの?

浜路 あ、そのー、キーホルダーです。散歩してたら金具が折れちゃって。

大翔 じゃあそこの角から辿るように探そう。

浜路 え?

大翔 君、ここの患者だろ?自由時間だって少ないんだから効率考えたほうがいいと思うけど。

浜路 そうだけど…。

大翔 じゃあそっちから探しなよ。俺あっちから探すから。

浜路 いいの?

大翔 時間は確かにあるからいいよ。

浜路 …ありがとう。


下手の奥から浜路、上手から大翔が探していく。


大翔 見つけた?

浜路 ううん。

大翔 そっか、ごめんそろそろ戻らないと。

浜路 ううんありがとう。


大翔、下手に歩き出そうとする。


浜路 待って!

大翔 ん?

浜路 大翔さん。これからお見舞い来る日だけでいいから、また会いに来てくれませんか?

大翔 え?

浜路 私、今誰にも会えなくて、お喋りしてくれるだけでいいから。


大翔、考え込む。


大翔 まあわかったよ。

浜路 本当⁉

大翔 断わると罪悪感凄そうだしな。

浜路 ありがとう(にっこり手をとる)


大翔、慌てる。


大翔 何するんだよ⁉

浜路 あ、ごめんなさい。(離す)もう時間ですよね。さようなら。

大翔 …さようなら。


大翔、下手へはける。浜路、はけた大翔をみてからガッツポーズで悪い顔。FO

午後1時。大翔母の病室(個室)。下手側にスポットライト。大翔、学生鞄と袋を二つ持っている。イスを取り出し座る。目の前に母が寝ている。


大翔 体調どう?…はいはい悪いんだね。…はいこれお土産。食事制限ないよね?…これ(二つ目の袋)?、、なんでもないよ。あんたには関係ないだろ。…それで、書いた?…まだって、早く書けよ。あと一週間で先生に出さないとなんだよ…だから言ってんだろ、就職するって、早く家出たいんだよ…大学?いいって言ったろ…しょうがないだろ、金ないんだから…いい加減に現実みたら?…とにかく、期限はあと一週間だからね。


大翔、イスを持って下手にはける。スポットライト消える。


FI。午後2時。病室の庭。上手の木の根元に座る浜路。何かを指折り数えている。ついでに高度経済成長期のネタをやるの希望。下手から土産物を持った大翔が歩いてくる。


大翔 なにしてるの?

浜路 あっ!こんにちは!


浜路、ごまかしのため突進。大翔、慌ててよける。


大翔 おっまえ…。危ねえだろ。

浜路 だって来てくれたの嬉しくて。

大翔 …土産潰れるところだったじゃねえかよ。

浜路 お土産?

大翔 ほら。

浜路 (受け取る)なにこれ?

大翔 マフィン。学校でつくったの余ったから…。(反応を見て)甘いのだめ?

浜路 (困る)いやその…。こういうのは家族とかにあげなくて大丈夫なの?

大翔 ああ、しょっちゅう作ってるから大丈夫。

浜路 ?

大翔 俺の通ってる高校食品の専門高校なんだよ。だからこういうのはいつもやってるんだ。

浜路 へーすごいね!

大翔 別に。さっさと食べろよ。

浜路 …。申し訳ないけど、看護師さんと相談してからにするね。

大翔 あ、悪い。

浜路 ううん。ありがとう。



浜路 そういえば、大翔君頻繁に来てるけど、誰のお見舞いなの?

大翔 母さん。

浜路 そうなんだ。大変だよね。

大翔 別に。俺しか家族いないから仕方ないんだよ。

浜路 ううん。うちの家族なんか、いくら仕事あるからって全然来てくれなかったもん。

大翔 …。

浜路 実際、仲悪いんだかいいんだかよくわからない家族だったけど、それでも家族が病気だってことに向き合うのって辛いみたい。

大翔 …。

浜路 まあ当然だよね。いつ死ぬかわかんないもん。怖いよねー。

大翔 …。

浜路 まあこっちだって、憎まれ口叩かれるだけなら来なくて結構結構こけこっこーだけど、言いたいことぐらい言ってもらいたいよ。

大翔 …。

浜路 もうじき死ぬ人間と喧嘩したくないのはわかるけどさ、だったら笑顔の一つ見せてみろってのっ、て、…ごめん、いくらなんでも喋りすぎた。

大翔 …大丈夫。お前も大変だな。

浜路 …。あ!大翔君のお母さんはどんな人なの?

