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勇者ご一行は全部俺!  作者: 塚禎 壱
7/11

6 山地の商人1

モンスター体(クリス)が山岳地帯に移動してから3ヶ月経過したが、距離は大して進んでいない。多分、移動だけなら10日程度で戻れる距離だ。通常の10倍以上時間をかけて慎重に周囲を探索しながら進んでいる。

理由は山岳地帯の凶悪なモンスターの多さと食糧の少なさが原因だ。

山岳地帯の洞窟には食べられるモンスターが時々居るが、それ以外普通は食べられないような硬い甲羅を持つモンスターやワイバーンのように空を飛ぶモンスターが主流なのだ。


したがって、地形を把握しても腹が減ったら元の森の方に戻るようにしている。

すでに2度戻ったが、3度は戻れない。何しろ、洞窟の非常食(モンスター)を減らしてしまったから。


なので、この3度目は腹が減っても先に進むつもりで先を急いでいる。

3度目の移動開始から実に20日目、絶食4日目にして山岳地帯の湖を発見した。

小さいが森もあり、休憩できそうな雰囲気だ。


「やっと少し休める」


水を飲み、休んでいる間にも他の体の勉強をさせなければいけない。

特に3度目の移動は夜だけでなく、昼も移動したり偵察したりするくらい本気だったので、他の体は四六時中白昼夢を見ているような状態だ。エルフ体(ルオーナ)が医者に連れて行かれるくらいなので、これ以上の放置はまずい。

まぁ、そのおかげでこうして別の地域に生活を移せたわけだが。


おれは湖に映る自分の姿を見た。改めて、大きくなったと思う。

モンスター体(クリス)の体は下半身がヘビで腰の辺りから三又に分かれた怪物だ。

左右の2本がヘビ頭で真ん中の1本が人の上半身だ。フォークの先、左右がヘビで真ん中に人の上半身が生えているようなイメージになる。

この3ヶ月ほどでその人間部分が、ずいぶんと人間らしい姿へと成長した。

髪の毛も眉毛も変わらずニセモノだが、動きは人間そのもので、感触的に骨も人間と同じ位置にある。それに伴い、だんだんと人の言葉まで喋れるようになってきた。

実に不思議だ。ただ爪だけは人間離れした長さと鋭さなので、手で何か作業するときに注意しないと自分の爪でケガをしてしまう。


湖で一服した後、おれは食べ物を探して湖をぐるりと周回することにした。

時刻は昼下がり。まだ、モンスター体(クリス)は寝ていてもいい時間であるが、知らない土地の夜は獲物が狩りづらい。遠くの獲物を見つけるなら、明るい時間帯がいい。


「食い物、食い物」


ふと、見ると、一匹だけのヘルハウンドが居た。


「ぎゃいん!」


「エッモーノ!エッモーノー!」


予備動作なしで左のヘビ頭で首の辺りを捉え、歓喜の声と共に右のヘビ頭でヘルハウンドを頭から丸呑みにした。

モンスター体(クリス)はおれが思うより腹を減らしていたらしい。

しかし、ヘルハウンドは通常群れで動くのに珍しい。

加えて、こいつは後ろ足をケガしていた。

普通はありえない幸運が転がってきている。

そんな非常にレアな、大げさに言うと奇跡的な獲物だが、何故かもう一匹怪我したヘルハウンドが居た。


「ぎゃいん!」


「ザッツ、ライトォー!」


弱肉強食の世界だ。

おれは何の疑問も持たず、食欲の赴くままもう一匹のヘルハウンドを食べた。

今度は左のヘビ頭で飲み込んだ。


これでしばらく大丈夫だ。ラミアの腹は3つあるようなものだが別に人型のところで食べる必要はない。だが、口寂しいというか、何か口に入れたい衝動はある。

ふと、さっきのヘルハウンドが口から何か落としたらしいものが見えた。


どうみても人間の手である。


「・・・」


一瞬食べ物かと思って伸ばした手を引っ込める。

人は食べない。人というか、ヒューマ、エルフ、ヴァイパーの3種族は少なくとも食べない。他にも人に近い生き物が居れば食べようと思わない。生まれ変わったとはいえ、道徳観が変わったわけでもないし、そもそも4種族としておれが存在している以上、誰かの仲間や知り合いの可能性だってあるのだ。

