1 転生直後
なんか、サブタイトルって難しいですね。
今はこれかな、と思っていますが、出来上がってきたら修正するかも。。
今朝の目覚めは最悪だった。
寝苦しく、騒がしく、体もしんどいのに、ひどい空腹だった。
「ほぎゃー。ほぎゃー」
「あうー。あうー」
「びやー。びやー」
頭の中に泣き声の3重奏が響き渡る。
酷くうっとうしいが、泣きたい気持ちが強くなると、泣き声は一層大きくなった。
どうも、おれが泣いているようだ。
「Hei, hei! Chuyo koos hea tüdrukuga」
「ฉันจะเตรียมข้าว」
「Это очень мило, как ты.」
しかも、外国の人がいっぱいいる。
全員が同時に話すものだから、そうそうに理解を放棄した。
ここはどこだ? おれはどうなったのだ?
そういえば、転生するとか、神様みたいなおっさんとか、夢に出てきたなと、
うすぼんやり思い出していた。
いやいや。あれは夢ではなかったのだ。
その証拠に、実際に3つの知らない言語が飛び交っている。そして、それらを全部違う耳が聞いているのだ。
全ての目を開くと、世界が4つあった。
ディスプレイが4つあるように、4つの世界が同時に見えた。
うち3つは人が近くに居るようだが、ぼやけてよく分からない。
残りの1つは森の中だ。
特に森の中の方は、色が無い、白黒画像だ。
そういえば、犬は色が分からないとかそういう話があったから、多分そういう体なのだろう、と変に納得した。
おれが転生した4種族。ヒューマ、エルフ、ヴァイパー、モンスター。
魂の管理者のおっさんは言葉では説明しなかったが、こちらの頭に情報が流れ込んでいる。
ヒューマはまんま人間の姿で、エルフはゲームとかに出てくるキャラ同様に耳が尖っている。ヴァイパーは悪魔とか鬼とか怖ろしげな姿のものに人間を足して2で割ったような姿で、モンスターはまんまモンスターだ。種族というのか、ちょっと微妙だが。
そして、モンスターのおれは視覚が弱く、色が認識できないようだ。
耳も聞こえるが、人に比べるとノイズ混じりで聞こえが悪い感じがした。
不思議と周りに何があるか分かるので、目や耳以外の感覚が優れているのかもしれない。
4つの映像を順々に集中すると、4つの身体の感覚が少しずつ伝わってくる。
どこがどこかはまだ良く分からない。説明するなら、足の指の一本一本が手足のようなもので何かあいまいな感じであり、”縮める”と”緩める”くらいにしか操作できない状態だった。
だというのに、空腹と眠気は激しく感じる。
さっきから4体分の空腹欲求と睡眠欲求で頭がくらくらして、あまり考えがまとまらない。
のっけからこれはしんどいな、とおれは思った。
転生直後で少しでも情報が欲しいのに、言葉は理解できず、体は思い通りに動かず、あたまも回らない。
まずはできるところからしよう。
お腹を満たして、睡眠を取ってから考えよう。
2つの身体はおっぱいをもらっている。残りの1つもじきに腹いっぱいにさせてもらえるだろう。
問題はモンスターの体のほうだな。
ぐるぐると動かしてみて気づく。生まれた直後のくせに体の動きと感覚がするどい。
でも、手足が無い。チロチロと舌が出る。
(これは、ヘビみたいだな)
ヘビ型モンスターだ。
周囲をさっと確認してみると、自分が出てきたらしい卵の殻がある。
何故か、おいしそうな気がした。
(自分の卵の殻を食べる流れ…か?)
パリパリと食べてみると、悪くない味がした。
なんで肉食系のモンスターなんだろう。
草食系モンスターだったら、楽にエサが食えるのに。
しかも、卵生だと親に面倒をみてもらうこともできない。
前世は草食系男子だったから、草食でよかったのにな。でも、草食系って自分で認めるのもちょっと癪だな。ちょっと奥手…いや慎重なタイプだっただけ…。
益体も無いことを考えて現実逃避しても卵の殻だけではお腹いっぱいにはならない。
エサを獲らないと駄目そうだ。
ヘビ型モンスター。どう見ても雑魚モンスターだ。
サイズも周りの植物から考えると50cm程度しかない。
生まれたばかりにしては大きいが、カエルかネズミくらいしか狩れそうに見えない。
パリパリと卵の殻を食べつくすと唸った。
森の中を這いずり回ると、カエルやネズミがいることはいるようだった。
だが、ヘビの体は酷く遅かった。とても追いかけっこは出来そうにない。
(こっそり近づいて丸呑みにするしかないのか?)