大翔 俺の母さん?…。ガキ。

浜路 ガキ?

大翔 そ、ガキ。もうじき50になるくせになんにも現実見えないガキ…。

浜路 …。

大翔 やめよこんな話。してもしょうがねえもん。

浜路 大翔君。

大翔 なんだよ?

浜路 してもしょうがない話ってしなきゃいけないときもあると思うよ。


大翔、少し元気出る。


大翔 年下が生意気言うな。(浜路の頭を軽く叩く)

浜路 若いときは生意気言ってなんぼでしょ。



FO。下手側スポットライト。母の病室。大翔、イスを取り出し座る。

大翔 おはよう…はいこれクッキー、あと冷蔵庫に牛乳入れとくね…近所の人がくれた…好き嫌いするなよ…先生とかにも迷惑かけまくってるの知ってるんだからな…俺が代わりに謝ってんだよ…もういいよ。書類書いた?…勘弁してくれよ…折角校内推薦とれたのに…そりゃそっちの書類勝手に書いたのは悪かったけど…しょうがないだろ、あんた俺が帰る時間にはいないんだから…とにかく、俺はここに就職するんだよ。息子をニートにしたくなかったら早く書けよ…だから金ないんだからしょうがないだろ………俺ちょっと外出るから、その間に書いといてよ。


大翔、イスをたたんではける。スポットライト消える。


FI。浜路、上手(木の根元)でまた指おり数えている。その後また高度経済成長期のネタをやるの希望。下手から大翔がイライラしながら歩いてくる。浜路気付く。


浜路 大翔君どうしたの?

大翔 あーちくしょう‼

浜路 ⁉


大翔、その場にうずくまる。


大翔 もうどうすりゃいいんだよ。

浜路 大翔君?


大翔、浜路に気付く。


大翔 ごめん。悪いけど一人にして。

浜路 なんで?

大翔 いいから。

浜路 …わかった。


浜路、下手へはける。すぐ戻る。


浜路 ごめん無理だったわ。

大翔 なんでだよ⁉

浜路 えーと(今考えている)あ!今病室戻りたくないんだ。

大翔 (思い出す)ああ、ごめん。

浜路 座るんだったらあの木の下にしない?結構涼しいよ。

大翔 …わかった。


二人、上手に移動。木の根元に座る。


浜路 大翔君さあ。

大翔 …。

浜路 お母さんと喧嘩でもした?

大翔 (ずっこける)ストレートすぎるだろ!

浜路 やっぱり喧嘩したんだー。どうしたの?

大翔 こういう時は普通そっとしておくもんじゃねえの?

浜路 大翔君が日頃明るい性格ならそうするよ。でも大翔君暗いじゃん。

大翔 お前に分かるのかよ。

浜路 わかるよー。いかにも我慢してますって顔してんじゃん。

大翔 …そう?

浜路 そう。そういう人に限ってある日突然(大翔のうしろに回り込む。語りホラー調)ぶすっと

大翔 ぎゃー!!

浜路 さしたりするのよ…そんな驚くこと?

大翔 今背中に寒気が…。 お前すげえな。

浜路 あはははは。まあ今のは極端だとしても、我慢しまくったあとのぷっつんは怖いからね、ここらで吐き出したら?



大翔 まあ、そうだな。…薄々気づいてたろうけど、俺、母子家庭なんだ

浜路 …。

大翔 父親は気づいたらいなかったんだけど、母親は最低な女でさ、まともに仕事続かねえし、アル中だし、機嫌悪いと飯作んないのは当然で、俺に暴力ふったり暴言吐いたりもちょくちょくあった。

浜路 …。

大翔 そのくせプライドだけは高くてさ、俺を医大に入れようと必死になっててさ。

浜路 医大?

