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勇者ご一行は全部俺!  作者: 塚禎 壱
3/11

2 体の位置

モンスター体のおれが腹いっぱいでゴロゴロしている中、他の体の把握に努めた。

と言っても、ほとんどがお乳を飲んで寝るぐらい。

体を起こすことはもちろん、寝返りも打てない。


(やる気に満ち溢れているのに、何もできることがない…)


なんというか、やる気があるのに、何もできないというのは非常につらい。

今、動くのはわずかに手足と目と耳だけだ。

ただ、目は徐々に見えるようになってきたため、どの体がどれか分かってきた。


ヴァイパー体は悪魔や鬼に近い姿をもつ。だから、割とすぐに分かった。

なぜなら、自分の父親の額に赤くぶっとい角があったのだ。

おかげで、ああ、これがヴァイパーという種族かと思ったのだ。

母親には牛のように短い角が2本、頭の横から生えている。

ほおずりするときに当てないように注意しているのが分かる。

家具はかなり立派で洋服の布地も厚い。意外と良い家柄のようだ。


次に分かったのがエルフ体だ。

耳がなんとなく尖っている程度で自信は無かったが、家具が木製のものばかりだし、何やら妖精のようなものがそこいらを飛んでいるし、髪の色が緑がかっているし、いかにもエルフらしい要素が揃っている。

エルフ体の家族は皆おっとりしていて、食事ものんびりとしている。

エルフは種族的に寿命が長いので、そのせいかもしれない。


そして消去法で残ったのが、ヒューマ体だ。

ヒューマ体は肌の色は褐色だが、目鼻立ちは割りとくっきりしている感じだ。

兄弟が多いようで、この家は他の2体より騒がしく、そして家柄的にはどうも貧乏そうだった。

両親や兄弟は皆、日に焼けて黒く健康的だが、痩せ気味だ。

窓にはガラスが無く、代わりにすだれがかかっている。

これだけなら気候のせいかもしれないが、赤ちゃんにかかっている布に穴が開いていたり、布を継ぎ足したりしている点と子供が畑仕事をしたり、家事をしたりしている点がどうにも豊かな家柄でなさそうな根拠だ。

いや別に許容範囲の貧乏さだと思うけどね。

ここと比べると貴族のようなヴァイパー体の家を見た後だとちょっとだけ、しょんぼりする。

いずれは家を出る予定ではあるが、成長するまでは立派に育てていただきたい。


とりあえず、4体の識別ができるようになったのが、一つ前進だった。

相変わらず、周囲では複数の言語が入り乱れている。


(おれ、将来は3言語とも話せるようになるだろうか)


転生前は、言語の勉強は可も無く不可もなくだが、旅行先で使おうとして通じなくて四苦八苦した記憶がよみがえる。


(なるべく人の話声を聞くようにしよう)


転生前に見たチラシで「聞き流しているだけだったのに、いつの間にか分かるようになった!」みたいなキャッチコピーがあった気がする。

とりあえず耳慣れしよう。


それから数日が経過し、モンスター体のほうも大分消化が進んで、体が動くようになっている。


(あのウサギモンスターを倒したおかげで体がひとまわりどころか、ふたまわりくらい大きくなっている)


そうなのだ。まだ生後5日くらいなのに、かなりの成長ぶりだった。


(この調子で成長したら、おとき話の大蛇みたいになるかも)


うきうきとエサを探して狩る。

他のことを考えていても成長したおれは素早く動けた。もはや、カエルに逃げられたりはしない。


当面の目的は、モンスター体の強化だ。

他の体は今のところ言語習得に鋭意努力する以外に思いつかない。


しゅるしゅると周囲の森を散策する。

生まれた場所のそばの背の高い木に登る。


(なんか、ヘビって木に登れるイメージがないけど…)


体を木に巻きつけ、上半身側を固定、下半身側も巻きつけて固定、上半身を緩めて上に伸ばすという作業で、思いのほかスルスルと登れる。


(やっぱり上から地形を確認するのがいいね)


ヘビというのは案外と木登りに向いているかもしれない。

まぁ、木に登っても食べるものは無さそうな上に、空には明らかにモンスターと思われる生き物が飛んでいる。


(当面は空から良く見える場所は避けよう)


そんなことを心に留めておく。

ぐるりと周囲を見渡すとかなり広い森が広がっていた。

森の切れ目で一番近いのが西だ。西の森の切れ目の先には湿地帯が広がっていて、その先に丘が見える。丘に何かあるようだったが、この目ではそこまでは分からなかった。次に森の切れ目があるのが北で、でっかい山脈が見える。飛行型モンスターの巣もあちら側だ。

東と南はずっと森だった。目立つのは南側の大きな湿地帯だ。

距離は西の湿地帯と同じくらいの距離だが、こちらはずっと大きい。

あとは、ところどころに山、池、川があるくらいでずっと森だ。


(感じる。他の体の場所…。)


最近、感覚だが、4つの体の場所がどの位置関係にあるか分かるようになった。

モンスター体の北、山脈の向こうにヴァイパー体がある。

モンスター体の南、大きな湿地帯の奥の森の、そのまた向こうにエルフ体がある。

モンスター体の西、はるか先にヒューマ体がある。


(距離は、ヴァイパー体、エルフ体、ヒューマ体の順になるな)


すぐに合流する必要はない。というか、全ての体が自分で旅に出られる程度まで成長させないと合流はできない。


(モンスター体で街に近づいたら、きっと殺されるだろうし。人型モンスターならまだ誤魔化しようがあるけどな。この姿で街に入ろうと思ったら、ペットで通るかどうか…)