おれはヘビの体をうねうねとさせてネズミにせまる。
これが噂のスネークというやつか?と話しにだけ聞いた某ゲームキャラを思い出した。
だが、ネズミは止まっていてくれない。
ちょろちょろ動き回り、いつまでも距離が縮まらない。
駄目だ。この体ではまるで追いつけない。
おれはネズミをあきらめて、ひなたぼっこをしているカエルを狙うことにした。
シュルシュル、シュルシュルっと擦り寄り、あとひと息というところまできたとき、
体に異変を感じて、おれは飛び上がった。
残りの3つの体のうちのどれかが急に体を持ち上げられたのだ。
うげげ、今持ち上げなくてもいいのに。多分、お乳を貰っていなかった赤ちゃんだろう。
別の体の情報に気をとられているうちにカエルはぴょーんと逃げていってしまった。
やばいな、これ。
狩りの最中に急に体を触れると、少なからずビクッとしてしまう。
なるべく他の体が寝ているときに集中的に狩りをする必要がありそうだ。
まだ、一匹も狩れていないけど。
とりあえず、赤ちゃんの方を操作しお乳を飲んでおく。
なんか授乳されるのって恥ずかしいなーと脳の片隅で考えつつ、モンスターの体を移動させて次なる獲物を探す。じっとしているのは時間の無駄だ。
赤ん坊の方は、どの子もまだ体の動かし方は身についていないが、本能的なものでお乳を飲む動作を分かる。だが、飲むこと事態は意識して行う必要があった。
なんか、気を抜くと途中で寝てしまいそうだった。
途中で寝たら、さっきみたいに体を揺さぶられて起こされるだろう。
そうすると、モンスターの体の行動にも支障が出る。
いちいち○○の体というのも言いづらいので、今度から○○体と略すことにしよう。あまり短くないけど。
気を取り直して、赤ちゃん体を操作した。
生理現象をこなし、昼寝をする。
寝ている間はほとんど刺激がこない。
全く無いわけではなく、相変わらず別世界の言語が時折聞こえてくるが、体側が睡眠状態だと、コントロール側に伝わる情報が極端に減るようだった。
つと、モンスター体の感覚に何かあった。
見ると、小さめのウサギがいた。
ただ、ウサギにしては凶悪な面構えで、ボリボリとネズミを食っていた。
(あれ?ウサギって肉食だっけ?)
前足にも後ろ足にも黒い鉤爪が付いている。目は細く、尻尾にトゲがついている。
口にはウサギらしからぬキバが見える。ただ、耳だけは長いウサギ耳だった。
(こいつ、モンスターじゃん!)
そのとき、凶悪ウサギがこっちを見た。
とっさに身を固めてみたが、遮蔽物がない。しかも、緑色の体が茶色の地面を這っていて、保護色にもなっていなかった。
あ、これは失敗だったな、と反省したが、目を逸らしたり後ろを見せたりする行為はモンスター体の本能が拒否した。
恐怖でひやっとするような感覚に襲われながら、ゆっくりと後退する。
だが、凶悪ウサギはペッ、とネズミのしっぽを吐き捨ててこちらに襲い掛かってきた。
凶悪ウサギの飛びかかり攻撃が少し大きい。
おれは下がらずに前進した。
もともと地を這うヘビだ。飛びかかり攻撃の下を潜り抜けるのはたやすい。
おれは着地後を狙おうとして、ウサギの狙いが後ろ蹴りと気づいた。
ざばっ!と土が飛ぶ。
(ふぉー!あぶねー!)
おれは間一髪かわし、ウサギの後ろ足に食らい着いた。
ウサギのもう一方の後ろ足に蹴られないようにしつつ、かみつづけた。
ブルンブルン振り回されて体を地面や木にぶつけられた。
(いってぇぇええ!)
すげぇ痛い。だが、このかみつき攻撃を解いたら、もうチャンスはない。
おれは必死でかみつき攻撃を継続した。
すると、おれの口からは何かが出てきた。
すわ血か、とも思ったが、そうでもない。何か刺激臭がする。
麻痺の毒、と脳裏にひらめく。どうもモンスター体の本能として自分の能力が分かるらしい。
はっきりと分かるわけではなく、なんとなくだが。
そして理解した。痛みはリアルで、環境はファンタジーの世界だ。
生まれた瞬間から同じサイズの野生動物よりはるかに強い身体能力がある。
普通のヘビでは逆立ちしてもこの凶悪ウサギには勝てない。
またモンスターには急所となる魔石が体にあるらしい。
おれの体では頭部のようだ。
ウサギが麻痺毒で動かなくなってから、首も噛んでおいた。
魔石の位置は首ではなさそうだが、そこは血を流しすぎても死ぬと踏んだ。
(勝った!)
嬉しいのとお腹すいたのがあるが、コレ食べられるんだろうか。
どう見てもこのモンスターウサギの体はモンスター体のおれより大きい、だが、本能が魔石部位を食らえと告げてくる。この場合は丸呑みだろう。
テレビでしか見たことが無かったが、ヘビは獲物を絞め殺し、骨を砕くと、アゴを外し、自分の胴回りよりはるかに大きい獲物を丸呑みにするのだ。
同じ作業をやったが、ひどく時間がかかる。飲み込むまでに1時間くらいかかったかも。
ちなみに他の体のほうもちょっとした騒ぎになっていた。
モンスター体が攻撃を受けたとき、痛みで泣いてしまったらしい。
今はもう笑っているが、自分の体のようなのにまるでコントロールができない。
赤子の体は大変そうだ。気が重くなるのが分かる。
だいたい30年生きたのに赤子や子供をもう一度やるのがきつい。
だが、命の危険があるわけでもない。
もし、モンスター体のおれが死んだら、どうなるのだろうか。
もともとのおれの想像がそのまま実現されているなら、残りの体は連動して死んだりはしない。別個のキャラクターだ。
だが、4人そろえてパーティーを組むという夢は不可能になるだろう。
だから、1人でも死んだらその時点でゲームオーバーと言えなくもない。
少し背筋が寒くなる。
おれは、4人集まるところまで生き延びられるのだろうか。
これから、どうすべきか。
幸いにも考える時間も休む時間も今はある。
モンスター体はウサギを完全に消化するまで、何日も掛かるだろう。
腹いっぱいで苦しいと思いながら、モンスター体も寝かせることにした。
お付き合いいただき、ありがとうございます。