大翔 酔ってる時の恨み言から推測しただけだけど、母さんもとは医者希望だったらしいけど両親に反対されて短大しか行けなかったんだと。んで、私は子供の夢を狭めることは絶対にしないって無理やり勉強だけはさせられてたんだ。

浜路 …あれ、でも高校確か…

大翔 流石に中学の頃には家に余裕ないって気づいてたから、早いとこ就職出来そうなとこ探して今の高校にした。

浜路 …。

大翔 もちろん最初は大反対されたけど、最後は何か、調理師の専門学校行かせるって納得してたよ。

浜路 …。

大翔 その割に酒の量減ってないし仕事も相変わらずだったから学費貯めてるとは到底思えなかったけどね。

浜路 …。

大翔 だから卒業後はさっさと家出てけるように俺は俺で貯金してたんだけど、そしたら母さん急にぶっ倒れたんだよ。酒で体ぶっ壊したらしい。

浜路 …。

大翔 で、もともとそのつもりとはいえ治療費払わねえといけないから俺は就職って学校には出したんだけどいまだに母さん反対しててさ。書類今日中に書いてもらわねえと。

浜路 ………ねえ、大翔君。

大翔 何?

浜路 大翔君のお母さん。長くないんじゃないの?

大翔 なんでそう思ったんだよ。

浜路 そんなひどいことされてた割には、恨んでない風を装ってる感じだったから。

大翔 (思い出す間)ああ、そういえばお前もだったよな。ごめんすっかり忘れてた。

浜路 それに、お母さんにそのこと伝えてないんじゃないの?

大翔 なんでそこまで…。

浜路 そりゃ人間行動なんて矛盾だらけなもんだけどさ、この状況で反対してるってまるで治療費は問題ないって感じがして。

大翔 ………そうだよなあ。病気のことはお前のが詳しいよな。…その通りだよ。

浜路 話さないの?

大翔 どうなるかまったく予想できないからな。できる限りおとなしくしてもらったほうが都合いいんだよ。

浜路 …それは違うよ。

大翔 は?

浜路 話したほうがいいよ。いろいろきついかもしれないけど、きちんと会話したほうがいいよ。

大翔 なんでお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ。

浜路 それは…出なきゃ話進まないだろうし…

大翔 だからってどうしようもない話したってしょうがないだろ。

浜路 だってそれじゃ就職の話進まないだろうし。

大翔 まともに会話する気あっちにねえんだからしょうがないだろ。

浜路 でも、それじゃあお母さん何にもわからないままだよ。

大翔 分かることを自分で拒否してんだから当たり前だよ。

浜路 大翔君が話したくないだけなんじゃないの?

大翔 じゃあお前があの女に話してくれよ!!

浜路 !?

大翔 もう疲れたんだよ。お前が変わってくれよ。


大翔、浜路の手をつかみ下手へ駆け出す。


浜路 ちょっと待って…え、なんで通れるの?(下手へはける境目でつぶやく)


FO。母の病室。下手側にスポットライト。大翔、浜路の手を掴んだまま駆け込む。


浜路 ちょっと待って大翔君、ねえ、ねえ、(病室に入り大翔の母を見てつぶやく。驚愕。)え、え、嘘…まさか…

大翔、浜路の手を放す。今の様子には気づいていない。


大翔 おい母さん起きてるだろ?いい加減書類書いた?…まだかよ…いい加減にしろよ。いいか、今日は俺の代わりにあんたに現実教えるやつ連れてきたからな…誰って、ここにいるだろ…は、どこって、何耄碌してんだよ…おい、こんな時に冗談言ってんじゃねえぞ…(ここで浜路駆け出す)ちょ、おい!…なんだよ!…あ、学費?今そんなこと…は、兄弟に頭下げればなんとかって…母さん親戚なんていたの…ちょっと待てよ。だいたいそんな親戚いるならなんで最初から言わねえんだよ…なんだよ、申し訳ない気持ちでもあんのかよ…だったら始めから俺を産まなきゃいいだろ!!なんで俺を生んだんだよ…だんまりかよ…。


大翔、病室を出る。スポットライト消える。FI。浜路、上手(木の根元)に座り込んでいる。下手にキーホルダーを持った大翔が来る。浜路、大翔の方を見て立ち上がる。


大翔 お前、もう死んでるのか?

浜路 随分ストレートだね。

大翔 お前は明るいからいいだろ。

浜路 はは、そうだね。どこで気づいた?