前にリザードマンの死体を魔石が目的で少し食べたが、思い起こせばあれも良くなかった。食糧に困らない限り今後は手を出すまい。

リザードマンが話せる相手とは思わないが、絶対に分かり合えないとも言い切れない。

まぁ、とにかく道徳観というものと深く向き合いながら食事する事態は自分の精神力をけずるので、避けうる幸運を得た今に手を出すべきではないのだ。


しかし、この手の持ち主はどうしたのだろうか。


当然、ヘルハウンドの群れと戦い、死んだか、腕を失ったのだろう。


「!?」


さっと周囲を観察する。

おれの進路に対して直角方向、この山間の湖から外れて2kmほど先で土煙が上がっている。

このヘルハウンド群れと誰かはまだ戦っているのだ。

おれは襲われているであろう人を助けるべく戦場へ急いだ。

モンスター体(クリス)の姿では敵とみなされると分かっているものの、行かずには居られなかった。


追いついたその場所は水気がなく、植物が少ない荒地で、地形も険しい。

その一角で、一人の商人らしき男が岩壁を背に荷車を燃やしてヘルハウンドを凌いでいた。

対するヘルハウンドは逃がさぬように3匹が囲んでいて、残りのヘルハウンドは護衛と思われる人2人と馬1頭の死体を食らっている。すでに生存者は1名のみのようだ。

対して、ヘルハウンドは10匹よりは少ないが、腹を空かせているようで、残っている生存者も逃がす気はないらしい。


(馬の数が足らないな…)


あの男が逃がした馬がおそらくどこかにいるのだろうが、今は見えない。

ヘルハウンドは慎重な狩人だ。

あの荷車が燃え尽きたときが、あの男の最期になるだろう。


(10匹は一度に相手にしたら厳しいな)


ヘルハウンドの1匹がこちらに気づいたようだが、おれは無視して食事中のやつらに左のヘビ頭で毒ブレスの先制攻撃をかました。


「キシャァアアアア」


すかさずこちらに気づいていた1匹が噛み付きにくるが、こちらのヘビ頭は2つある。

空いている右ヘビ頭でヘルハウンド首にかみつき、ぶん回して2匹目以降のヘルハウンドを蹴散らす。


「ガルルッ!」

「ガウガウ!」

「ギャイン!」


あっという間に壮絶な乱戦に発展した。

毒ブレスを吐いている左のヘビ頭を狙ってくるやつを右のヘビ頭ではじき返し、毒ブレスを回避して回りこんで来る1匹は尻尾で跳ね飛ばした。

だが、跳ね飛ばしたときに2匹のヘルハウンドが尻尾に食らいついてしまった。


「イッテェナ!」


尻尾と二つの頭だけでは、手数が足らない。

人型で尻尾に噛み付いた2匹のヘルハウンドの片方の顔をズタズタに引っかいた。

思いのほか深く入って、死んではいないものの戦闘不能になった。


普段、お互いに戦闘を避けるほど実力が拮抗していると思ったのは間違いではなかった。

今回はこちらから仕掛けたのであちらも獲物を毒液まみれにしたので、やつらは怒っている。ケガしても簡単には引き下がらないだろう。


「キシャァアアアア」


左のヘビ頭で2発目の毒ブレスをかましたが、不意打ちのときとは違いほとんど当たらない。だが、距離を取ってくれた隙に人型で尻尾に噛み付いているもう一匹を攻撃し、追い払う。

ついで距離を取っていたヘルハウンドが、ブレスが止んだタイミングで飛び掛ってくる。

おれは右のヘビ頭で掴んでいたヘルハウンドを投げ捨て、先頭の一際大きい一頭にかみつくが、こいつは体をひねって牙をかわしてきた。だが、ヘビ頭そのものはかわせていないので、体当たりのような形ではじき飛ばす。

だが別の2匹が、こちらの人型の胴と腕に噛み付いてくる。


「ウオオオオオオ!」


おれはすんでのところで腕への噛み付きを爪で迎撃して落とし、胴へ噛み付いた奴は喉元を一撃して絶命させた。


(人型の部分は柔らかい。胴に受けた傷が一番深いな)


