見殺しの予感
道彦は実況を続けていた。
バッテリーは残りわずか。
実況を続けられるはずがなかった。
だが道彦には計画があった。
道彦はたったいま自分が殺した兵士の死体を漁る。
気持ち悪いという思いはあったが死にたくないという生存本能の方が勝っていた。
男はかなりの荷物を持っていた。
男が地べたに置いたライフル、ライター、ナイフ、それに携帯電話。
タバコも必要になるかもしれないのでポケットに突っ込む。
次に道彦は携帯電話のモデルを確かめる。
「よし!」
道彦のスマートホンはキャリアショップで勧められわけもわからず使っていた韓国製である。
そして男が持っていたのも同じ機種だった。
道彦は男のスマートホンのカバーを外し、リチウムイオン電池を取り出す。
これでバッテリーは確保した。
次は武器だ。
それはゲームに出てくるような無駄にゴテゴテしたデザインだった。
それほど銃に詳しくない道彦は最近の兵器はこんなデザインなのかと納得した。
道彦は疑問を持つことなくライフルを拾おうとした。
「お、重ッ!」
重い。
10キロはあるだろう。
スーパーで売っている袋入りの米より重いのだ。
道彦が拾ったのはK-11複合型小銃。
アサルトライフルとグレネードランチャーを合わせた装備である。
そのためAK-47が重さ4.5キロなのに対して2倍強の重量なのである。
当然のように道彦は思った。
兵士というのはこんなに重いものを持って戦うのか。
無理だ。
こんな武器を訓練を受けてもいない自分が扱えるはずがない。
道彦はライフルを地面に置いた。
この判断は正しかったことが後に判明する。
しかたなく道彦は死体をさらに漁る。
尻の下に拳銃が落ちていた。
少女を犯そうとした時か、道彦に頭をかち割られたときに落としたのだろう。
そちらはライフルに比べれば軽かった。
1キロ以下だろう。
道彦は拳銃を持っていくことにした。
道彦はホルスターや服をはぎ取って装着する。
レイプ魔の服を着用するのは嫌悪感があったが、部屋着のジャージとTシャツ、それにエルフにもらったサンダルというだらしのない格好よりはマシだ。
サイズも多少ぶかぶかだが問題はなかった。
ちなみにエレインはこの間も忠実に道彦の命令を実行していた。
つまり道彦の強盗から生着替えまで全て記録されていたのだ。
だが道彦はそれを知らないし、別のことで頭がいっぱいだった。
次にどうするかだ。
村を解放するか、それとも逃げるか。
村を解放するのは兵士と戦うことになり殺される確率は跳ね上がる。
逃げるのは許されない。
子供を救うために手を汚したのだ。
もう後戻りはできない。
それに何よりも視聴者が許さないだろう。
異世界にいもしない連中に無能呼ばわりされて叩かれるのは明らかだ。
それに道彦に死んで欲しい勢力に餌をやるようなものだ。
子供を助けたことはなかったことにされ殺人の責任だけ追及されるだろう。
見殺しにされずに日本に帰っても刑務所送りにはされるに違いない。
刑務所で口封じされる可能性すらある。
だとしたら救助しかない。
兵士に見つからないように生存者を逃がすのだ。
道彦はごくりとつばを飲み込んだ。
兵士と戦うよりはマシとは言え道彦の死ぬ確率はかなり高い。
道彦はまだ死にたくない。
だからその決断は勇気が必要だった。
道彦は深呼吸をした。
そして絞り出すように言った。
「い、今から生存者の救出をします……ぼ、僕は……こ、殺されると思います。僕が死んだら視聴者の皆さんは僕が最後まで勇敢だったことを家族に伝えてください……」
もう後戻りは絶対にできない。
救助をするしかない。
少し涙が出た。
道彦は死への恐怖で胃が跳ね上がった。