大翔 なんか変だとは思ってたんだよ。不治の病にしては妙に元気だし、会話もなんか違和感あったし。確信したのはさっきだったけど。


大翔、キーホルダーを差し出す。


浜路 それ…。

大翔 ここにまでに通りがかりの看護師さんとかにお前のこと聴きまくったんだよ。そしたら、生前、浜路さんから預かっていたものです。すっかり忘れてて、よろしかったらご家族に返してくれませんかって、預かったんだよ。

浜路 そっか…死ぬ直前のことは記憶が曖昧だったからなあ。

大翔 はああ。何か母さんのこととか一気に吹き飛んだよ。


大翔、その場にしゃがみ込む。


浜路 私のこと、怖くない?

大翔 そりゃびっくりはしたけどさ、お前より母さんのがよっぽど怖いよ。

浜路 どうしたの?

大翔 結局母さんは俺をどうしたいんだろうな?

浜路 え?

大翔 俺の学費、兄弟に頼めばなんとかなるかもしれないんだと。

浜路 …。

大翔 母さんに兄弟いるとか初めて聞いたよ。何で今迄教えてくれなかったんだよ。

浜路 …。

大翔 知ってたら俺、小学生の時点で泣きつけに行けたのによお。

浜路 …。

大翔 結局、親への見栄なのかな。

浜路 …。

大翔 まともに育てられないならさあ、俺が腹の中にいるってわかった時点で下ろせばよかったのに。


浜路、大翔に近づく。大翔、ゆっくり立ち上がる。


大翔 もう疲れたよ………さっさと死ねよあの糞ババア!!

浜路 ダメ!!

大翔 !?

浜路 大翔君が辛かったのは分かる。お母さんがひどいのもわかる。でも今死ねって言って、後悔するのは大翔君なんだよ。

大翔 後悔なんかするかよ!

浜路 するの!

大翔 何でだよ!

大翔 何でだよ!

浜路 家族だからよ!

大翔 !!

浜路 家族は強い絆で結ばれている。愛し合える。なんでも分かり合える。人間はねえ、それが当然だって、勝手に思い込んでるの。

大翔 分かってるよ、そうとは限らないって。

浜路 分かってない!たかだか18年しか生きてないガキがそう簡単に理解できるわけないのよ。

大翔 お前に何がわかるんだよ。

浜路 わかるわよ。わかったと思っても気づいたら忘れていく。そんなこと繰り返して、気づけば何十年もたったわ。

大翔 え?

浜路 子供の頃はさ、親に理解されないのが悔しくて、親になったら、子供に理解されないのが悲しくて。でも子供である私も、親である私も、自分の親や子供の言動と何も変わりなかった。

大翔 あのさ。

浜路 理解できて当然と思い込むんだよねえ。理解できないうちの家族はおかしいって。

大翔 …いろいろつっこみたいことはあるけど、結局何が言いたいの?

浜路 大翔君はさ、お母さんに自分の気持ちちゃんと伝えたことある?

大翔 え…。

浜路 きっとないよね。大翔君、賢いから、小さい頃から、諦めよう、大人になろうと努力してたんでしょ。

大翔 …。

浜路 でもね、たった18年じゃ、そんな大人になれないのよ。だから無理しないで。


間。


大翔 わかんねえよ。


大翔、座り込む。


大翔 ずーと我慢してきたから、もうわかんないんだよ。どうすればいいんだよ。


浜路、さらに近づく。


浜路 取り敢えず、泣けば?

大翔 は?

浜路 いろいろ溜まってるでしょ、泣くと結構整理できるよ。

大翔 いや、そんな急に言われても。

浜路 人目なら大丈夫だよ。私が死んでからここ変な寒気するって、誰も近寄ってこないの。

大翔 そういうことじゃなくて。

浜路 つべこべ言わない!ほら、おばあちゃんの胸貸してあげるから。

大翔 いやだから


大翔、立ち上がりかける。浜路、大翔に覆いかぶさるように抱きしめる。


大翔 お、おい!

浜路 今迄辛かったねえ。

大翔 !?

浜路 ずっと頑張ってきたんだねえ。偉かったねえ。でも今はね、辛いことは辛いと思っていいし、悲しいことは悲しいと思っていいんだよ。


浜路、そっと大翔の背中を叩き始める。


大翔 ………お前、う、う、ほんといくつなんだよう、う、(泣き始める。泣き方は自由。)


暗転。浜路、木の根元に座っている。下手から大翔(学生服(冬服))が歩いてくる。


浜路 久しぶり!元気だった?