ヘルハウンドの牙が胴に空けた穴は小さいが確実に出血をしている。

ヘルハウンドたちは胴への攻撃が効いたのを見て取り、距離を開けて胴狙いの一撃離脱を始めた。


「ガアア!」

「「キシャー!」」


おれはおたけびを上げて攻めに出た。

毒ブレスで弱ったヘルハウンドを狙い、殺す。

強いヘルハウンドは弾いたり、牽制したりして寄せない。

ヘビ頭や尻尾にかみついた奴地面に叩きつけ、人型は傷口を抑えて防御に徹する。


ヘルハウンドの数は残り6匹。うち3匹は重傷を負わせている。

実質残り3匹だ。その残り3匹も傷だらけだ。こちらも傷だらけだが。


おれはヘルハウンド2匹の死体をヘビ頭でくわえ、人の死体を尻尾でこちらに寄せたのち、馬の死体をヘルハウンドのほうに押しやる。


馬の方には毒ブレスが掛かっていない。

これで引き下がらないなら、皆殺しにするだけだ。


「ガルル…」

「グルル…」

「クゥーン…」


何匹かが耳をぺたりとさせている。

もうこれ以上は戦いたくないという意思表示だ。


商人はとっく遠くに逃げたと思いきや、いつの間にか馬と合流し、かなり遠くからこちらを伺っている。


「オーイ!チョット話そうゼ」


ヒューマ語で語りかけてみる。

商人はおそるおそる近づいてくる。

ヘルハウンドはちらりとそちらを見た後、こちらを見るが、気にせず、食事を始めた。


「助けていただき、ありがとうございます。失礼ですが、名のあるケッツァーの方でしょうか?」


その商人の青年は話始めた。ヘルハウンドとおれ(・・)から逃げられるギリギリぐらいの距離で。


「ケッツァー?トハ?」


おれは距離を取った商人の青年にむしろ好感を持ちつつ、問いかけた。

商人の青年はちょっととまどいつつ説明を始める。


「ケッツァーというのは、特殊な能力をもつ人のことです。例えば、ヒューマなのに、ヴァイパーの魔法が使えたり、ゴブリンなのにヒューマ語を話したり、修練で身に着けた訳でもなく、不思議な技がつかえる人のことです。その、違ったらすみませんが・・・、あなたはモンスターですよね?」


「ああ、ソウダ」


おそるおそる問いかけてくる青年におれは答える。

むしろこの姿でモンスター以外ということもあるのだろうか。異世界だから、あるかもしれない。


「その、モンスターというのは通常、縄張りの中に人が入り込むと異種でも共闘して襲い掛かる習性があるのです。ですから、あなたのように人を助けることはないんです。ですから、あなたはケッツァーのはずです」


「ホウ。チナミに、ケッツァーというのはドレクライの数存在するンダ?」


「いえ、あまり口外されない方も多いですので、数は…分からないですね。でも、名の通ったケッツァーだけでも50人くらい居ると思います。トラスト様を始め、各国の王は皆特殊な能力を持つケッツァーだと言われておりますし」


「国!ソウ、オレはこのアタリノ地理についても知リタイのだ」


「あのう、それはかまいませんが、まずはお名前を教えていただいても?」


「ム。名前ネ…。クリス、とイウ。アナタの名前ハ?」


モンスター体(クリス)の名前、考えておいて良かった。

心底そんなことを考えながら、相手の名前を聞く。


「クリスさん、ですね。ランディと申します。旅商人をしています」


ランディね、ランディ。荒っぽそうな名前に反して線の細い感じの青年だ。

そんなに堅苦しい話し方じゃなくてもいいんだけどな。


「ところで…、そのう…。我々は肉が少なく、あまり美味しくないので、食べるのはそちらのヘルハウンドだけにしていただければ、そちらは私が土に返したいのですが…!」


死んでいる2人を指差す。顔を赤くしたり、青くしたりしながら、直接的な表現を避けているものの、仲間を埋葬したいと進言している。

一般に獲物を横取りされた猛獣はおそろしい。だから、おれが怒り出すかもしれないから、気になっているものの言い出せなかったのだろう。力関係が無ければ、仲良くできそうなんだが、無理もないかと思う。おれがリザードマンや黒騎士と仲良くできる気がしないと同じだろう。

「モチロン、おれハ食べない。ダカラ、埋葬したいナラかまわない。ダガ、毒ガ掛かってイルカラ、触ルノハやめてオイタ方がイイ」


それから二人の遺品というか装備品を外したり、火葬したりする作業をして、少し空気がやわらいだ気がした。

おれが胴の傷の血が止まらないので、そこいらの植物を使おうとしていたら、ランディは包帯を分けてくれた。


「こんなのはお礼のうちにも入りません」


さすがにかいがいしく包帯を巻いてくれるようなことはなかったが。

おれは少し調子に乗って、武器と鎧が欲しいと言ったら、少し戸惑った顔をしつつも、持って帰るつもりはありませんからどうぞ、と言われたのでありがたく貰うことにした。その代わりにヘルハウンドの毛皮をあげることにした。

肉は残り火で焼き肉と干し肉にした。

途中でおれが薪をひろってくる間に居なくなるかな、とも思ったが、ふつうに待っていてくれた。


(ふむ。モンスターで人と少しずつでも仲良くなれると、胸が熱くなるな)


おれはモンスター体(クリス)の硬い頬が緩むのを感じた。


この商人の話はもう一話続きます。

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