どうにも無理そうだが、今は気に病んでもしょうがない。

ぐるぐると見回して、近くに岩場があることに気づいた。

木を降りて、岩場を見て回る。ヘビモンスターならば出入り自由な細い隙間ばかりで、外敵の侵入は難しい。なかなか良さそうな物件だ。


(ここを当面の本拠地としよう)


中には広めの空洞があるため、入り口さえ通れば、腹がパンパンな状態でも大丈夫だろう。

とりあえず、先客のヘビやらネズミやらは美味しくいただく。


当面の目標は強くなることだ。

できたら、このあたりの森で一番強くなりたい。


後はエルフ体とヴァイパー体で何ができるか確認したい。

事前知識によれば、魔法が使えるはずなのだ。


~転生1ヶ月後~


予想はしていたが、普通の獲物を狩り続けてもモンスター体はほとんど成長しなかった。一応2回は脱皮したけれど、凶悪ウサギ1匹で2回脱皮したときに比べると明らかに成長が小さい。

どうやら、モンスターを倒さないと急激な成長にならないらしい。

だが、こないだの凶悪ウサギみたいなのは成長した今でもかなりの危険度だ。

もう少し狩り易い獲物を探したい。


この1ヶ月散歩してみた感じでは、湿地に棲息せいそくするスライムっぽい奴と自分と同じヘビっぽい奴、それとウサギっぽい奴の3種類が下位モンスターのようだ。


巨大植物のモンスター、大型の狼のモンスター、多頭のヘビ(ヒュドラ?)のモンスターが上位モンスターのようだった。こいつらは見かけ次第、全力で、脱兎のごとく逃げ出した。


1度だけみたリザードマンたちはモンスターかどうか分からなかった。

知能がありそうだったが、魂の管理者のおっさんが言っていたのは4種族で、リザードマンは入っていない。


(西と南の湿地帯は、リザードマンの巣かもしれないな)


リザードマンたちは群れで行動する。

単独での戦闘はもちろん、逃げることも難しい。

今、もっとも避けている相手だ。


下位モンスターの1種、スライムは偶然出会って1匹だけ食べたが、なかなか美味しかった。もっと食べたいがリザードマンの棲む湿地帯の方に棲息しているため、狩りたくても狩れない。


しょうがないので、モンスターウサギを狩るための方法を研究することにして、おれは本拠地に戻った。


~転生2ヵ月後~


ここのところ来る日も来る日もウサギ狩りに精を出した。

最初は何度もケガをし、狩りができない日を作る失敗を重ねてきた。

だが、ついに、おれはケガを負わずにウサギを狩る方法を確立した。


名付けて、木の上から奇襲作戦。


最近、体が大きくなったので、木の枝からウサギの頭にキバが届くようになったことと、ウサギを空中に吊るだけの筋力がついたことで実現するようになった。


ウサギの足跡やフンを探し、近くの木に登る。

そして、ウサギがその木の近くを通ったら、尻尾を枝に巻きつけた状態で、一気に落下し、ウサギの首筋に噛み付く。最初の一撃が当たったら、そのまま持ち上げて宙吊りにしてしまえば、ウサギがどれだけ暴れてようとも攻撃はこちらに届かず、やがて麻痺毒でうごかなくなる。最初の一撃を外したら、そのまま木の上に避難だ。


ここ1週間くらいは特に好調で、5匹も狩った。

最近はほぼ1日寝るだけでウサギ1匹を消化できるまでに成長している。

(今日も1匹狩りたいな)


だが、最近狩りまくったせいで、本拠地周辺にはあまりウサギが居ない。

しかたなく森の東側に索敵範囲を広げていると、妙なモンスターを見つけた。

クマみたいな大きさで、時折2本足で立つけど、耳はウサギの耳。


(あいつらのボスみたいなやつか?)


おれはこのとき少々侮っていた。

ちょっとデカいだけだと。


いつも通り、ひゅっと奇襲をし、噛み付いたが、すぐに異変に気づいた。

首ではなく、腕に噛み付いている。


(防がれた!しかも持ち上げられない!)


奴は噛まれている腕を力づくで振りほどこうとしてくる。


(すごいパワー!体がひきちぎれる)


おれは苦しさに負けて、キバを外した。

ひゅごぉっ!

凄まじい風切り音を立てて、目の前を爪が通り過ぎる。

キバを外して頭を戻していたことで運よく奴の爪をかわすことができた。


(うげ!一瞬遅かったら、頭が無くなっていた!)


また背筋が寒く恐怖を感じながら木の上に退避したが、なんと、そいつは木に登ってくるのだ。


(マジでクマなんじゃね、こいつ!?)


急いで木の上に登る。


おれは必死で隣の木に移れる枝を捜して移動し続けた。

クマ型ウサギモンスターは巨体なため、細い枝を渡れない。


だが、都度、下に降りて、別の木に登り直してくる。


(なんてしつこい奴!)


だが、捕まれば死ぬ。おれは逃げ道が無くならないように注意しながら、逃げ続けた。

半日ほどしたころ、ようやく奴はこちらを見失ったようで、きょろきょろしながら別の木の方に行った。まるで、生きた心地はしなかった。


今回もお付き合いありがとうございます。


年末年始の執筆活動ってちょっと厳しいですね。

家族とだんらんしつつ、暇を見てスマホでアイディアだけメモろうかな…。


ともあれ、皆様よいお年を~


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