大翔 まあまあ。なかなかこれなくてごめんな。

浜路 ううん。忙しかったんでしょ?

大翔 まあな。一応就職できたよ。

浜路 おめでとう。どこだっけ?

大翔 パン屋。大変だったよ、母さんに話付けるの。

浜路 でも説得できたんだ。

大翔 会ったこともない叔父さん達に頼っても急に用意出来るわけないし、向こうも困るだろって、強引に。それに、病気のこともちゃんと伝えた。案外すんなり受け入れてたよ。

浜路 そっか。

大翔 あたしが死んだらあんたも清々するでしょ。だって。人の気も知らねえで。


浜路、立ち上がる。


浜路 一個聞いてもいい?

大翔 何?

浜路 大翔君はさ、お母さんのこと、結局どう思ってるの?

大翔 …わかんない。殺したいって思う日もあったけど、あの人はあの人でいいとこあるんだ。

浜路 お母さん、そろそろ危ないんじゃないの?

大翔 うん。

浜路 じゃあその気持ちをちゃんと伝えなきゃ。

大翔 え?

浜路 大翔君のお母さんに対する気持ち、伝えないと。

大翔 いいよ、今更。


大翔、浜路に背を向ける。浜路、また座る。


浜路 私さあ、子供3人いたんだ。上に男の子二人で下女の子。


大翔、振り返る。


浜路 私自身親とそんなうまくいってなかったから、絶対子供は幸せにするっぞって思ってたんだけど、いかんせん家、病院でさ、気づいたら後継を育てなきゃって必死になってた。

大翔 …。

浜路 娘にはしっかりした結婚をって思ってたけど、気づいたら出て行かれてた…息子二人は医者になったけど、だんだん冷たくなっててね、旦那が死んでからは、自分が今迄どう子供達と会話してたのか、思い出せなかったよ。

大翔 …。

浜路 私のこと恨んでるかな?それともまだ愛してくれてるかな?そう考えたら、今度は両親のことも思い出してきてね。もしかしたら、私に嫌われてるって思って死んだかもしれない。

大翔 …。

浜路 わからないって、結構辛いのよ。だから、大翔にはその連鎖を断ち切って欲しいの。

大翔 連鎖?

浜路 私の代わりに、あの子を救って。

大翔 あの子って、え!


大翔、浜路が見えなくなる。浜路、腕が透けてきている。


大翔 どこいったんだよ浜路!おい!おい!!つうかお前結局いくつだよ!!…はあ、わかったよ。


大翔、下手へ歩き出す。浜路、少し遅れてついて行く。FO。下手にスポットライト。母の病室。大翔、下手から登場。椅子を取り出し座る。その後上手にスポットライト。浜路が出てくる。


大翔 よ、母さん。ああ、無理すんなよ。起き上がれねええんだろ。

浜路(二人には見えていないし聞こえていない)久しぶり、幸子、元気だった?ってそんなわけないか。

大翔 ちょっと話したいことあってさ。邪魔せず聞けよ。

浜路 もう聞こえないかもしれないけど、話したいことがあるんだ。

大翔 母さんさ、何で俺が食品の高校行ったか知ってた?

浜路 何で私があなたが医大いくの反対してたかわかってた?

大翔 あんときはさっさと就職するのに最適だからって言ってたけど。

浜路 あの時は女は大学に行っても嫁に行かすだけだから無駄って言ったけど。

大翔 ほんとは、ただ料理好きだったんだよ。

浜路 本当は嫉妬してたのかもしれない。

大翔 小学生の時、母さんが褒めてくれてからずっと。

浜路 私も本当は大学に行きたかったのよ。

大翔 でもそんなこと言えなかった。

浜路 言えるわけがなかった。

大翔 それを否定されるのが怖かったから。

浜路 戦時中だったからね。

大翔 母さんにまた美味しいって言ってもらいたかっただけなんだ。

浜路 あなたが羨ましかったのかもね。

大翔 ねえ、母さん。母さんは母さんで辛い人生だったかもしれない。

浜路 あなたには苦労ばっかりかけたわね。

大翔 でも頼むよ。

浜路 でもお願い。

大翔 浜路 死なないで。


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